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《原著論文》 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
中電病院禁煙外来における禁煙成績 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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Efficacy in smoking cessation program established in Chuden Hospital |
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《原著論文》 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
日本と台湾の歯学部学生の喫煙状況と社会的ニコチン依存度 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
稲垣幸司1, 2, 13、林 潤一郎2、丁 群展2、野口俊英2、千田 彰2、花村 肇2、森田一三2、中垣晴男2、小出龍郎2、謝 天渝4、 栗岡成人5, 13、遠藤 明6, 13、大谷哲也7, 13、天貝賢二 8, 13、原 めぐみ9, 13、Boyen Huang10、吉井千春11, 13、加濃正人12, 13
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キーワード:歯学部学生、喫煙、加濃式社会的ニコチン依存度 (KTSND)、台湾
3.結果 1)対象者の属性(表2) 年齢は、A校に比べ、T校が高く(P < 0.01)、男女比は、ほぼ同じ比率であった。喫煙者は、35名(20.5%、A校34名、男子32名、女子2名、T校男子1名)、前喫煙者9名(5.2%、A校8名、男子7名、女子1名、T校男子1名)、非喫煙者127名(74.3%)で、A校に喫煙者や前喫煙者が多かった。 喫煙者の喫煙開始年齢は、18.1 ± 2.5歳(12〜22歳)、喫煙定着年齢は、18.9 ± 1.8歳(13〜22歳)で、禁煙ステージは、無関心期5名、前熟考期13名、熟考期4名、準備期6名、不明7名で、講義後は、無関心期2名、前熟考期14名、熟考期5名、準備期9名、不明5名となった。 受動喫煙は、A校では39名(30.0%)、T校では6名(不明8名、18.2%)で、A校で高かった。また、喫煙者に限ると、受動喫煙はA校では、12名(喫煙者の35.3%)であったが、T校ではみられなかった。 2)対象者の加濃式社会的ニコチン依存度(表3) KTSND得点は、A校13.3 ± 6.4、10点以上94名(72.3%)、T校10.2 ± 4.9、10点以上22名(53.7%)で、A校が高値となった(P < 0.01)。KTSND得点は、講義後は両校とも低下し差異はなくなった(A校7.8 ± 5.7、T校7.7 ± 5.4)。また、KTSND得点は、講義前に比べ、講義後10問すべての項目で低下し、合計も講義前12.6 ± 6.2から、講義後7.7 ± 5.7へと低下した(P < 0.01)。 喫煙状況別では、講義前後で、喫煙者では、17.4 ± 5.8から10.7 ± 6.8へ、前喫煙者では、14.6 ± 4.5から9.3 ± 3.1へ、非喫煙者では、11.1 ± 5.7から6.8 ± 5.1へそれぞれ減少した(P < 0.01)。 男女別では、T校女子学生のKTSND得点は、男子学生のKTSND得点に比べ低かった(P < 0.05)が、講義後には、有意な男女差はみられなくなった。受動喫煙の有無別では、有意な差異はみられなかった。
非喫煙者127名(A校88名、T校39名)の講義前後のKTSND設問別での得点を学校別に比較した。講義前では、設問3「タバコは嗜好品である。」、設問5「喫煙によって人生が豊かになる人もいる。」および設問10「灰皿が置かれている場所は喫煙できる場所である。」で、A校がT校に比べ、高い得点を示した(設問3、5:P < 0.05、設問10:P < 0.01)。逆に、設問8「タバコは喫煙者の頭の働きを高める。」では、T校がA校に比べ、高い得点を示した(P < 0.05)。講義後では、設問10で、依然として、A校がT校に比べ、高い得点を示した(P < 0.01)。しかし、設問1「タバコを吸うこと自体が病気である。」、設問6「タバコには効用がある。」および設問8で、T校がA校に比べ、高い得点を示した(P < 0.01)。
4.考察 前述のように、2006年度厚生労働省研究班の調査では、保健医療系の学生の中で、歯学部学生の喫煙率は、男子62%、女子35%と最も高いことが報告されている9)。しかし、A校4年生の喫煙率は、26%(男子38%、女子4%)と低く、台湾のT 校6年生の喫煙率は、2%とさらに低い結果となった。本研究の喫煙率は、他の歯学部学生の喫煙率(某歯科大学1~6年生32.9 %6)、某大学歯学部5年生44.2%8))に比べ低く、某大学歯学部3、5年生19.4%7)に比べてやや高い結果となった。本研究では、限定された対象者であるため、今後は、被験者数を増して実態を把握した上で、脱タバコ教育を推進していく必要がある。 KTSNDは、単に喫煙者だけでなく、非喫煙者、前喫煙者、さらに子供達まで評価することができ、これまでに種々の対象13-24) での報告があるものの、歯学部学生を対象とした報告はない。これまでの成人に対するKTSNDの研究から、KTSND得点は、非喫煙者、前喫煙者、喫煙者の順に高くなり、非喫煙者では10~13点台、前喫煙者では12~16点台、喫煙者では16~18点台と報告されている 13, 15-21)。本研究の対象者である歯学部学生の非喫煙者、前喫煙者、喫煙者のKTSND得点は、従来の報告と同じ傾向を示し、平均得点もほぼ一致していた(表3)。 今までのKTSNDを用いた研究は、質問票としての信頼性と妥当性の研究、種々の対象や喫煙状況におけるKTSND得点の把握 13-21) 、脱タバコ講義・講演・指導の前後での得点比較 18-20) 、脱タバコ講義による経時的なKTSND得点の推移24)、禁煙外来での有用性の検討 21) 、新しい心理療法的禁煙アプローチであるリセット禁煙法25) の効果判定、喫煙関連疾患患者での試用、他のアンケートの組み合わせによる研究、KTSND小児版による小学校高学年や中学校での検討 18, 19) 、国際共同研究(韓国 22)、オーストラリア、アメリカ、カザフスタン、ウズベキスタン23)など)、以上を踏まえた質問票の改良の検討などが行われている14, 16) 。 A校とT校のKTSND得点は、全体では、A校が有意に高い得点となった。しかし、この差異は、A校には喫煙者が34名含まれているのに対して、T校には喫煙者が1名だけであることが反映された結果である。したがって、非喫煙者だけで、両校のKTSND得点を比較すると、それぞれ、A校11.6 ± 6.1(n = 88)、T校10.0 ± 4.8(n = 39)で、有意差はなくなり、従来の非喫煙者の報告された得点と類似した結果となった(表3)。そこで、同様に、非喫煙者だけで、両校のKTSND得点を設問別に比較した(表4)。その結果、喫煙を美化する設問3と設問5において、A校がT校に比べ、高い得点を示した。逆に、喫煙の合理化、正当化を示す設問8では、T校がA校に比べ、高い得点を示した。一方、講義後では、喫煙の害を否定する設問1、喫煙の合理化、正当化を示す設問6および設問8で、T校がA校に比べ、高い得点を示した。また、設問10は、講義前後とも、 A校がT校に比べ、高い得点を示した。すなわち、講義後は、両校とも、KTSNDの設問毎の得点は、かなり低下してくるため、類似しているが、講義前の設問3、10は、A校で特に高い得点の設問である。これは、タバコを嗜好品ととらえ、灰皿の設置を容認していた日本のいままでの歴史的背景を示すものと思われた。 A校では、T校に比べ、家族や同居者の喫煙による受動喫煙率が高かった(表2)。家族構成員に喫煙者のいる高校生のKTSND得点は、喫煙者のいない高校生のそれと差異はないが、家族構成員に喫煙者がいる高校生は家族構成員に喫煙者がいない高校生より喫煙経験率が高いと報告されている20)。本研究では、家族・同居者に喫煙者がいる場合の喫煙者は、A校では、12名(喫煙者の35.3%)であったが、T校ではみられなかった。