禁煙会誌 第3巻第6号 2008年12月15日


目次



《原著論文》 泉佐野市路上での喫煙状況とゴミの中の吸殻調査 鈴木史明
 
《原著論文》 妊婦の口腔衛生、喫煙および受動喫煙に対する意識と社会的ニコチン依存度 稲垣幸司
 
《特別寄稿》 第3回FCTC締約国会議(南アフリカ・ダーバン)報告
世界の市民社会に屈した各国のエゴ
作田 学
 
《資 料》 WALK AGAINST TOBACCO 2006 WEEK 13 REVISITED (最終回) Mark Gibbens
 
《資 料》 WALK AGAINST TOBACCO 2006の回顧 大橋勝英
 
《資 料》 WAT 2006を振り返って‥ 黒木玲子
 
《記 録》 日本禁煙学会の対外活動記録(2008年10・11月)

日本禁煙学会雑誌第3巻第6号 2008年12月
第3巻第6号PDF版
(3,068KB)



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《原著論文》

泉佐野市路上での喫煙状況とゴミの中の吸殻調査

鈴木史明1 笠松隆洋2

1. 医療法人定生会谷口病院
2. 神戸市看護大学

連絡先
〒598-0043 大阪府泉佐野市大西1-5-20 医療法人定生会 谷口病院
  鈴木 史明
  TEL 072-463-3232 FAX 072-463-5714
  e-mail: f.suzuki@world.ocn.ne.jp

キーワード:路上喫煙、受動喫煙、喫煙可能区域、吸殻、健康増進法

1.はじめに
 我が国男性の喫煙率は、近年の禁煙支援や禁煙ブームによって年々低下する傾向にあり、現在は40%にまで低下しているものの、欧米諸国に比べると依然として高率である。一方、女性の喫煙率は諸国に比べて低率ではあるが、横ばい傾向である1)。2003年5月に健康増進法が施行され、その第25条で、「多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」と定められた。この法律により、公共の場では受動喫煙防止策がとられるようになり、禁煙区域が拡大した。この結果、喫煙可能区域が減少し受動喫煙の被害が減少傾向にあると思われる。その一方で、喫煙者は喫煙可能区域に集中すると考えられる。喫煙可能区域が、非喫煙者も利用する空間であれば受動喫煙の被害が増加する可能性もある。健康増進法の施行に伴い、大阪府泉佐野市においても喫煙者が減少しているのであろうか。それとも、増加しているのであろうか。そこで、泉佐野市の路上で、住民の喫煙や受動喫煙の状況および路上に捨てられた吸殻の数がどのように推移しているか実態調査を行った。

2.対象と方法
【方法1】
 調査期間は、2006年4月から2007年10月までの19か月間である。
 対象は、自動車運転者、バイク運転者、自転車運転者および歩行者である。
 調査場所は、(a):泉佐野市泉佐野駅前ロータリー、(b):泉佐野市泉佐野駅近隣の国道交差点、(c):泉佐野市在住の著者が自宅から勤務先の谷口病院に通勤する住宅街の行程約2kmの区間、以上3か所の路上である。泉佐野市は人口約10万人の地方都市であり、泉佐野駅は私鉄の駅で、特急の停車駅である。なお、泉佐野市は路上喫煙防止条例やタバコ吸殻ポイ捨て禁止条例は制定されていない。
 (a)地点では、日曜日の14時00分から15時00分の1時間、2か月に1回調査した。(b)地点では、(a)の調査日と同日の15時05分から16時05分の1時間調査した。(c)では、著者の通勤時間である平日の午前7時50分から8時05分までの15分間で調査した。(a)および(b)地点では、定点に著者が位置し、手に持ったタバコを肉眼で確認できる範囲内を通過する対象者を調査した。(c)では、著者の前方に位置する者を対象者とし、対象者の進行方向は問わずに調査した。これら調査は全て雨天以外の日に行った。
 調査項目は(a)、(b)、(c)の各調査場所を通過する自動車運転者数、同乗者の有無、バイク運転者数、歩行者数、運転者と歩行者の喫煙の有無である。これら対象者は、自動車運転者とバイク運転者を男女別に、歩行者は男女別で成人か子どもかに分けて集計した。運転者は、両手を目視できた場合のみを対象者とした。対象者の年齢は、著者の目視で判断した。そのため、明らかに20歳以上と判断できる者を成人とし、明らかに20歳未満と判断できる者を子どもとみなした。目視で判断に迷う場合は対象から除外した。本調査の前に行った予備調査で、自転車に乗車している者とその喫煙の有無を歩行者とは別に集計して調査したが、煩雑になり正確な人数を把握できなかった。このため、自転車に乗車している者を歩行者と区別せずに歩行者に含めて集計した。得られた結果から、(a)(b)では調査日の人数、(c)では各月の延べ人数から、喫煙者割合である喫煙者率{(喫煙者数/対象者数)×100}(%)を計算した。
【方法2】
 谷口病院では、運動指導の一環としてエコウォーク・ウェルというウォーキングを行っている。このウォーキングは、ecology、economy、walking、welfareを組み合わせ命名した。エコウォーク・ウェルは、医療従事者が患者と一緒にゴミ拾いをしながら行うウォーキングである。ゴミ拾いしながら、自然環境保護や健康について考えるとともに、運動指導を行っている。さらに、拾ったアルミ缶から取り外し、集めたプルタブを車椅子に交換し、その車椅子を福祉施設に寄付しようというウォーキングである。エコウォーク・ウェルを谷口病院の周辺約3kmの道路で、方法1と同じ調査期間内に4回行った。ゴミは持ち帰って分別し、タバコの吸殻の数とタバコのパッケージの数を調査した。エコウォーク・ウェルを行った地域は、住宅地である。その行程のうち約2.5kmの区間は、車道と歩道の区別のある道路で、歩道上のゴミと歩道から手の届く範囲内のゴミを収集した。残り約0.5kmの区間は、車道と歩道の区別のない一方通行の道路で、道路全体のゴミを収集した。また、全行程の道路沿いで蓋のない溝に落ちているゴミも可能な限り収集した。

