2012年 9月21日 | |||||
週刊朝日9月28日号の記事に対する日本禁煙学会の緊急声明 |
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今回の報道によると自殺念慮が18件、自殺既遂2件など自殺に係る事例は計28件とある。 念慮とは、自殺を考えたことがある、という意味である。警察庁の自殺統計によれば平成23年の我が国の自殺者数は3万651人で、人口10万人あたり33.7人である。チャンピックスの累計服用者数は120万人と書かれていることから考えると、想定される自殺者数は404人。ただ、チャンピックスの服薬期間は12週間(3か月)であることから、想定自殺者数は101人。実際には12週間服薬しない患者もおり、また服薬患者の自殺が全例企業に報告されていない可能性を考慮しても、現在把握されている自殺既遂件数は十分小さく、一般国民の自殺率に比べて、チャンピックス服用により自殺が増えるとは言えない。 ******* さらに60 代のタクシードライバーがチャンピックスを飲んでいて、全身が震え、意識が飛び、車が道路の側溝に落ちた報告があると書かれている。これもそのドライバーが長年のスモーカーで、いろいろの危険因子があったかどうかなどは一切書かれていない。禁煙をすればひどく眠くなることは、一度禁煙を試みた人だったらおわかりだろう。車を溝に落とす事についても眠気のせいであったか、一過性脳虚血発作のような症状であったのかあるいは不整脈が関係していたのかなど判別不可能である。 けいれんの報告がある禁煙治療薬は、チャンピクスだけではない。たとえば、 Beyens N-M, et al: Serious adverse reactions of Bupropion for smoking cessation. Analysis of the French Pharmacovigilance Database from 2001 to 2004. Drug Safety. 2008; 31, 1017-1026 によれば、ブプロピオンの投与 698,000 例により、75例のけいれんが起きたとしている。このうち95%は全身けいれんであった。発生率は 0.01%である。 分析の結果、投与量に比例した結果が得られている(p=0.0004). このけいれん発作はとくにけいれんの既往、アルコール中毒、けいれんを生じる薬剤の投与とくに抗うつ薬の危険因子などが50%に認められたという。 その結果、ブプロピオン はアメリカの添付文書では、痙攣の既往歴がある人や痙攣を起こす閾値が低い患者の場合には、「非常な注意をもって」使用すると言うことになっている。 そして、てんかんは禁忌に指定されている。 CONTRAINDICATIONS :ZYBAN is contraindicated in patients with a seizure disorder. ブプロピオン の痙攣誘発作用は、dose dependent と書いてあるように薬剤に起因するか、あるいは禁煙治療にともなう痙攣閾値の低下作用によるかは不明な点もあるが、ともかく痙攣を防ぐため、てんかんが禁忌となっていることは事実である。 さらに、禁煙治療の他の薬剤との関係では、次のようなデータがある。 http://www.ehealthme.com/cs/smoking+cessation+therapy/grand+mal+convulsion 2002年から2007年はニコチン製剤(ニコチンガムやニコチンパッチ),その後はブプロピオンとニコチン製剤、最近はバレニクリンとブプロピオンとニコチン製剤が関係していると思われる。これでみるように、けいれんはチャンピクスによるものだけではない。 ニコチン製剤やブプロピオンでも同様に起きている。 痙攣はむしろ、禁煙治療にともなう不眠症、アルコール多飲などが関与し、痙攣の閾値が低下することによって、それまで症状が治まっていたてんかん患者に多発している と考えることが相当である。実際に ニコチン製剤(ニコチネル TTS)の添付文書には、慎重投与として、(8)てんかん又はその既往のある患者(痙攣を引き起こすおそれがある)となっている。タバコやニコチン製剤に含まれているニコチンには、痙攣誘発作用はありえない。もしニコチンに痙攣誘発作用があれば、ヘビースモーカーは次々に痙攣を起こしているはずである。そうではなく、禁煙治療にともなう不眠・アルコール等の痙攣閾値が低下することこそが痙攣誘発の本態なのである。 このような記事で、世間を惑わすということは、マスメディアとして絶対にあってはならないことである。ぜひ訂正記事を出していただきたい。 |