すなわち、A校の家族・同居者に喫煙者がいる場合の喫煙率は30.8%に対して、家族・同居者に喫煙者がいない場合の喫煙率は24.2%となり、同様の傾向を示した。 女子大学生の非喫煙者で受動喫煙のある者の中では、親、兄弟などの家族がタバコを吸う群より、友人(P < 0.001)、恋人(P < 0.01)が喫煙する群の方がKTSND得点が有意に高く、身近な自分が好ましいと思う相手の行動や考え方に影響を受けることが指摘されている17)。しかし、本研究では、家族・同居者の喫煙の有無によるKTSND得点の差異はみられなかった。 日本と台湾の歯学部学生の喫煙状況、家族・同居者の喫煙歴(受動喫煙の有無)とKTSNDを用いた社会的ニコチン依存度の講義前後の変化を比較した。その結果、A校では、T校に比べ、家庭内での受動喫煙率や喫煙率が高く、KTSND得点もやや高値となった。しかし、脱タバコ講義により、KTSND得点は両校とも同様に低下した。したがって、歯学部学生に対して、繰り返し脱タバコに関する啓発、禁煙支援を継続することが重要と思われた。 本論文の要旨は、第72回愛知学院大学歯学会(2008年6月1日、名古屋)と第3回日本禁煙学会(2008年8月9日、広島)において発表した。なお、本研究は、2008年度の日本禁煙学会研究助成金と平成20年度厚生労働科学研究(H18-がん臨床-若手-004)の補助によって実施した。 参考文献 1) 厚生労働省:平成17年 国民健康・栄養調査結果の概要、http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/05/h0516-3a.html, Accessed For Sep 2, 2008. 2) 兼板佳孝、大井田隆:2004年日本医師会員の喫煙行動と喫煙に対する態度.日医師会誌 2005;133:505-517. 3) 日本看護協会:2006年「看護職のたばこ実態調査」報告書, http://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/2007/tabakohokoku.pdf 4) 埴岡 隆、 高谷桂子、 田中宗雄、 ほか:歯科診療の場における禁煙支援活動およびその障壁についての調査研究.口腔衛生会誌 1997;47:693-702. 5) 大森みさき、雫石 聰、埴岡 隆、ほか:日本歯周病学会評議員に対する喫煙に関する質問表調査.日歯周誌 2006;48:50-57. 6) 大森みさき、千葉 晃、笹川一郎、ほか:歯科大学学生の喫煙と健康に関する意識調査.日歯教誌 2004;20(1):250-259. 7) 古川清香、徳永 涼、阿部 智、ほか:本学学生の喫煙習慣および喫煙に関する意識調査.口病誌 2005;72(3) :201-208. 8) Miyatake Y, Isoda M, Nejima J.: Effects of Smoking Cessation Intervention Education in Dental Students. Tsurumi Univ. Dent J 2007;33(2): 47-54. 9) 林 謙治:保健医療系大学生の喫煙問題.思春期学 2008;26(1):13-16. 10) WHO: Regional Summary for the Western Pacific Region. http://www.who.int/tobacco/media/en/China.pdf 11) Wang CS, Chou P.: The prevalence and motivating factors of adolescent smoking at a rural middle school in Taiwan. Subst Use Misuse 1996;31(10):1447-1458. 12) Yang MS, Yang MJ, Liu YH, et al: Prevalence and related risk factors of licit and illicit substances use by adolescent students in southern Taiwan. Public Health 1998;112(5):347-352. 13) Yoshii C, Kano M, Isomura T, et al: An innovative questionnaire examining psychological nicotine dependence, "The Kano Test for Social Nicotine Dependence (KTSND)". J UOEH 2006;28:45-55. 14) 吉井千春、栗岡成人、加濃正人、ほか:加濃式社会的ニコチン依存度調査票(KTSND)を用いた「みやこ禁煙学会」参加者の喫煙に関する意識調査.禁煙会誌 2008;3:26-30. 15) 栗岡成人、稲垣幸司、吉井千春、ほか:加濃式社会的ニコチン依存度調査票による女子学生のタバコに対する意識調査(2006年度).禁煙会誌 2007;2:3-5. 16) 吉井千春、加濃正人、稲垣幸司、ほか:加濃式社会的ニコチン依存度調査票を用いた病院職員(福岡県内3病院)における社会的ニコチン依存の評価.禁煙会誌 2007;2:6-9. 17) 栗岡成人、吉井千春、加濃正人:女子学生のタバコに対する意識 加濃式社会的ニコチン依存度調査票Version 2による解析.京都医会誌 2007;54:181-185. 18) 遠藤 明、加濃正人、吉井千春、ほか:小学校高学年生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果.禁煙会誌 2007;2:10-12. 19) 遠藤 明、加濃正人、吉井千春、ほか:中学生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果.禁煙会誌 2008;3:48-52. 20) 遠藤 明、加濃正人、吉井千春、ほか:高校生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果.禁煙会誌 2008;3:7-10. 21) 栗岡成人、師岡康子、吉井千春、ほか:禁煙保険治療3ヵ月後の治療効果と今後の課題.禁煙会誌 2008;3:4-6. 22) Jeong JH, Choi SB, Jung WY, et al: Evaluation of social nicotine dependence using the Kano Test for Social Nicotine Dependence (KTSND-K) questionnaire in Korea. Tuberc Respir Dis 2007;62:365-373. 23) 大谷順子:加濃式社会的ニコチン依存度調査票(KTSND)を用いた大学生低学年の喫煙に対する意識調査と禁煙教育の効果ー中央アジア諸国(カザフスタン共和国とウズベキスタン共和国)と日本(九州大学)の比較調査研究ー.九州大学大学院教育学研究紀要 2007;10:97-116. 24) 竹内あゆ美、稲垣幸司、大河内ひろみ、ほか:歯科衛生士の社会的ニコチン依存度と禁煙教育の効果.日歯周誌 2008;50(3):185-192. 25) 磯村 毅:「リセット禁煙」による心理的ニコチン依存へのアプローチ.治療 2005;87:1947-1951. |
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Dental undergraduates’ smoking status and social nicotine dependence in
