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補遺3


受動喫煙による健康影響

カリフォルニア州環境保護局2005年報告書要約

 

受動喫煙と因果関係の認められた疾患・病的状態

 

成長への影響

         胎児発育:低体重出生

         乳幼児突然死症候群

         早産

 

呼吸器への影響

         小児の急性下気道感染症(気管支炎・肺炎)

         小児と成人の気管支喘息(発症・悪化)

         小児の慢性呼吸器症状

         成人の目と鼻の刺激症状

         小児の中耳炎

 

発ガン作用

         肺ガン

         副鼻腔ガン

         閉経前女性の乳ガン

 

循環器への影響

         心臓病死亡率

         急性・慢性冠状動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)罹患率

         動脈の変化(弾力性低下、狭窄など)

 

 

受動喫煙との関連が示唆される疾患・状態

 

生殖・発育への影響

         流産・子宮内発育遅延

         認知機能・行動機能の障害

         アレルギー感作

         呼吸機能増加障害

         男性不妊・女性不妊

 

循環器への影響

         脳卒中

 

呼吸器への影響

         のう胞繊維症悪化

         成人の慢性呼吸器症状

 

発ガン作用

         子宮頸ガン

         小児の脳腫瘍・悪性リンパ腫

         鼻腔咽頭ガン

         すべてのガン(成人および小児)

 

 

2006年米国公衆衛生長官報告書要約

 

生殖・発育への受動喫煙の影響

 

乳幼児突然死症候群

受動喫煙と乳幼児突然死症候群の間には十分な因果関係の存在を示す証拠がある

早産

妊娠中の受動喫煙と早産の関連を示唆する証拠があるが十分とは言えない

低体重出生

妊娠中の母体への受動喫煙と出生時体重の軽度の低下の間には十分な因果関係の存在を示す証拠がある

小児ガン

出生前ならびに出生後の受動喫煙と小児ガン全体の間に関連を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

小児白血病出生前ならびに出生後の受動喫煙と小児白血病の間に関連を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

小児悪性リンパ腫

出生前ならびに出生後の受動喫煙と小児悪性リンパ腫の間に関連を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

小児脳腫瘍

出生前ならびに出生後の受動喫煙と小児脳腫瘍の間に関連を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

 

小児の呼吸器疾患への受動喫煙の影響

 

乳幼児の下気道感染症

親の喫煙と乳幼児・小児の下気道疾患に十分な因果関係の存在する証拠がある。

下気道疾患のリスクは、母親が喫煙した場合最大となる。

中耳炎・扁桃摘出術

親の喫煙と小児の中耳炎(急性、慢性、再発性、滲出性)の間に十分な因果関係の存在する証拠がある。

親の喫煙と滲出性中耳炎の自然経過に関連を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

学齢期小児の呼吸器症状と気管支喘息有病率

親の喫煙と学齢期小児の咳、痰、喘鳴、呼吸困難に十分な因果関係の存在する証拠がある。

親の喫煙と学齢期小児の気管支喘息有病率に十分な因果関係の存在する証拠がある。

小児期の気管支喘息発症親の喫煙と幼児期の喘鳴の発症に十分な因果関係の存在する証拠がある。

親の喫煙と小児喘息発症の間には関連を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

肺の発育と呼吸機能

妊娠中の母親喫煙と小児期の呼吸機能悪化に十分な因果関係の存在する証拠がある。

出生後の母親喫煙と小児期の呼吸機能低下に十分な因果関係の存在する証拠がある。

 

成人のガンと受動喫煙

 

肺ガン

受動喫煙と生涯非喫煙者の肺ガンの間に十分な因果関係の存在する証拠がある。これは受動喫煙の場所にかかわりなく、すべての受動喫煙に当てはまる結論である。

プール解析によれば、喫煙者と同居することでもたらされる肺がんリスクの増加率は2030%である。

乳ガン

受動喫煙と乳がんの関連を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

副鼻腔ガン・鼻咽頭ガン

受動喫煙と非喫煙者の副鼻腔ガンの関連を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

 

心臓病と受動喫煙

 

