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受動喫煙症診断基準 |
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(はじめに) 受動喫煙はどうやって証明できるか 受動喫煙時にはいろいろな自覚症状を感じることがある.たとえば,眼の刺激(眼が痛い,眼がしみる),喉の刺激(喉の痛み,咳き込む),脳血管の刺激(頭痛)などをただちに感じる.たとえば我が国の30歳から60歳を対照にした調査結果では日常のETS暴露の影響として,なんらかの症状を示すのは男性が32%であるのに対し,女性は70%であった(村松ら1992).これは喫煙者と禁煙者を区別していないデータである.たとえば,環境中タバコ煙の水溶性からみた眼および気道における刺激発生部位と関係する物質をみると水溶性の高いアンモニアは眼に刺激をあたえ,中等度の二酸化硫黄は気管支に刺激をあたえ,低い粒子相物質は肺胞に刺激をあたえるという(US department of HHS1986).このように人間のセンサーがもっとも敏感と思われるが,喫煙者の妻であって喫煙をしなかったにもかかわらず肺扁平上皮癌を発病したある患者は日常的に受動喫煙をしていたので,環境中タバコ煙に慣れを生じ,このような急性症状は呈しなくなっていた例もある. (受動喫煙症の順序) とはいえ,どの患者であっても,いきなり慢性受動喫煙症を発症することは希である.まず急性受動喫煙症(眼の刺激症状,喉の刺激症状,脳血管の刺激症状)を生じるのがふつうである.その際, 1.症状の出現が受動喫煙曝露開始(増大)後に始まった 2.疾患の症状が受動喫煙の停止とともに消失する.また受動喫煙の環境下に無ければ,いつまでも無症状である. 3.タバコ煙以外の有害物質曝露がない の3点が重要である.そしてこれを繰り返すことにより,蓋然性が増す.(再発性急性受動喫煙症). つぎに慢性受動喫煙症が発症する.化学物質過敏症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息あるいはその悪化、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、COPD,小児の肺炎・中耳炎・気管支炎・副鼻腔炎・身体的発育障害などがこれに属する.非喫煙者が週1時間を超えて繰り返しタバコ煙に曝露し,曝露後24時間以内に測定した尿からコチニンを検出する。ただし,検出感度外であったとしても再発性急性受動喫煙症を経過していれば,可能性が高い.そしてこれらの受動喫煙症に重なるようにして出現するのが肺癌・副鼻腔癌,虚血性心疾患などの重症受動喫煙症である. (コチニンの検出) いろいろのキットが売り出されている.もっとも感度が高いのはガスクロマトグラフィー法または高速液体クロマトグラフィー法であり,5〜10ng/ml以上が陽性と思われる.最近,ELISA法で高感度の測定が可能となっている.能動喫煙を行っている疑いがある場合は,CO濃度を測定するべきである. (診断書の発行) このように受動喫煙から疾患を発症している可能性が高い場合には受動喫煙症と診断し,健康増進法にのっとり,受動喫煙をやめさせなければならない. |
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受動喫煙症の分類と診断基準 |