Japan and Taiwan - comparison between two dental schools 1. Department of Dental Hygiene, Aichi-Gakuin Junior College, Nagoya, Japan 2. School of Dentistry, Aichi-Gakuin University, Nagoya, Japan 3. Health Center, Aichi-Gakuin University, Nagoya, Japan 4. College of Dental Medicine, Kaohsiung Medical University, Kaohsiung, Taiwan 5. Department of Internal Medicine, Johoku Hospital, Kyoto, Japan 6. Endo Kikyo Children's Clinic, Hakodate, Japan 7. Department of Health Policy, National Research Institute for Child Health and Development, Tokyo, Japan 8. Division of Gastroenterology and G.I. Oncology, Ibaraki Prefectural Central Hospital and Cancer Center, Kasama, Japan 9. Department of Preventive Medicine, Faculty of Medicine, Saga University, Saga, Japan 10. School of Dentistry, University of Western Australia, Australia 11. Division of Respiratory Disease, University of Occupational and Environmental Health Japan, Kitakyushu, Japan 12. Department of Internal Medicine, Shin-Nakagawa Hospital, Yokohama, Japan 13. KTSND working group in Research Group on Smoke-Free Psychology, Japan
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《総 説》 | ||||
タクシー全面禁煙化に向けて ―タクシー車内喫煙の法的規制を― |
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キーワード:受動喫煙、禁煙タクシー、タクシー乗務員、喫煙禁止法、安全運転 要約 タクシー全面禁煙化は全国的潮流であるが、未実施の府県も残されており、解決すべき問題も少なくない。受動喫煙に安全なレベルはなく、一瞬の受動喫煙も危険であり、とりわけタクシー車内の受動喫煙被害は深刻で甚大である。タクシー全面禁煙化は何よりもタクシー乗務員の生命と健康を守るために必要である。また安全運転とタクシー乗務員の健康のために、タクシー乗務員自身の喫煙対策も必要である。タクシー関係者および医療関係者は全国のタクシー全面禁煙化に努力すべきである。そして、法律によるタクシー車内禁煙が最も簡単かつ有効な方法である。タバコ規制枠組み条約(FCTC)を誠実に遵守する義務を負う日本政府および国土交通省は可及的速やかにタクシー車内喫煙の法的規制を実施すべきである。 1.タクシー禁煙化の潮流 全国各地でタクシー全面禁煙化の動きが拡がっている。2005年4月大分タクシー協会の禁煙車全面導入を嚆矢として、2007年5月名古屋地区から全国に広まったタクシー全面禁煙化の潮流は、次々と連鎖反応を引き起こし、今年1月からは東京都でも全面禁煙化が実施され、タクシー全面禁煙化の流れはもはや押しとどめることのできないものになっている。 禁煙タクシーが始めて日本に誕生したのは1988年2月26日、当時の運輸省により認可された。このとき禁煙タクシーは2台のみであった。2年前まで禁煙タクシーは全タクシーのわずか2%であったが、2008年5月には47都道府県のうち24都県が禁煙となり禁煙タクシーが12万台を超え、ついに全タクシーの50%を上回った。 なぜ今、怒濤のようなタクシー全面禁煙化の動きが起こってきたのか。これはWHO(世界保健機関)のタバコ規制枠組み条約(FCTC)発効を始めとした受動喫煙防止の世界的潮流と、タクシーを安全、安心、快適な公共交通機関にしたいと願ってきたタクシーの利用者、乗務員の積年の努力によるところが大きい。そしてタクシー全面禁煙化は、何よりもタクシー乗務員の生命と健康を守るために火急の課題なのである。 喫煙が、がんや心臓病、呼吸器病などあらゆる臓器に多くの病気を引き起こすことは、数多くのデータで明らかにされているが、他人のタバコの煙を吸わされる受動喫煙でも多くの人々の命が失われている。受動喫煙による健康被害を防止するため、海外ではもちろんのこと、日本でも2003年5月に健康増進法第25条により受動喫煙防止が定められて以降、公共の場所や職場が次々と禁煙になっている。 公共交通機関も例外ではない。公共交通機関においては以前より喫煙規制が行われていて、飛行機、電車、地下鉄、バスなど、既にほとんどの交通機関は全面禁煙になっている。また新幹線や長距離鉄道も次々に禁煙化が拡大している。ひとりタクシーのみが喫煙自由という状況であった。タクシーは重要な公共交通機関のひとつだが、特にタクシーは高齢者、病弱者、障害者、妊婦、子どもなど弱者が利用することの多い乗り物である。そしてこれらの人々は、タバコの煙に弱く、受動喫煙による健康被害をより受けやすい。そしてタクシーのような狭い閉鎖空間での受動喫煙の被害はより重大である。本稿では、タクシー車内の禁煙についてはタクシー業界の自主規制だけでなく、法的規制が必要であり、かつ根本的な問題解決法であることを述べる。 2.タクシー車内の受動喫煙 タクシー車内での喫煙は、タバコの臭いによる不快感や臭いが衣服へ染み付くだけでなく、残留化学物質により気分不良や、のどの痛みなどを引き起こし、さらに喘息や心臓発作を起こす可能性がある。タクシー内のタバコ臭で気分が悪くなったり、残留化学物質で喘息発作を起こしたりするため禁煙タクシー以外には乗らないという人も少なくない。 乗務員の受動喫煙被害はさらに深刻である。受動喫煙は一瞬でも気管支喘息発作、狭心症、脳卒中などを起こす恐れがあるし、タバコの煙に含まれる発がん物質には放射線同様閾値(許容値)が存在しない。WHO(世界保健機関)は受動喫煙に安全なレベルはないと言明している。 車内の粉じん濃度を実際に測定した結果では、窓を閉め切ったタクシーで乗客1人がタバコを吸うと、車内の粉じん濃度が厚生労働省の基準値(1㎥あたり0.15mg)の12倍になり、1時間以上元に戻らない。後部座席の窓を5センチ開けて喫煙した場合でも、粉じん濃度は基準値の9倍に上り、原状回復に30分以上かかった。喫煙者が2人なら基準値の24倍、3人なら32倍に上昇した。さらにエアコンを使用して3人が喫煙した場合は50倍に達したという。車内の有害物質がどれほど高濃度になるか想像に難くない。タクシー乗務員は、このような高濃度の有害物質に曝されながら仕事をしているのである1,2)。 そしてタクシー内での受動喫煙による乗務員の心筋梗塞や癌、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、健康上の危険が明らかになっている。現在東京タクシーセンターに対して訴訟を起こしている東京の安井幸一氏は、自らはタバコを1本も吸わないにもかかわらず、長年のタクシー乗務による受動喫煙で心筋梗塞を起こし、さらには喉頭がんになり、現在闘病中である。タクシー乗務員が車内で受動喫煙を浴びるのはまさに労働災害といえよう。 健康増進法第25条には、多数の者が利用する施設管理者は、受動喫煙防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならないと定められており、厚生労働省はタクシーも対象施設に含まれると通知している。労働基準局も「『職場における喫煙対策のためのガイドライン』に基づく対策の推進について」という通知を出して労働者の受動喫煙対策充実を促している3)。タクシー車内も職場であり、ガイドラインを遵守するには全面禁煙しかありえない。 また、2004年7月24日に提訴された禁煙タクシー訴訟において、判決(平成17年12月20日東京地裁)は、「タクシー車内における乗客の喫煙による乗務員の健康への影響は看過しがたい」「タクシー事業者としては、タクシー乗務員に対し受動喫煙の危険性から生命及び健康を保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っており、その義務を尽くすためには、禁煙タクシーの導入及び普及を図ることが望ましい」「タクシー事業者の自主性に任せていたのでは、その早急な改善は困難である」「禁煙タクシーの普及に対する国による適切な対応が期待される」「利用者の立場からもタクシーの全面禁煙化が望ましい」と指摘している4)。 3.タバコのリスク タバコ煙には約4000種類以上の化学物質が含まれており、そのうち有害物質は200種類以上、発癌物質はニトロソアミン類、多環性炭化水素など60種類が含まれている。