受動喫煙と男女の冠状動脈疾患の罹患率ならびに死亡率の間に十分な因果関係の存在する証拠がある。

メタアナリシスによれば、受動喫煙による冠状動脈疾患のリスク増加度は2530%である。

受動喫煙と脳卒中リスクの関連を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

受動喫煙と症状の出ていない時期の血管病変とりわけ頚動脈壁の肥厚に関する研究結果によれば、受動喫煙と動脈硬化の間に因果関係の存在を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

 

呼吸器病と受動喫煙

 

臭いと刺激症状

受動喫煙と臭いによる不快の間に十分な因果関係の存在する証拠がある。受動喫煙と鼻の刺激症状の間に十分な因果関係の存在する証拠がある。鼻アレルギーのある人あるいは呼吸器疾患にかかったことのある人が受動喫煙によって鼻の刺激症状が出やすいかどうかについて、因果関係の存在を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

呼吸器症状

受動喫煙と気管支喘息患者の咳、喘鳴、胸苦、呼吸困難などの急性呼吸器症状の間に因果関係の存在を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

受動喫煙と健常者の咳、喘鳴、胸苦、呼吸困難などの急性呼吸器症状の間に因果関係の存在を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

受動喫煙と慢性の呼吸器症状の間に因果関係の存在を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

呼吸機能

短期間の受動喫煙と気管支喘息患者の呼吸機能の一時的悪化の間に因果関係の存在を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

短期間の受動喫煙と健常者の呼吸機能の一時的悪化の間に因果関係の存在を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

気管支喘息

受動喫煙と成人発症気管支喘息の間に因果関係の存在を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

受動喫煙と気管支喘息コントロール状態の悪化の間に因果関係の存在を示唆する証拠があるが十分とは言えない。

慢性閉塞性肺疾患

受動喫煙と慢性閉塞性肺疾患リスクの間に因果関係の存在を示唆する証拠があるが十分とは言えない。


補遺 4

 

完全禁煙反対論を斬る

 

効果的な完全禁煙法は世論の大方の支持を受けるが、政策立案者は、そのような法律が成立して執行されるのを阻止するためになされるさまざまな主張を論破する準備をしておく必要がある。それらの主張は、タバコ産業のイデオロギーを代弁したものである事が多い。曰く、受動喫煙が健康を損なうという主張は非科学的だ、法律で完全禁煙にする必要はない、喫煙者と非喫煙者が共存できる「分煙」で十分だ、禁煙にすると商売の景気が悪くなる、法律を作ってもきちんと守られるはずがない等々。

前節では、これらの主張に対する反論の基本点について述べた。その他の点についての反論を以下に述べる。

 

「他のリスクと比べると、受動喫煙のリスクは問題にならないほど小さい」

これは、肺ガンでよく言われた主張である。喫煙者と結婚した非喫煙者は非喫煙者と結婚した場合より約20%肺ガンのリスクが上がる。多くの科学論文が指摘している通り、この肺ガンのリスクが20%増えると言う事は、個人レベルでも、集団レベルでも見過ごす事の出来ない影響をもたらす。なぜなら、暴露人口が非常に多いから、膨大な数の被害者が出るからである。バーやレストランの従業員は、一般市民よりもはるかに高濃度の受動喫煙にさらされているから、健康被害もずっと大きい。受動喫煙で心臓病になるリスクは、肺ガンの場合よりも大きく、発病もずっと早い。

 

「受動喫煙による空気汚染は、他の汚染物質よりはるかに低レベルだ」

事実は逆で、受動喫煙による汚染レベルは、他の職業的汚染物質をはるかにしのぐ高レベル汚染である。14 喫煙による室内気汚染は、ディーゼル車排気ガスの10倍高濃度である。150 更に、24カ国で禁煙と喫煙可の室内のPM2.5濃度を測定したところ、喫煙可の屋内のPM2.5[a]317μg/m、喫煙の行われていない屋内では36μg/mだった。42 この濃度は、WHOの空気の質ガイドラインが推奨する24時間平均の最大値25μg/m12倍以上超過している。151 実際に、毎日職場で受動喫煙にさらされている米国の労働者は、SHS以外の汚染物質に関して決められている最低限暴露基準を7〜700倍上回る発ガン性の受動喫煙にさらされている。138 

 