3.結果
【方法1の結果】
 自動車運転者数(同乗者の有無別)、バイク運転者数、歩行者数(自転車運転者を含む)および喫煙者率について、表1に(a)地点での結果、表2に(b)地点での結果、表3に(c)通勤行程での結果を示した。なお、(c)行程の調査は通勤時間の午前7時50分から8時05分と限定したために調査可能日数は月に10日前後であった。1回の調査で出会う対象者数が少なかったため、1か月の延べ対象者数から喫煙者率を計算した。(c)通勤行程の8月の子どもの喫煙者率を除き、(a)、(b)、(c)いずれの場所においても、調査期間中に喫煙者率の推移に変化を認めなかった。(c)の通勤行程で出会う子どもは小学生と中学生がほとんどで、その多くは小学生であった。また、この通勤行程では、子どもの喫煙者は少数であった。男性の子どもの喫煙者率は、2006年8月に5.0%、2007年8月に7.1%であり、他の月に比べて高かった。


表1.(a):A駅前ロータリーでの対象者数と喫煙者率
表1.(a):A駅前ロータリーでの対象者数と喫煙者率


表2.(b):A駅近隣の国道交差点での対象者数と喫煙者率
表2.(b):A駅近隣の国道交差点での対象者数と喫煙者率


表3.(c):通勤途上2kmの区間における対象者の月毎延べ人数と喫煙者率
表3.(c):通勤途上2kmの区間における対象者の月毎延べ人数と喫煙者率
【方法2の結果】
 調査期間中、エコウォーク・ウェルの参加者は全て妊婦であった。安全確保と運動指導の充実を図るため、参加人数を1回3人までに限定した。また、エコウォーク・ウェル担当医療従事者はマンツーマンで指導に当たり、医師、助産師、看護師が担当した。今回の調査期間中、医師が毎回1名と1~2名の医療従事者が同伴した。調査期間中にエコウォーク・ウェルに参加した妊婦は4回のうち、3回は3名、1回は2名であった。
 エコウォーク・ウェルを4回行った際の、ごみの中のタバコの吸殻の本数を図1に、タバコのパッケージの数を図2に示した。エコウォーク・ウェル1回当りで収集できたタバコの吸殻の数は2,611±348本(平均値±標準偏差)であった。また、タバコのパッケージの数は49.5±13.3個(平均値±標準偏差)であった。また、参加者全員が妊婦であったことから、吸殻はできるだけ医療従事者が拾い、妊婦はできるだけ軽いゴミを拾うように配慮した。

4.考察
 WHOの試算によると、日本でタバコが原因とされる死亡者数は2000年には114,200人に達し2)、世界では2005年に500万人以上3)がタバコによって死亡している。これらの尊い命を救うために数々の対策がとられている。健康増進法の施行やタバコ規制枠組み条約の発効により、受動喫煙防止対策も加速されるようになり、我が国男性の喫煙率が減少傾向にあるのは望ましいことではあるが、先進諸国に比べると、喫煙率は依然として高い。ある有害物質が含まれている空気・水・食物を一生摂り続けても、その物質が原因での発がんリスクが10万分の1人以下となる基準が環境基準である4)。受動喫煙は、環境基準の5,000倍の致死リスクを持つと報告されている5)。我が国男性の喫煙率は諸外国に比べ高いことを考えれば、より強力な受動喫煙対策が急がれる。受動喫煙対策実施後に効果が現われて、初めて対策は意義あるものになる。公共施設において禁煙区域が拡大されているが、その入り口や周辺で喫煙者を見かけるのも事実である。そこで、非喫煙者も利用する喫煙可能区域において受動喫煙対策の効果が現われているか、泉佐野市路上で調査を行った。泉佐野市中心に位置する泉佐野駅周辺は男女を問わず、他の場所に比べ人通りが多いため、調査地点に選んだ。また、通勤途上は、地域住民の受動喫煙状況が把握できると考えた。
【方法1の結果について】
 (a)、(b)、(c)における喫煙者率は、ほとんどの調査月日で、どの場所でも成人男性で10%未満、成人女性で5%未満であり、男女ともに我が国の喫煙率1)に比べて低率であった。また、(a)、(b)、(c)いずれの場所でも、同乗者のいる車内や路上の喫煙者率の推移に変化がなかった。これらの場所において非喫煙者数が変化していない場合、受動喫煙の被害は減少していないと考えられる。(c)で出会う子どもの多くが小学生であったことから、ほとんどが非喫煙者であったと考えられる。2006年8月と2007年8月は夏休みに相当し、8月は子どもの喫煙者数も他の時期に比べて多かった。8月は対象となった子どもの総数が少ないため、喫煙者率が高くなったと考えられる。また、夏休みのため、開放感などから子どもの喫煙が増加したと考えられた。
 今回の調査により泉佐野市では、受動喫煙の被害が存続している可能性のあることが推測された。今後、禁煙区域がさらに拡大されれば、喫煙可能区域に喫煙者が集中する恐れがある。受動喫煙による被害が減少しているかを検証しながら受動喫煙対策を行わなければならない。
図1.エコウォーク・ウェルで収集したタバコの吸殻の本数
図1.エコウォーク・ウェルで収集したタバコの吸殻の本数