もう一つ重要なことは、有害物質の多くは目に見えず、無味無臭だということである。 また、タバコの副流煙には主流煙より一酸化炭素、ニコチン、アンモニア、発癌物質などの有害物質が数倍から数十倍多く含まれている。例えば発癌物質のニトロソアミンは副流煙に主流煙の最大100倍含まれている。それゆえ職場や家庭で喫煙者と8時間一緒に過ごすと、自分で吸っているのと同じくらい発癌物質を吸入することになる。 もしアスベストの漂うタクシーがあったとしたら、誰もそのようなタクシーには乗らないであろう。しかし人々はタバコ臭いタクシーに平気で、あるいは我慢して乗っている。タバコの煙のリスクが正しく認識されていないからに他ならない。 有害物質規制基準は10万人あたりの生涯リスク1人以下であるが、松崎によればタバコを吸う人の2人に1人はタバコに関連した病気で早死にし、職場や家庭で受動喫煙にさらされ続けると、20人に1人が受動喫煙のために死亡する。すなわち受動喫煙は環境基準の5000倍もの死に至るリスクであり、立入禁止アスベスト汚染ビルに1000年間住むリスクと同じである5)。タバコについても他の有害物質と同じく規制が必要なのは当然である。 4.受動喫煙は一瞬でも危険 タバコの煙は、単に不快というだけでなく確実に健康被害を起こしている。他人のタバコの煙を吸うと、急性影響として流涙、鼻閉、頭痛、眩暈、嘔気等の諸症状や呼吸抑制、心拍増加、血管収縮等が生じ、屋外の一瞬の受動喫煙であっても、気管支喘息発作、狭心症、脳卒中などの重大な病気を惹き起こす恐れがある。ただ一度の受動喫煙をきっかけに心筋梗塞が起こることがある。逆に法的喫煙環境規制により心筋梗塞の入院患者が平均15~20%減少したことが世界各地から報告されている6)。 また慢性影響として、肺癌や心筋梗塞など循環器疾患のリスクを上昇させ、IARC(国際がん研究機関)は、証拠の強さによる発癌性分類において、環境タバコ煙(副流煙および喫煙者の呼出煙)を、グループ1(グループ1、2A、2B、3のうち、グループ1は最も強い分類、動物実験と疫学調査で十分な証拠あり)と分類している。IARCの分類ではグループ3に相当するマラカイトグリーンが中国産うなぎから検出され、瞬く間に店頭から姿を消したことは記憶に新しい。 1本のタバコの煙から出るタバコ煙を目や鼻の刺激症状が起こらない濃度まで薄めるにはどのくらいの空気が必要だろうか?スイス連邦技術研究所の調査によると、1本のタバコから出るタバコ煙を、目や鼻の刺激症状が起こらない濃度まで薄めるには3000㎥の空気が必要で、非喫煙者の鼻で気づかない濃度まで薄めるには1万9000㎥の空気が必要である7)。狭いタクシーの車内空間は、せいぜい3.5㎥程度であろう。タバコの煙のにおいが気にならない程度にするには実にタクシー5248台分の空気が必要になる。 5.タクシー乗務員の喫煙 運輸交通業のなかでも最も憂慮されているのが、タクシー乗務員の健康である。タクシー乗務は、労働時間が不規則なうえに、長時間同じ姿勢で、身体を動かさず、神経を使う。それに時間を気にしながらラーメンやホカ弁を掻きこむ食生活で、おまけにタバコを吸うとなると身体に良いわけがない。東京でいち早く禁煙タクシーを導入した大森交通の郭成子社長は、タクシーの乗務員の定期健康診断結果に目を通して、ほとんど全員が「要精密検査」であったことに、非常にショックを受けたと述べている8)。 タクシー乗務員の喫煙率は60~80%といわれており、成人男性の喫煙率40%からしても、かなりの高率である。その結果、タクシー乗務員には癌や虚血性心疾患、呼吸器疾患などのタバコ関連病が高率に発生する。個人タクシー協会の調査によると、2002年1年間における個人タクシー運転手の死因の第1位は肺癌(12%)であった。また、タクシー乗務員は胃の弱い人が多い。タバコを吸っていると、ただでさえ運転のストレスで弱っている胃の血流をさらに低下させ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こす。 ストレスが多いしタバコでも吸わないとやってられないと喫煙者はいう。だが、タバコはストレス解消どころか逆にストレスの原因になる。タバコを吸う直前の状態が「ニコチン切れ」である。タバコを吸って小一時間もすると、なんとなく落ち着かず、そわそわ、イライラし、集中力がなくなる。時に眠気が生じることもある。これらの症状はタバコを吸った結果生じるニコチン離脱(禁断)症状である。 渋滞に巻き込まれ、イライラしてタバコを吸うとなんとなく落ち着く気がする。しかしよく考えればタバコを吸ったからといって、交通渋滞が解消するわけではない。そしてほっとするのもつかの間、ニコチンの血中濃度は吸い終わった瞬間から低下し始め、またニコチン切れにさいなまれ、イライラしてタバコが吸いたくなってしまう。ニコチン切れの無間地獄に陥ってしまうのである。タクシー乗務員自身をこのタバコの罠から救い出す必要がある。 6.タバコと安全運転 「助手席のタバコを取ろうとしてマイクロバスに追突、2人死亡、19人が負傷!」「落としたタバコを拾おうと、運転中に下を向いてひき逃げ!」タバコによる交通事故の見出しである。タバコに関連した交通事故は枚挙にいとまない。タバコを取り出す、タバコの火をつける、タバコを吸うなどの行為自体が、わき見運転などの危険行動を惹き起こし、交通事故死など重大な事故を招く恐れがある。 「改正道路交通法」によって、運転中の携帯電話使用が取り締まりの対象になったが、携帯電話が規制されるのなら、喫煙も規制されてしかるべきである。工場なら、危険な機械を操作する時に喫煙しないのは当たり前である。 また、タバコの煙そのものが車の運転へ悪影響を及ぼす。タバコを吸うと頭がスッキリすると喫煙者は言うが、これは錯覚である。ニコチンの血管収縮作用で脳の血流は低下し、タバコの煙に含まれる一酸化炭素のため低酸素血症に陥る。その結果、脳の判断力や反応性が低下する。喫煙者の光や音に対する反応は明らかに遅延することが証明されている。しかし喫煙者でも、ニコチン切れになっている喫煙前より喫煙後のほうが、わずかながら反応が早くなるので、喫煙者はそれをタバコの効果と思い込んでいるのである。当然車の運転にも支障をきたす。 実際、非喫煙者より喫煙者のほうが1.5倍から2倍交通事故を起こしやすいという複数の報告がある9,10)。元々、喫煙者は交通事故だけでなく、外傷や事故、自殺の確率が非喫煙者より明らかに高いという多数のデータがあることは周知の事実である。 イギリスでは2007年9月から道路交通法規が改正され、万が一運転中に事故を起こした際、ドライバーがタバコを吸っていたことが判明した時には、喫煙による不注意運転としてより重い罰則(最高2,500ポンド(約55万円)の罰金と3~9点の減点、もしくは運転免許取り消しという罰則)が科される可能性があり、喫煙ドライバーに注意が促されている。 欧州安全衛生機構でもトラックの事故防止のためのファクトシートにおいて、安全運転のためのチェックリストの一つに「運転中の喫煙は、車内の酸素減少と二酸化炭素の増加を招くほか、運転者の血液中の一酸化炭素増加にもつながり、結果的に眠気を誘う可能性があることを十分承知しておくこと」と記載されている。 運転者以外のものがタバコを吸っても運転者に大きな影響を及ぼす。同乗者のたった一本のたばこの煙が運転者の視界をさえぎり、流涙、咳、呼吸困難、ストレスによるイライラの症状を招き、運転に集中できなくする。しかも、これらの症状は数時間続く。安全運転の面からも、自動車の車内では禁煙が当然である。 7.政府・国土交通省の重大な責任 タバコによる犠牲者は世界で毎年540万人、日本で11万人以上と推定されている。WHO Report on the Global Tobacco Epidemic, 2008によれば、今後10年間で世界のタバコによる死亡の80%以上が発展途上国において発生すること、今すぐ対策を講じなければ21世紀には10億人がタバコによって殺されると警告している11)。 受動喫煙についても2004年の国際癌研究機構(IARC)モノグラフ12)、2005年のカリフォルニア州環境保護局(Cal/EPA)報告書13)、そして2006年の米国公衆衛生長官報告14)で受動喫煙の健康に対する有害な影響について明確で揺るぎのない結論が述べられている。 日本における交通事故による死亡者数はここ数年、年間約6000~7000人(警察庁)であるが、受動喫煙による犠牲者はその約3倍、年間約1万9000人に上ると推定されている15)。 