「受動喫煙のリスク評価の根拠となっている『疫学』は、エセ科学だ」

タバコ産業は、疫学の科学的方法論を「エセ科学」という軽蔑的なレッテル貼りをして非難しているが、この言葉はそっくりタバコ産業などの業界にお返しする。それらの業界は、自分たちの製品に関する疫学研究結果が恐怖なのである。タバコ産業の内部文書にはこうした疫学研究の信用をなくするための組織的な策動を行った証拠が数多く残されている。公衆の健康について確立した基礎的学問である疫学は、実社会で発生した有害物質への曝露がどのような健康影響をもたらすかについての情報を直接収集して研究する学問である。受動喫煙の影響を研究する上で役に立った疫学的手法は、数十年にわたって、感染症や主要な急性、慢性疾患の解明に応用されてきたものである。疫学的証拠は感染制御や水・空気の汚染コントロールなど多くの分野で土台となってきた。

 

「屋内禁煙法は憲法違反であり、喫煙者の権利と自由を奪うものだ」

この論理は、喫煙が大人として個人の選択の問題であり、屋内を禁煙にする法律は喫煙者を犠牲にして非難するものであり、米国に危険な前例を作るものだというものである。しかしながら、屋内禁煙法は喫煙者に喫煙を禁止せよとは言っていない。他人に害を与えない場所で吸うようにと言っているだけである。

加えて言えば、「喫煙の自由」は米国憲法にも国際人権規約にも存在しない。152 逆に、生存権、「到達可能な最高の健康基準」を享受する権利、健康的な環境で生活する権利が無数の国際人権法制でうたわれている。138 

 

「屋内禁煙法を例外なく適用することは、途上国にとって非現実的で適切でない」

  例外を許さずすべての人を受動喫煙から守ることは、経済的に進んだ地域でも、遅れた地域でも、方法は異なるだろうが、同じように正当なことである。途上国は屋内禁煙法を履行できないと思われがちだが、実際には、この法律を執行する費用はあまりかからない。この法律の執行後費用は大幅に減り、病気が減るから医療費も減る。

 

「包括的屋内禁煙法が文化的にふさわしくない施設はたくさんある」

文化的、人種的、経済的に多様な全国、地域、単位自治体は、その経済状態、言語、人種構成にかかわれず包括的屋内禁煙法が可能であり、成功すると言うことを証明した。アイルランドでは、喫煙はパブの雰囲気に欠かせないと主張されたが、アイルランドは圧倒的な大衆の支持を得て2年前に屋内完全禁煙が実現した。スペイン語圏やフランス語圏諸国も、喫煙が文化の本質に根ざしているから禁煙は不可能だと言われていた。しかし、ウルグアイは完全禁煙になったが、フランス系の人々の大部分がバー・レストランの禁煙を支持したためである。フランス語が公用語であるカナダのケベック州は、2006531日にバーとレストランを含めて屋内完全禁煙となった。

 

「例外なく禁煙とするには段階を踏む必要がある」

1980年代から90年代にかけて北アメリカをはじめとした先進国の諸地域で屋内禁煙が広がったとき、その速度は徐々に速まった。まず屋内禁煙は分野ごとに行われた。これは一般に受動喫煙の害に関する理解が広まっておらず、屋内禁煙の概念も行き渡っていなかったためである。屋内禁煙化を段階的に開始する必要のある国もあるかもしれないが、その必要のない国もある。屋内禁煙化のスピードは、それが提唱されはじめた当時よりもはるかに速くなっており、急速に禁煙化を進めることが可能となっている。屋内禁煙対策がゼロの状態から一気に屋内完全禁煙を実現できたという例がたくさん存在する。スコットランドとウルグアイが好い例である。

 

「喫煙者の禁煙のサポートを平行して行わなければ屋内完全禁煙は実現できない」

屋内完全禁煙法の成功は、喫煙者への禁煙サポートなしでも可能である。屋内が禁煙となるからタバコを止めようという禁煙プログラムは、喫煙者に、屋内禁煙の目的がタバコを吸う者を隔離するためでなく、すべての人の健康を守るためであると言うメッセージを送り届けることになる。しかし、多くの経験によれば、もし財政的余裕があれば、禁煙プログラムの並行実施は、屋内禁煙化を助ける役割を果たすが、その余裕がなくて禁煙プログラムを実施できなくとも、屋内禁煙化を遅らせるべきでない。万人の健康を守るのが屋内完全禁煙化の最大の目標である。

 