図2.エコウォーク・ウェルで収集したタバコのパッケージ数
図2.エコウォーク・ウェルで収集したタバコのパッケージ数
【方法2の結果について】
 エコウォーク・ウェルを開始する前、ゴミの多くはペットボトルや空き缶であろうと予測したが、実際にエコウォーク・ウェルを行い、ゴミを収集してみると、タバコの吸殻の数が群を抜いて多かった。アルミ缶のプルタブを集めて車椅子に交換できる方法を知り、エコウォーク・ウェルで拾ったアルミ缶のプルタブで得た車椅子を福祉施設に寄付しようと考えていた。プルタブが1個0.5gであり、160万個つまり800kg集まれば、1台の車椅子と交換できる。しかし、1回のゴミ収集で拾うことのできるアルミ缶は、どの調査日も50缶未満であった。タバコの吸殻がゴミの中で圧倒的に多いという事実を、何かに役立てることができないかと考えたのも本研究の発端であった。
 道路上のゴミを可能な限り全部拾うため、参加人数による収集ゴミの量や数には差はないと考えられる。また、重いゴミの場合や、ゴミの量が多くなって持ちきれない場合は、谷口病院に電話連絡して車でゴミを運搬した。
 タバコの吸殻が路上に存在するには、天候の影響を受ける。つまり、雨によってタバコの吸殻が流れたり、タバコの葉と紙が分離されたりする。今回行った4回のエコウォーク・ウェルは全て、雨天以外の日が3日以上続いた後で行った。
 タバコの吸殻の数は、平均で2,611本であり、5人が3時間で拾ったことから、1人が1時間に145本も拾ったことになる。また、3kmの路上での数であるから、約1m毎にタバコの吸殻が1本落ちていることになる。環境美化とはほど遠く、マナーの悪さには閉口する現実があった。
 方法1および2の調査は雨天でない日に行ったが、雨天時の調査であれば違った結果が得られた可能性がある。方法2では、晴天の持続日数、地域住民による清掃活動の実施の有無、道路清掃車がいつ清掃活動を行ったかによっても影響を受ける。これらの条件の違いがあるにもかかわらず、2,000~3,000本ものタバコの吸殻が短時間に収集されたのは、タバコ吸殻のポイ捨てが頻回になされていることを意味する。
 ところで、WHOは、2008年2月に新しいタバコ対策レポートを発表した3)。これは、世界各国のタバコ対策の現状を調査し、禁煙を推進するために各国が優先的に採るべき6つの政策を「MPOWER」というパッケージにまとめたものであり、P:Protect people from tobacco(人々を受動喫煙から守ること)、R:Raise taxes on tobacco(タバコ税の引き上げ)などが含まれる。それによると、禁煙推進に最も効果のある政策であるタバコ税の引き上げが反映されるタバコ価格について、我が国は欧米諸国の半分以下である。次に効果のある政策は人々を受動喫煙から守るための禁煙場所の増加であり、イギリスやフランスは公共施設で全国的に禁煙を義務づけ、韓国では医療施設や教育関連施設では禁煙を義務づけている。これに対して、我が国の健康増進法は、前述したように「受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」となっており、努力義務であり強制力はない。禁煙を国の法令として定めることにより、受動喫煙に対して完全に防止策をとることができることが理想であり、喫煙率の大幅な減少に結びつくであろう。このように、健康増進法施行に伴う受動喫煙防止は努力義務であるものの、屋内やこれに準ずる環境においては、ある程度の効果が期待できる。しかし、屋外の環境、すなわち路上や公園などはこの法律の対象外であり、受動喫煙について無策である。
 今回、一定の路上における喫煙状況を調査することにより、受動喫煙の実態を把握することができた。この種の調査が多くの地域で実施され、路上喫煙やタバコ吸殻ポイ捨ての実態が広範に把握できるようになれば、データの蓄積が地方自治体における路上喫煙防止条例や吸殻ポイ捨て禁止条例制定の足がかりになり得ると考える。そして、喫煙状況に応じて、喫煙規制条例が制定されれば、健康増進法の枠外にある路上での受動喫煙を防止することに繋がる。
 ところで、喫煙者が受動喫煙による健康への害を正しく理解、認識していないと、禁煙規制のない区域で非喫煙者が近くにいても喫煙することになる。一方、非喫煙者も受動喫煙の害を理解していない場合、禁煙規制のない区域で喫煙者のそばにいることで、受動喫煙の被害を受けることになる。無風状態においては、タバコ煙の臭いと発がん物質は最低半径7mまで到達する6)ので、喫煙者を中心に直径14m以内に人が存在すれば、受動喫煙の被害を受けることになる。自然環境下では無風状態ということはありえないので、さらに広範囲で受動喫煙の害を受ける可能性がある。このことを踏まえた法規制や受動喫煙対策を行い、さらに国民に対して受動喫煙による被害を周知徹底させることが必要である。
 今回、家庭内の受動喫煙状況を調査していないが、家庭内でも今回の調査結果と同様の傾向がみられることが予測される。禁煙区域の拡大により、家から外に出れば禁煙区域で過ごす時間が増し、禁煙区域を通過する機会が多くなる。喫煙者が喫煙できるのは、禁煙区域に入る前と出た後、禁煙区域ではないところで一定の時間を過ごす時などが考えられる。つまり、路上などで喫煙禁止区域以外の場所、車の中や家庭での喫煙が増加する可能性がある。また、禁煙区域周辺に灰皿を設置している所がある。灰皿の設置場所が喫煙場所という認識がなされる場合がある。全人類の健康のため、灰皿がすべて撤去されるまで、灰皿の設置を喫煙に結びつけるのではなく、タバコの火を消す場所であるとの認識が最低限必要である。
 一般に受動喫煙と言えば、非喫煙者の被害と考えられる。しかし、禁煙区域が拡大するにつれ、喫煙者は喫煙可能な一定区域に集中し、喫煙者自らも受動喫煙の被害を受ける頻度が増加すると考えられる。このため、喫煙者は今まで以上にタバコの害を被ることも考えられる。WHOは、受動喫煙には安全基準はなく、分煙や換気によって受動喫煙の害を減らすことはできないことを指摘している7)。谷口病院では、タバコの害や受動喫煙の被害から住民を守るため、「タバコなんか大嫌い!」と題した一般市民向けの講習会を開催している8)。これは劇、人形劇、紙芝居などの手段を用いて行う無煙・禁煙教育である。今後、喫煙率がさらに減少するか、願わくばゼロになることを期待したい。タバコの害をなくすために、我々はタバコ対策の成果を検証しながら、禁煙支援や受動喫煙の防止策を考えていかなければならない。