このようなタバコによる莫大な損害を防ぐために、2003年WHO初の国際条約である「タバコ規制枠組み条約」(FCTC)が締結され、2005年2月に発効した。FCTCの目的は、「タバコの消費及びタバコの煙にさらされることが健康、社会、経済及び環境に及ぼす破壊的な影響から現在および将来の世代を保護する」ため、各国が国内外で実施すべき規制の枠組みを提供することである。世界的にタバコの消費を減らすことで、タバコによる喫煙者、非喫煙者の被害を防ぐことができる。先日ロシア、イタリアなども条約を批准し、批准国は2008年9月現在160か国となった。批准した諸国は発効5年後を目標にそれぞれの国でタバコ規制対策を着々と実行しつつある。 日本でも2003年、受動喫煙防止を定めた健康増進法が制定され、2005年10月には喫煙関連疾患9学会による禁煙ガイドラインが発表され、喫煙は「病気」として保険治療の対象となった。また2008年3月には日本学術会議が「脱タバコ社会の実現に向けて」をまとめ、タバコの害から国民の健康を守り、その環境汚染から地球を守るために7つの提言を行っている16)。 2007年6月にタイのバンコクで第二回締約国会議(COP2)が開催された。この会議では、FCTCの第8条(受動喫煙の防止)を実行するためのガイドラインが日本を含む全会一致で採択された。ガイドラインには、「第8条は、すべての屋内の公衆の集まる場所、すべての屋内の職場、すべての公衆のための交通機関そして他の公衆の集まる場所を完全禁煙として『例外なき(受動喫煙からの)保護を実施する義務』を課している」と述べられている。また「受動喫煙からの保護は、職場として使用する自動車(たとえばタクシー、救急車、輸送車など)を含むすべての室内のあるいは囲まれた職場において実現されなければならない(下線著者)」とされている。 日本政府は、2010年2月27日(FCTC発行後5年)までに日本国内で、公共の場及び職場の全面禁煙の法的措置を進める責務がある。国際条約を履行するのは締約国の国際的な約束であり、政府は日本国憲法第98条第2項を誠実に遵守すべきである。そうでなければ、タバコ対策において日本は世界の孤児になるであろう。ガイドラインにも「受動喫煙から市民の健康を守るには、自主規制でなく、法律が必要であり、かつ法的規制は単純明快で施行可能なものにする必要がある」と明記されている。タクシーについても法律による車内禁煙が最も簡単かつ有効な方法である。海外では、イギリス、アメリカ、フランス、カナダ、オーストラリア、イタリア、中国、台湾、韓国、タイなど多くの国がタクシー車内での喫煙を禁じている。 国土交通省は、タクシー車内での喫煙規制を一貫してタクシー業界の自主規制に任せてきた。むしろタクシー車内での喫煙を、乗客サービスとして容認してきた。受動喫煙被害の重要性に鑑みると、これは行政機関としての責任放棄である。FCTCを批准している日本政府の機関である国土交通省が国際条約を守るのは当然の責務である。 水俣病、薬害エイズ事件、アスベスト問題など行政の不作為が結果として重大な健康被害を起こし、多数の犠牲者を出したことを忘れてはならない。今現在もタバコによる犠牲者は次々と出ているのである。 参考文献 1) 中田ゆり:実際の乗務における受動喫煙調査 禁煙学.南山堂, 東京、2006;p174 2) 大和浩:車内受動喫煙曝露濃度意見書 http://www.tobacco-control.jp/documents/0505taxi-recommendation.pdf 3) 厚生労働省労働基準局安全衛生部長:「職場における喫煙対策のためのガイドライン」に基づく対策の推進について http://www3.ocn.ne.jp/~muen/kenkozoshinho/rodokijuntutatu050601.htm 4) 平成16年(ワ)第15532号損害賠償請求事件判決要旨 http://www.tbcopic.org/pdf/hanketsu_yoshi.pdf 5) 松崎道幸:受動喫煙は環境基準の5000倍の致死リスクを持つ http://www.anti-smoke-jp.com/x5kdoui.htm 6) 藤原久義、飯田真美:公共の場・職場の法的喫煙規制は心臓病を減少させる-わが国でも法的に全面的受動喫煙禁止地区を設定し、疾患発生が減少するかを調査する時期ではないか?- 禁煙会誌2007;2(8) 7) Junker MH, Danuser B, Monn C, et al: Acute sensory responses of nonsmokers at very low environmental tobacco smoke concentrations in controlled laboratory settings. Environ Health Perspect. 2001; 109(10):1045-52 8) 大森交通株式会社HP http://www.oomorikoutu.co.jp/no_smoking_car.html 9) Sacks JJ, Nekson DE.: Smoking and injuries: an overview. Prev Med. 1994; 23(4):515-20 10) Leistikon BN, Martin DC, Jacobs J, et al: Smoking as a risk factor for injury death: a meta-analysis of cohort studies. Prev Med 1998; 27(6):871-8 11) WHO Report on the Global Tobacco Epidemic, 2008 http://www.who.int/tobacco/mpower/en/ 12) International Agency for Research on Cancer (IARC), 2004. Monograph on the evaluation of carcinogenic risks to humans. Tobacco smoke and involuntary smoking. Lyon, France: WHO International Agency for Research on Cancer, Volume 83. Summary available online at http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol83/volume83.pdf 13) Proposed Identification of Environmental Tobacco Smoke as a Toxic Air Contaminant Part B: Health Effects As approved by the Scientific Review Panel, June 24, 2005 http://www.oehha.ca.gov/air/environmental_tobacco/pdf/app3partb2005.pdf 14) The Health Consequences of Involuntary Exposure to Tobacco Smoke: A Report of the Surgeon General June 27, 2006 http://www.surgeongeneral.gov/library/secondhandsmoke/ 15) 朝日新聞記事:受動喫煙 空気清浄機だけでは限界も 分煙対策に落とし穴.朝日新聞2001年12月19日朝刊「くらし」欄 16) 日本学術会議「脱タバコ社会の実現に向けて」(2008年3月4日) http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t51-4.pdf |
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A smoking ban is necessary and effective to restrict smoking in taxis. |
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《特別寄稿》 | ||
第3回日本禁煙学会学術総会 特別講演1(2008年8月9日) タバコ産業とCSR(企業の社会的責任活動):挑戦と新しい問題、そして最良の解決法 |
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オーストラリア対がん協会、タバコ規制枠組み条約同盟、タバコ規制東南アジア同盟 メアリー・アスンタ Ph.D. |