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日本禁煙推進医師歯科医師連盟 受動喫煙の診断基準委員会 (作田 学、薗潤、山岡雅顕、野上浩志、加濃正人、松崎道幸、薗はじめ、大和浩) レベル0 正常 非喫煙者で、受動喫煙の機会がない。 レベル1 無症候性急性受動喫煙症 (疾患)急性受動喫煙があるが、無症候の場合。 (診断)タバコ煙に曝露の病歴があればよい。コチニン検出は不要。 (注意)本人がタバコ煙曝露についての自覚なしに見過ごされることもある。 レベル2 無症候性慢性受動喫煙症 (疾患)慢性受動喫煙があるが、無症候の場合。 (診断)週1時間以上の曝露が繰り返しある。コチニンを検出できる。 (注意)本人がタバコ煙曝露についての自覚なしに見過ごされることもある。 レベル3 急性受動喫煙症 (疾患)目・鼻・喉・気管の障害、頭痛、咳、喘息、狭心症、心筋梗塞 一過性脳虚血発作、脳梗塞、発疹、アレルギー性皮膚炎、化学物質過敏症 (診断)非喫煙者がタバコの煙に曝露した事実のみで、コチニン検出は不要。 (注意)眼症状にはかゆみ、痛み、涙、瞬目などがある。鼻症状にはくしゃみ、鼻閉、かゆみ、鼻汁などがある。これらは一般に非喫煙者の方が強い反応を示す。 1.症状の出現が受動喫煙曝露開始(増大)後に始まった 2.疾患の症状が受動喫煙の停止とともに消失する 3.タバコ煙以外の有害物質曝露がない の3点があれば、可能性が高い。 レベル4 慢性受動喫煙症 (疾患)化学物質過敏症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、COPD,小児の肺炎、中耳炎、気管支炎、副鼻腔炎、身体的発育障害など。 (診断)非喫煙者が週1時間を超えて繰り返しタバコ煙に曝露。曝露後24時間以内に測定した尿からコチニンを検出。 (注意)但し、1日数分であっても連日避けられない受動喫煙がある場合はこれに起因する慢性の症状やタバコ病が発症する可能性がある。状況を総合的に判断し、1日1時間以内であっても受動喫煙症と診断して良い。 レベル5 重症受動喫煙症 (疾患)悪性腫瘍(とくに肺癌など)、乳幼児突然死症候群、COPD,脳梗塞、心筋梗塞(致死性の疾患の場合) (診断)非喫煙者が週1時間を超えて繰り返しタバコ煙に曝露。曝露後24時間以内に測定した尿からコチニンを検出。 (注意)但し、1日数分であっても、連日避けられない受動喫煙がある場合はこれに起因する慢性の症状やタバコ病が発症する可能性がある。状況を総合的に判断し、1日1時間以内であっても受動喫煙症と診断して良い。 (注) コチニン検出レベルはガスクロマトグラフィー法または高速液体クロマトグラフィー法あるいはELISA法で5〜10ng/ml以上とする。 判断に迷うときには日本禁煙学会会員にご相談下さい。 |
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受動喫煙被害者支援のための診断書作成の留意点(松崎道幸) |
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職場などの受動喫煙に苦しむ方の支援をして、禁煙化や分煙化を推進することは、禁煙指導医のみならず医師一般の責務である。下記に、受動喫煙被害者が来院したときに作成すべき診断書の作成ポイントを記す。 1. 病名:(受動喫煙関連疾患=気管支喘息・慢性気管支炎・急性気管支炎・喘息様気管支炎・中耳炎・肺がん・虚血性心疾患・鼻炎・結膜炎・頭痛・咽喉頭炎など。) 2. 患者さんが非喫煙者であることの証明: 自己申告で充分。禁煙者であれば、過去の喫煙歴を併記する。呼気中CO濃度があればベスト。 3. 患者さんが受動喫煙者であることの証明: ・受動喫煙場所(職場・家庭・公共施設) ・期間 ・程度(部屋の面積、喫煙者数、換気設備の有無など、なるべく具体的に記述する) 4. 疾患が受動喫煙に起因すると判断した根拠: ・職業上あるいは居住地でタバコ煙以外の有害物質にされされているかどうか。 ・受動喫煙がなくなると症状が改善・消失したことがあるかどうか(週始めや長期休暇後など)。 5. 疾患により通院・入院・休業したあるいは今後要すると思われる日数(身体的被害の大きさの指標となる。患者さんは医療費の領収書を保存しておくこと) 6. 受動喫煙が続いた場合の疾患増悪や合併症の可能性を記載し、疾患の治療のために受動喫煙曝露の完全な停止が必要かどうかの意見を述べる。 |
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