5.まとめ
 健康増進法が2003年に5月に施行されたことに伴い、公共の場での受動喫煙防止策がとられるようになった。このことから、受動喫煙による被害は減少することが予想される。そこで、2006年4月から2007年11月の間、喫煙可能区域の泉佐野市路上で、喫煙者の喫煙状況の推移を調査した。調査期間中において、喫煙者の割合に変化は認められなかった。また、同期間に泉佐野市谷口病院周辺の路上約3kmの区間で清掃活動を4回行ない、拾ったタバコの吸い殻とパッケ-ジの数を数えたが、変化はほとんど認められなかった。今回の調査結果から、泉佐野市の一定地域においては、受動喫煙の被害が存続している可能性のあることが推測された。受動喫煙対策の効果を確認するには、成果を検証しながら行うことが必要と考えられた。

本論文の要旨は、2008年8月第3回日本禁煙学会学術総会(広島)で発表した。

参考文献
1) 厚生統計協会編:国民衛生の動向 2008年版. 厚生統計協会,東京,2008;p.90‐91.
2) 最新たばこ情報/たばこのリスク/WHO推計値(日本): http://www.health‐net.or.jp/tobacco/risk/rs410000.html
3) WHO Report on the Global Tobacco Epidemic, 2008‐The MPOWER package. http://www.who.int/tobacco/mpower/mpower_report_full_2008.pdf
4) 花井荘輔:化学物質のリスクアセスメント.丸善,東京,2003; p.18‐19.
5) Doll R, Peto R, Wheatley K, et al : Mortality in relation to smoking: 40 years’ observations on male British doctors. Brit Med J. 1994 ; 309 : 901‐911.
6) Repace J.:Measurements of outdoor air pollution from secondhand smoke on the UMBC campus. http://www.repace.com/pdf/outdoorair.pdf
7) WHO Library Cataloguing‐in‐Publication Data: Protection from exposure to second‐hand tobacco smoke. Policy recommendations. http://www.who.int/tobacco/resources/publications/wntd/2007/who_protection_exposure_final_25June2007.pdf
8) 鈴木史明,谷口武,庄野明子他:産婦人科外来における禁煙指導に要する時間と禁煙成功率の検討. 産婦人科の進歩. 2007 ; 59 : 71‐76.


Survey on smoking and discarded cigarette butts on streets in Izumisano city

Fumiaki Suzuki1 , Takahiro Kasamatsu2

Measures for preventing second-hand smoke exposure in public places have been introduced since the implementation in May 2003 of the Health Promotion Law, and these measures are expected to reduce the damage caused by second-hand smoke. We therefore investigated changes in smoking condition in smoking areas on streets in Izumisano city between April 2006 and November 2007. There were no observed changes in the proportion of smokers during the study. Further, we cleaned an approximately 3-km section of streets around Hospital T in Izumisano city and counted the number of cigarette butts and packs retrieved a total of four times during the same period, and almost no changes were observed. The present findings indicate that exposure to second-hand smoke had not decreased in a given area of Izumisano city. Verification of actual achievements is necessary when confirming the effectiveness of measures against second-hand smoke.