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このCSR問題に有効に取り組むためには、FCTCの他の条文にも考えを巡らすことが重要である。例えば、第5条3項は、締結国にタバコ規制(政策)をタバコ産業からの干渉(妨害)から擁護するよう警告している。それ故、タバコ会社が「未成年喫煙防止プログラム」を企画することを禁止しなければならない。第6条はタバコ製品への高い課税(率)を求めており、小売価格の65~80%が、最良の実施策である。その税金の一部を健康増進や地域の活動に割くべきである。(宮崎恭一・薗潤 訳) 【注釈】CSR:企業は社会的存在として、最低限の法令遵守や利益貢献といった責任を果たすだけではなく、市民や地域、社会の顕在的・潜在的な要請に応え、より高次の社会貢献や配慮、情報公開や対話を自主的に行なうべきであるという考えのこと。タバコ会社がCSRの名目で、会社の宣伝活動をする事への警告がこの論文講演の主旨である。(編集委員会) Tobacco Industry and CSR: Challenges, Emerging Issues and Best Practices Dr. Mary Assunta Cancer Council Australia, Framework Convention Alliance, Southeast Asia Tobacco Control Alliance ABSTRACT The Framework Convention on Tobacco Control (FCTC) in Article 13 requires all Parties to implement a comprehensive ban on tobacco advertising, promotions and sponsorship. With tightening up of regulations, corporate social responsibility (CSR) remains the last frontier for the tobacco industry. The CSR concept enables the industry to maximise its efforts to promote what it is still allowed to do, and simultaneously ‘buy’ goodwill and build its public image. This raises several issues which warrant discussions on how to interpret and implement Article 13: CSR, by far is the most challenging Tobacco company names are often used, instead of cigarette brand names Activities are carried out through foundations instead of tobacco companies This presentation will address why the tobacco industry conducts CSR activities, and how linking the tobacco industry with “corporate responsibility” is an inherent contradiction. As Asian countries start to put in place legislation banning tobacco advertising and promotions, the tobacco industry has increased its CSR activities across Asia. To tackle CSR, monitoring and documentation of the industry activities are important. For example ask: “Who is really paying for the CSR activities?” How much does the industry spend on scholarships for students Vs how much profit the industry make from minors? How much does the industry hands out to community projects Vs how much profit the industry makes in that country? The next step is to draw up an advocacy plan of action. It only takes a few persons to stop an unethical industry activity, identify allies willing to cooperate, and include actions to “denormalise” the tobacco industry by stopping its efforts to associate itself with other industries. To effectively address CSR, it is important to think across several articles of the FCTC. For example Article 5.3 warns Parties to protect tobacco control measures from interference from the tobacco industry. Hence tobacco companies should be prohibited from conducting youth smoking prevention programs. Article 6 calls for high taxation of tobacco products where best practice recommends 65% – 80% of retail price. Set aside a small portion of dedicated tax for health promotion and community activities. |
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《特別寄稿》 | ||
第3回日本禁煙学会学術総会 特別講演2(2008年8月9日) タバコ依存症の最新治療 |
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米国メーヨークリニック医科大学内科教授、同ニコチン依存症センター長 リチャード・ハート M.D. |
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メーヨークリニックのニコチン依存症センターでは、医師の監督下にタバコ治療専門士がサービスを提供する。我々の治療プログラムの原則は、行動科学療法、依存症治療、薬物療法と再喫煙防止に則っている。薬は、しばしば併用する。特に、ニコチンパッチ治療の場合、患者の喫煙状態や血中コチニン濃度によって決定された量を使い、ニコチンガムのような短時間作動性のニコチン代替治療薬を禁断症状のコントロールに使っている4)。 治療期間は、患者の状態によって決定する。我々は患者に、薬の効果が最大限に得られ、タバコ依存症から安定した回復に至るだけの、十分に長い薬物療法を勧奨している。バレニクリンも基本的な薬として使われ、必要に応じて12~24週間又はそれ以上続けることが出来る。臨床試験では、52週間でも安全ということが証明されている5)。 特にバレニクリン使用中の早期には、患者はしばしば、ニコチンガムのような短時間のニコチン代替療法薬を、禁断症状のコントロールに必要とする。ニコチン依存症センターでは、今まで4万人以上の患者を治療し、(他疾患でメーヨークリニック)入院中患者へのベッドサイドカウンセリングや、外来カウンセリング、重症タバコ依存症患者のための8日間センター入所治療プログラムも提供している。 