「屋内禁煙法は接客産業や観光産業の売り上げを減らす」

屋内禁煙法がその地域の雇用と産業にどのような影響を与えるかについては数十件の調査が発表されている。客観的な資料を基にしたまともな研究調査で、屋内禁煙法が経済にマイナスの影響を与えたと言う結論を出したものはない。45,153 経済影響に関しては、すべてが不変あるいはプラスというものだった。接客産業に短期的にでもマイナスの影響があったというものは皆無に等しく、長期的にはプラスの効果があったという研究結果が一定部分存在した。これは、タバコを吸わない者がこれまで受動喫煙があるため利用しなかったバーなどに行くようになったことを示している。

禁煙法が成立すると深刻な経済影響がもたらされるとして、屋内禁煙反対派が引用してきた調査研究というものは、主観的データに基づいたもので、まともな科学的手法に基づいた客観的データを根拠にしたものではないのである。さらにデータの一部だけを取り出して誤った主張の論拠にするということも行われる。たとえば、アイルランドの禁煙法に反対のグループは、その法律が施行されてから、ビールとスピリッツの売り上げが減ったと主張していた。しかし、彼らは、屋内禁煙法施行前からそのような傾向になっており、屋内禁煙法が成立したから減ったというわけではないのである。154

タバコ産業の別働隊は、特定のバー経営者の予測や意見をデータとした「調査研究」をかずおおくはっぴょうしてきた。タバコ産業が自認しているように、こうした予測は常に外れている。(図34

 顧客の多くが禁煙の環境で旅行を楽しみたいと望んでいることをつかみ、屋内禁煙の観光旅行キャンペーンを売り物にしているものもある。(図5

 

3「あなたの収入を30%減らす法律ができたらどうしますか?」と表示された広告

米国タバコ協会は1980年代後半に、カリフォルニアにこのような広告を出した。ビバリーヒルズ・レストラン協会会長バリー・フォーゲル氏は、後に裁判所で宣誓してつぎのように証言した:「禁煙条例ができるまで、ビバリーヒルズ・レストラン協会という組織はなかった。われわれはタバコ産業によってこの協会を作らされた。タバコ産業は、繰り返しビバリーヒルのレストラン業界は(もともとの)屋内禁煙条例の施行後5ヶ月間で30%減収となったと主張した。カリフォルニア州公平化委員会が売り上げ税のデータに基づいて計算した数字によれば、レストランの売り上げは若干増えていた」。フォーゲル氏は屋内禁煙法への反対運動に参加したことを悔いていた。

4 ビバリーヒルズレストラン業界におけるタバコ産業の主張した数字と実際の売り上げの差

 

図5 ノルウェーの禁煙観光ポスター(ノルウェーにようこそ。この国で煙を食らうのはサーモンだけさ)

 

100%完全禁煙なんて守られるわけがない」

事実は正反対である。禁煙区域と喫煙区域はそれぞれ何平方メートルとか何%と決めるとか、禁煙タイムを決めるとか、指定喫煙区域の必要条件を決めるなどのあいまいな法律は、その施設の管理者、労働者、利用客、取締官に混乱をもたらすだけである。

反対に、もし、法律で完全禁煙の施設はこれこれと単純に決めてしまえば、その建物の所有者や管理者は、屋内は禁煙にしなければならないとわかるだろうし、従業員と利用客は、その仲でタバコを吸えないとわかる。取締官は、その施設が法律を守っているかどうかつまり、中でタバコを吸っている者がいるかどうかだけで法令順守状態をすぐに判断できる。

 

「職場を禁煙にすると自宅でもっとタバコを吸うようになる。これでは、こどもの受動喫煙がかえってひどくなる」

職場を禁煙にすると、家庭でのこどもに対する受動喫煙が増加するという証拠はない。それどころか、公衆の集まる場や職場を禁煙にすると、自宅での喫煙が減るという膨大な証拠が存在する。職場を禁煙にすると、タバコをやめる人が増える。タバコを吸う大人が減るとこどもの受動喫煙が減る。職場を禁煙にすると、自分の家庭も禁煙にしようと考える喫煙者が増える。155

 

 

 

■ 翻訳 松崎道幸 ■



[a] PM2.5は肺の奥まで入り込む空気力学的直径が100万分の2.5mm以下の有害超微粒子。タバコの先から大量に放出される。