Key words: smoking on streets, second-hand smoke, smoking area, cigarette butts, Health Promotion Law


1. Taniguchi Hospital, Izumisano, Japan
2. Kobe City College of Nursing, Kobe, Japan



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《原著論文》

妊婦の口腔衛生、喫煙および受動喫煙に対する意識と社会的ニコチン依存度

稲垣幸司1, 2, 12, 13、野口俊英2、大橋真弓3、細井延行3、森田一三4、中垣晴男4、埴岡 隆5、栗岡成人6, 13
遠藤 明7, 13、大谷哲也8, 13、磯村 毅9, 12, 13、吉井千春10, 13、加濃正人11, 13

1. 愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科
2. 愛知学院大学歯学部歯周病学講座
3. 名鉄病院産婦人科
4. 愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座
5. 福岡歯科大学・口腔保健学
6. 城北病院内科
7. 医療法人社団えんどう桔梗こどもクリニック
8. 国立成育医療センター研究所成育政策科学研究部
9. リセット禁煙研究会 トヨタ記念病院禁煙外来
10. 産業医科大学呼吸器内科
11. 新中川病院内科
12. 子どもをタバコから守る会・愛知
13. 禁煙心理学研究会:加濃式社会的ニコチン依存度(KTSND)ワーキンググループ
連絡先
〒464-8651 名古屋市千種区末盛通り2-11 愛知学院大学歯学部歯周病学講座
  稲垣幸司
  TEL 052 759 2150 FAX 052 759 2150
  E-mail: kojikun@dpc.aichi-gakuin.ac.jp

キーワード:妊婦、歯の健康づくり得点、喫煙、受動喫煙、加濃式社会的ニコチン依存度 (KTSND)

1.緒言
 一般的に、妊娠22 週以降37 週未満での分娩 (早産、Pre-term birth、PB)、あるいは、体重2.5kg 未満の低出生児出産(Low birth weight、LBW)は、成長発育過程での様々な障害の併発や、そのケアに関する社会的・経済的負担等の困難な側面を有することから重要視されている。
 2005年の厚生労働省の報告によると、出生時体重の単産の平均体重は、1975年には3.20kgであったが年々少なくなり、2004年は3.03kgと0.17kg少なくなっている。また、出生時体重が2.5kg未満のLBWの割合をみると、単産では1975年には4.6%であったが、年々増加し2004年には8.0%となっている1)
 早期低出生児出産(Pre-term Low Birth Weight 、PLBW)の2大危険因子は、喫煙とアルコールであるが、他には、出産歴、母親の低身長・低体重、肉体的・精神的ストレス、低い社会的地位と教育レベル、母親の栄養不良等が挙げられている2, 3)。このような現状において、慢性の炎症性疾患である歯周炎とPLBW との関係が注目されるようになった2, 3)。妊婦の歯周炎とPLBW との関連についての最初の疫学的報告は、1996 年のOffenbacher らによるものである2)。 1996 年から現在まで、妊婦の歯周炎とPLBW との関係を示唆する報告の方が多いものの、否定する報告4)もみられ、はっきりした見解に至っていない。しかし、疫学的調査に加えて、実験動物モデルによる研究、歯周炎関連細菌に対する母親と胎児の宿主応答に関する報告などから、歯周炎とPLBWの生物学的メカニズム解明が進み、妊婦の歯周炎に対する抗菌療法によらない治療介入によるPLBW の予防効果についても、その可能性が示唆されてきている5)
 一方、妊婦の喫煙により、胎盤早期剥離、前置胎盤、前期破水、遅滞破水など妊娠合併症や、妊娠中の肺塞栓症など心血管疾患のリスクが上がる。また、妊婦の喫煙だけでなく、受動喫煙、受精前の父親の喫煙により、精子・卵子の遺伝子や染色体の異常が起こり、胎児の器官形成の異常、胎児の成長異常に関与して、PLBWだけでなく、さまざまな先天異常を発生させる6)。しかし、喫煙の有害性の認識があるにも関わらず、妊婦の喫煙や出産後の再喫煙等の禁煙しない(できない)原因には、心理的依存が深く関与している。
 心理的ニコチン依存は、簡便な評価方法がなかったが、近年、加濃式社会的ニコチン依存度調査票 (Kano test for social nicotine dependence、 KTSND、10問30点満点、9点以下が規準範囲、表1)が考案され、喫煙者だけではなく、いろいろな集団での評価が可能となってきた7-20)。社会的ニコチン依存とは、「喫煙を美化、正当化、合理化し、またその害を否定することにより、文化性を持つ嗜好として社会に根付いた行為と認知する心理状態」と定義され、KTSNDはニコチンの心理的依存に起因する認知の歪み(喫煙の正当化、効用の過大評価など)を定量化するものである8)。これまでのKTSNDに関する報告7-20)から、KTSND得点は、喫煙者17~19点、前喫煙者12~15点、非喫煙者8~12点の順に低くなる傾向があり、また、各設問でも喫煙状況で有意差を認めている。しかし、妊婦に対して、KTSNDを用いた調査は、報告されていない。
 そこで、妊婦の口腔衛生や喫煙状況と出産、特にPLBWへの影響を把握する一助として、妊婦の口腔衛生、喫煙状況と家庭内の受動喫煙、妊娠に対する喫煙の為害性に関する認知度、KTSND(Version 2)を用いた社会的ニコチン依存度を検討した。さらに、追跡できた妊婦の妊娠期間や出産時の所見についても確認した。