1年後の禁煙成功率は、外来カウンセリングで22%、入院中患者のベッドサイドカウンセリングで32%、センター入所プログラムで45%である。(薗潤・薗はじめ 訳) 参考文献 1. Brody AL, Mandelkern MA, London ED, et al. Cigarette smoking saturates brain alpha 4 beta 2 nicotinic acetylcholine receptors. Arch Gen Psychiatry. 2006;63:907-915. 2. Dale LC, Hurt RD, Offord KP, Lawson GM, Croghan IT, Schroeder DR. High-dose nicotine patch therapy. Percentage of replacement and smoking cessation. JAMA. 1995;274:1353-1358. 3. Jorenby DE, Hays JT, Rigotti NA, et al. Efficacy of varenicline, an alpha4beta2 nicotinic acetylcholine receptor partial agonist, vs placebo or sustained-release bupropion for smoking cessation: a randomized controlled trial. JAMA. 2006;296:56-63. 4. Ebbert JO, Sood A, Hays JT, Dale LC, Hurt RD. Treating tobacco dependence: review of the best and latest treatment options. J Thorac Oncol. 2007;2:249-256. 5. Williams KE, Reeves KR, Billing CB, Jr., Pennington AM, Gong J. A double-blind study evaluating the long-term safety of varenicline for smoking cessation. Current Medical Research and Opinion. 2007;23:793-801 Treating Tobacco Dependence - State of the Art Richard D. Hurt, M.D. Professor of Medicine, Mayo Clinic College of Medicine; Director, Nicotine Dependence Center In recent years tobacco dependence has received more attention for the severe medical problems that it causes, but also as the severe addiction that it is. This is led physicians and healthcare professionals to more aggressively treat smokers with more intensive behavioral counseling and pharmacotherapy. The 2008 US Public Health Service Guideline acknowledges that there is a dose response for behavioral interventions and recommends pharmacotherapy for each smoker including combination therapy when indicated. With the recent introduction of varenicline in Japan, Japanese healthcare providers now have the opportunity to utilize three different medications, varenicline, nicotine patch therapy, and nicotine gum therapy, for the treatment of tobacco dependence. The neurobiological basis for tobacco dependence has become more understood in the recent past. Specifically the α-4, β-2 nicotinic acetylcholine receptor is up regulated by the frequent administration of high arterial concentrations of nicotine from smoking cigarettes leading to an increased number of these high affinity receptors. The cigarette is the most efficient delivery form of nicotine that exists and delivers nicotine to the pulmonary circulation whereby it is delivered to the arterial circulation in just a matter of seconds. In fact, as few as three cigarettes smoked in succession will saturate 80% or more of the α-4, β-2 nicotinic acetylcholine receptors in the brain of smokers.1 Little wonder that medicinal nicotine and other pharmacotherapies have had limited success. Compared to smoking, a 21 mg nicotine patch dose delivers only about a 50% median venous concentration of nicotine and cotinine.2 Therefore, we have advocated for many years the use of high dose nicotine patch therapy matched either to the smoker’s baseline cotinine concentration (while smoking) or the baseline number of cigarettes smoked per day. For patients smoking 20-30 cigarettes a day, we use a nicotine patch dose of 21-35 mg per day and supplement that with a short-acting nicotine replacement product, like nicotine gum, for nicotine withdrawal symptom control. For heavier smokers, we regularly use a nicotine patch dose of 42 mg per day. Varenicline was developed as a specific α-4, β-2 nicotinic acetylcholine receptor agonist/antagonist. It has a higher affinity for the nicotinic receptor than does nicotine, therefore, it helps block the rewarding effect of smoking when the smoker is taking varenicline. Varenicline has been shown to have a dose response with the recommended dose up titrated from 0.5 mg a day to 1 mg twice daily.3 The two most common side effects are nausea and vivid dreams. Both of these side effects, though frequent, are often not severe enough to cause an individual to stop taking the medications. There have been recent reports of changes in psychiatric symptoms in smokers who are trying to stop smoking using varenicline including depressed mood, suicidal ideation, as well as other psychiatric symptoms. These are currently being investigated by the US FDA and no causal relationship has been established. It should be pointed out that depressed mood, depression, suicidal ideation and suicide are more common in smokers than in nonsmokers to begin with. There is no biologically plausible reason why varenicline should cause such a phenomenon, but caution is advised when treating smokers because of their preponderance of psychiatric and medical co-morbidity in this population. At the Mayo Clinic Nicotine Dependence Center, our services are provided by Tobacco Treatment Specialists under the supervisor of a physician. The principles of our treatment program are based on behavioral treatment, addictions treatment, pharmacotherapy, and relapse prevention. We often use medications in combination. Specifically, we use nicotine patch therapy in a dose determined by the patient’s smoking rate or serum cotinine and use short-acting NRT such as nicotine gum for withdrawal symptom control.4 Duration of treatment is determined by how well the patient does. We encourage the patients to use the medication long enough to get maximal effects and to develop a stable recovery from tobacco dependence. Varenicline is also used as a base medication and can be continued for 12-24 weeks or longer if need be. It has proven to be safe in a 52-week clinical trial.5 Patients often need short-acting NRT such as nicotine gum for withdrawal symptom control especially during the early phases of varenicline therapy. At the Nicotine Dependence Center we have now treated over almost 40,000 patients and provide a range of services from bedside counseling in our hospitals, to outpatient counseling, to an 8-day residential treatment program for patients with severe tobacco dependence. Smoking abstinence rates at one year range from 22% for the outpatient counseling, to 32% for bedside counseling in the hospital, and 45% for patients entering our residential treatment program. |
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《資 料》 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
平成19年度千葉県委託・喫煙防止出前健康教室事業 市民団体と地方自治体との共同活動 2年目の実践報告 |
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《資 料》 | ||||||||||
近隣からの受動喫煙に対する対応例 | ||||||||||
嫌煙権確立をめざす法律家の会 会員弁護士 岡本光樹 |
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《資 料》 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
千葉県内主要地区飲食店の無煙環境調査結果 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
紅谷 歩1, 2、中久木一乗1、大谷美津子1
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《短 報》 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
東京都内主要駅周辺デパート等の飲食店街の無煙環境調査結果 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
タバコ問題首都圏協議会 (調査担当:分煙社会をめざす会) 中久木一乗、竹村 薫、平賀典子、紅谷 歩 |
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《WAT特集》 | |||||||||||||||
WALK AGAINST TOBACCO 2006 WEEK 12 REVISITED |
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Mark Gibbens |
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参考サイト:Walk Against Tobacco 2006 (Galleryにいろいろな写真があります) ※WAT:WALK AGAINST TOBACCO |
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日本禁煙学会の対外活動記録 (2008年8・9月) |
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