2.対象と方法
 対象は、2006 年4月~10 月の間に分娩に訪れた妊婦217 名中,妊娠16~24週の安産教室に参加した妊婦95 名(21~40 歳、30.7±3.8 歳)である。口腔の健康指標となる10 項目の口腔内状況および生活習慣を点数化した歯の健康づくり得点(20 点満点、16 点以上が良好、表221)、現在歯数、喫煙歴、家族・同居者の喫煙(受動喫煙)、妊娠に対する喫煙や歯周病の有害性に関する認知度(11 問、表3)、約30 分の講義(歯周病、喫煙と受動喫煙の害および歯周組織への影響、リセット禁煙的心理教育22))前後のKTSND の結果を評価した。さらに、追跡できた妊婦の妊娠期間、新生児の身長、体重および仮死の度合いを評価するアプガースコアを確認した。なお、本研究は、愛知学院大学歯学部倫理委員会と名鉄病院倫理委員会の承認を受けて行った。
 統計解析は、喫煙状況(非喫煙者と前喫煙者・喫煙者)や受動喫煙の有無などの2群間の比較にはMann-Whitney のU 検定、喫煙状況と受動喫煙の有無で区分した4群間の比較にはKruskal Wallis 検定、講義前後のKTSND 得点の比較には対応のあるWilcoxon の符号付き順位検定、歯の健康づくり得点とKTSND 得点との関係はPearson の相関係数を用いて検討し、有意水準5%未満を有意と判定した(SPSS 15.0J for windows)。

3.結果
1)喫煙者1名(1.1%)、前喫煙者15 名(15.8%)、非喫煙者79 名(83.1%)で、家庭内での受動喫煙が39 名(42.4%)にみられた。喫煙者1名の喫煙本数は、1日4本(妊娠前は1日15 本)で、禁煙ステージは準備期であった。また、前喫煙者の禁煙時期は、最終月経以前7名、最終月経以後1名、妊娠自覚後7名であった(表4)。
2)現在歯数は、27.3 ± 3.6 歯(n = 58)、歯の健康づくり得点は、13.5 ± 3.6(10 以下16 名、16.8%、n = 94)であった。歯周炎に関連する歯肉出血症状のあるもの53 名(55.8%)、歯肉腫脹症状のあるもの19 名(20.0%)、両症状ともあるものは17 名(17.9%)となった(表5)。
3)妊婦への喫煙や歯周病の有害性に関する認知度は、11 項目中、5.6 ± 2.0項目で、喫煙状況や受動喫煙別での差異はなかった(n = 93、表5)。
4)喫煙状況別のKTSND 得点は、非喫煙者8.8 ± 4.2、喫煙者と前喫煙者13.2± 4.5(前喫煙者13.5 ± 4.5、喫煙者9)となった。すなわち、非喫煙者のKTSND得点は、喫煙者と前喫煙者に比べ、低値となった(P < 0.01、表5)。
5)KTSND 得点は、講義前に比べ、講義後10 問すべての項目で有意に低下し、講義前9.5 ± 4.6(10 以上47 名、49.5%)から、講義後4.6 ± 4.2(10 以上10 名、11.1%)へと減少した(P < 0.01、表5)。また、喫煙状況別においても、KTSND 得点は、講義前後で、非喫煙者8.8 ± 4.2 から4.2 ± 3.8、喫煙者と前喫煙者13.2 ± 4.5 から6.4 ± 5.2(前喫煙者13.5 ± 4.5 から6.5 ± 5.4、喫煙者9から5)へそれぞれ減少した(P < 0.01、表5)。すなわち、講義後には、KTSND が低下し、喫煙状況による有意な差異はみられなくなった(P =0.06)。
6)歯の健康づくり得点と講義後のKTSND 得点との間に、弱い負の相関がみられた(r = -0.24、 P < 0.05、図1)。
7)受動喫煙あり群39 名と受動喫煙なし群53 名で比較すると、講義前後のKTSND 得点に有意な差異はなかった(n = 92、表5)。しかし、喫煙状況と受動喫煙の有無で区分した4群間で比較すると、受動喫煙なし群の方が、年齢がやや高くなった(P < 0.05、表6)。また、受動喫煙あり群の喫煙・前喫煙群で、現在歯数が少なく、受動喫煙なし群の非喫煙群で、歯の健康づくり得点が高くなったが、有意な差異ではなかった(表6)。さらに、妊娠期間、新生児の身長、体重およびアプガースコアにも有意な差異はなかった。なお、新生児に関して、早産1名(36 週)、低出生体重1名(2,295g)の各妊婦は共に非喫煙者、軽症仮死2名の妊婦は、非喫煙者と前喫煙者であったが、いずれも家庭内の受動喫煙を認め、歯肉出血を自覚していた。また、受動喫煙群の家庭内での喫煙場所に関して、どこででも吸う6名、ベランダ7名、換気扇の下6名、家では吸わない18 名、不明2名であった。

表1 加濃式社会的ニコチン依存度調査票
表1 加濃式社会的ニコチン依存度調査票
各設問を0点から3点に点数化し、30 点満点で9点以下が正常範囲である。

表2 歯の健康づくり得点調査票
表2 歯の健康づくり得点調査票
各設問を0点から4点に点数化し、20 点満点で10 点以下が歯の健康づくりに望ましくない範囲である。


表3 妊娠に対する喫煙や歯周病の為害性に関する認知度
表3 妊娠に対する喫煙や歯周病の為害性に関する認知度
喫煙や歯周病の為害性に関する認知度11 項目からなる。


表4 対象者の年齢と喫煙状況
表4 対象者の年齢と喫煙状況
妊婦95 名の年齢と喫煙状況である。
表5 対象者の口腔所見と加濃式社会的ニコチン依存度
表5 対象者の口腔所見と加濃式社会的ニコチン依存度
妊婦95 名の口腔所見、喫煙や歯周病の為害性に関する認知度と講義前後の加濃式社会的ニコチン依存度を示した。


図1 歯の健康づくり得点と講義後の加濃式社会的
ニコチン依存度(KTSND)得点との相関

図1 歯の健康づくり得点と講義後の加濃式社会的ニコチン依存度(KTSND)得点との相関
講義後もKTSND 得点が高いと,歯の健康づくり得点が低いことが示唆された。


表6 妊婦の家族・同居者の喫煙(受動喫煙)の有無による比較(n = 92)
表6 妊婦の家族・同居者の喫煙(受動喫煙)の有無による比較(n = 92)
受動喫煙なし群の方が、年齢がやや高くなった。


表7 受動喫煙の有無による加濃式社会的ニコチン依存度の講義前後の設問別得点(n = 92)
表7 受動喫煙の有無による加濃式社会的ニコチン依存度の講義前後の設問別得点(n = 92)
講義前の受動喫煙あり群では、喫煙を容認する項目と喫煙の害を過小評価する項目が受動喫煙なし群より高い値を示した。


表8 妊婦の喫煙状況別の比較(n = 95)
表8 妊婦の喫煙状況別の比較(n = 95)
妊婦の喫煙状況による有意な差異はみられなかった。


8)KTSND の設問別では、講義前の受動喫煙あり群では、喫煙を容認する項目(「設問4 喫煙する生活習慣も尊重されてよい」と喫煙の害を過小評価する項目(「設問9 医者はタバコの害を騒ぎすぎる」)が受動喫煙なし群より高い値を示した(P < 0.05)。一方、講義後では、受動喫煙あり群で喫煙を容認する項目である設問4(P < 0.01)と「設問5 喫煙によって人生が豊かになる人もいる」(P < 0.05)、喫煙の効用を過大評価する項目(「設問6 タバコには効用(からだや精神に良い作用)がある」、P < 0.05)で高値を示した(表7)。
9)妊婦の喫煙状況別に、KTSND 以外の所見等を比較して表8に示した。現在歯数や歯の健康づくり得点が、非喫煙者で高くなったが、有意な差異ではなかった。同様に、その他の所見にも有意な差異はなかった。

4.考察
 妊娠前半期の安産教室に参加した妊婦95 名の調査から、歯はほとんど喪失していないが、歯肉出血症状をもつ妊婦が半数以上みられ、歯肉腫脹を併発している妊婦が20%ほどいること、KTSND が喫煙状況別による差異があるが、講義直後に低下すること、妊娠を契機に1名を除いて、喫煙者は禁煙していたが、約40%近くの妊婦が家庭内での受動喫煙の影響を受けていたことなどが判明した。
 これまでのKTSND に関する報告7-20)から、KTSND の総合得点は、喫煙者17~19 点、前喫煙者12~15 点、非喫煙者8~12 点の順に低くなる傾向があり、また、各設問でも喫煙状況で有意差を認めている。従来の報告と比べて、本研究では、前喫煙者では13 点台とほぼ同じであったが、非喫煙者は8点台とやや低くなった。
 喫煙状況別によるKTSND 得点の差異は、講義後には、喫煙状況に関係なく有意に低下し、差異はみられなくなった。従来から喫煙者の禁煙指導には、身体的ニコチン依存度を評価するthe Fagerström Tolerance Questionnaire( FTQ)24)やその改訂版であるthe Fagerström Test for Nicotine Dependence(FTND)24)が用いられてきた。一方、KTSND は、心理的ニコチン依存度を評価し、喫煙者だけではなく、非喫煙者や小児への適用10, 14)も可能であり、講義の効果を適切に判定できる19)ことから、その応用範囲は広い25)
 わが国の妊婦の喫煙率は、若年女性の喫煙率上昇に伴い、上昇傾向にある26)。すなわち、厚生労働省の乳幼児発育調査によると、平成2年の5.6%から平成12 年には10.0%と倍増し、特に、若年層15~19 歳で34.2%、20~24 歳で18.9%とかなり高く、本研究の対象者の平均年齢に近い25~29 歳で9.9%、30~34歳で6.6%となっている27)。また、大井田ら28)は、日本産婦人科医会の全国の産科医療機関において、平成14 年(260 施設16,528 名)と平成18 年(344 施設19,650 名)に妊婦の喫煙に関する調査を行い、それぞれ10.0%、 7.5%と報告している。一方、喫煙妊婦の3,4人に1人は自発的に禁煙するとされている26)。本研究の妊婦の喫煙者は、1名(1.1%)と低く、15 名(15.8%)が妊娠を契機に禁煙していた。しかし、妊娠に至るまで禁煙を考えないことは憂慮すべきことであり、未成年者への早期の禁煙教育の徹底が急務である。
 前述の乳幼児発育調査によると、母親が非喫煙であっても、父親や同居者の喫煙率は、41.5%と高く、母親が喫煙者であると、父親や同居者の喫煙率は83.6%にまで上昇すると報告されている27)。本研究の妊婦の受動喫煙率は、41.1%と母親が非喫煙者の調査結果とほぼ一致していた。妊婦は妊娠を契機として禁煙するものの、妊婦や同居者の受動喫煙に対する認識は低く、喫煙場所に関して、どこででも吸う、ベランダ、換気扇の下など、家庭内での受動喫煙の被害は深刻であり、講義での啓発に重点をおく必要がある。すなわち、講義前のKTSND 設問別では、受動喫煙あり群では、喫煙を容認する項目や喫煙の害を過小評価する項目が高くなったことからも推察された。また、本研究では、有意な差異ではないが、受動喫煙あり群で現在歯数がやや少なく、歯の健康づくり得点も低くなった。したがって、家庭内での受動喫煙による口腔への悪影響の可能性が示唆されたが、対象数を増やして慎重に検討する必要がある。
 さらに、歯の健康づくり得点と講義後のKTSND 得点との間には弱い負の相関関係がみられた。すなわち、歯の健康づくり得点が低い、口腔の健康に留意しない妊婦は、講義に対する理解度や関心が低く、KTSND 得点が低下しにくい傾向が示唆された。歯の健康づくり得点は、歯の喪失予測にも有用で、好ましい生活習慣の支援手段としても活用できることが報告されており30)、禁煙教育と同時に、口腔の健康についての啓発も重要である。
 新生児に関して、早産1名、低出生体重1名の各妊婦は共に非喫煙者、軽症仮死2名の妊婦は、非喫煙者と前喫煙者であったが、いずれも家庭内の受動喫煙を認め、歯肉出血を自覚していた。前述のように、慢性の炎症性疾患である歯周炎とPLBW との関係が注目されている2-4)ことから、今後は、対象を増やすと共に、妊婦の健康状態や出生児の状況、出産後の再喫煙を防止するよう、継続して啓発していく必要がある。

5.結論
 歯周病症状をもつ妊婦が多くみられた。妊娠を契機に1名を除いて、喫煙者は禁煙していたが、多くが家庭内での受動喫煙の影響を受けていた。講義の直後に、KTSND が著明に低下した。KTSND の妊婦への適用は、他の集団と同様に効果的であり、有用であった。今後、歯周病の改善と禁煙、受動喫煙からの回避、出産後の再喫煙の防止に向けて、繰り返し啓発、禁煙支援を継続することが重要と思われた。

6.謝辞
 本研究の一部は、平成19 年度と平成20 年度厚生労働科学研究(H18―がん臨床―若手―004)の補助によって行い、第1回日本禁煙科学会(2006 年12月17 日、京都)、平成18 年度愛知県小児保健協会学術研修会(2007 年2月18 日、大府)および第47 回国際歯科研究集会オーストラリア、ニュージーランド部門会(2007 年9月24 日、South Australia)にて発表した。


参考文献
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3) 和泉雄一、長谷川梢、古市保志:歯周病が出産に及ぼす影響を探る. In: 財団法人ライオン歯科衛生研究所編. 新しい健康科学への架け橋 歯周病と全身の健康を考える. 第1版, 医歯薬出版, 東京, 2004; p196-203.
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9) 吉井千春、加濃正人、稲垣幸司ほか:加濃式社会的ニコチン依存度調査票を用いた病院職員(福岡県内3病院)における社会的ニコチン依存の評価.禁煙会誌 2007;2:6-9.
10) 遠藤 明、加濃正人、吉井千春ほか:小学校高学年生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果.禁煙会誌 2007;2:10-12.
11) 吉井千春、栗岡成人、加濃正人ほか:加濃式社会的ニコチン依存度調査票(KTSND)を用いた「みやこ禁煙学会」参加者の喫煙に関する意識調査.禁煙会誌 2008;3:26-30.
12) 栗岡成人、稲垣幸司、吉井千春ほか:加濃式社会的ニコチン依存度調査票による女子学生のタバコに対する意識調査(2006 年度).禁煙会誌 2007;2:3-5.
13) 栗岡成人、吉井千春、加濃正人:女子学生のタバコに対する意識 加濃式社会的ニコチン依存度調査票Version 2 による解析.京都医会誌 2007;54:181-185.
14) 遠藤 明、加濃正人、吉井千春ほか:小学校高学年生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果.禁煙会誌 2007;2:10-12.
15) 遠藤 明、加濃正人、吉井千春ほか:中学生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果.禁煙会誌 2008;3:48-52.
16) 遠藤 明、加濃正人、吉井千春ほか:高校生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果.禁煙会誌 2008;3:7-10.
17) 栗岡成人、師岡康子、吉井千春ほか:禁煙保険治療3ヵ月後の治療効果と今後の課題.禁煙会誌 2008;3:4-6.
18) Jeong JH, Choi SB, Jung WY, et al: Evaluation of social nicotine dependence using the Kano test for social nicotine dependence (KTSND-K) questionnaire in Korea. Tuberc Respir Dis 2007;62:365-373.
19) 竹内あゆ美、稲垣幸司、大河内ひろみほか:歯科衛生士の社会的ニコチン依存度と禁煙教育の効果.日歯周誌 2008;50:185-192.
20) 稲垣幸司、林 潤一郎、丁 群展ほか:日本と台湾の歯学部学生の喫煙状況と社会的ニコチン依存度.禁煙会誌 2008;3:81-85.
21) 森田一三、 中垣晴男、 外山敦史ほか:住民の8020 達成のための市町村「歯の健康づくり得点」の作成.日本公衛誌 2000;47:421-429.
22) 磯村 毅:「リセット禁煙」による心理的ニコチン依存へのアプローチ 治療 2005;87:1947-1951.
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27) 厚生労働省 乳幼児発育調査: 妊娠中の喫煙・飲酒について
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28) 大井田 隆、曽根智史、武村真治ほか:わが国における妊婦の喫煙状況 日本公衛誌 2007;54:115-122.
29) 藤原久義、阿彦忠之、飯田真美ほか:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003-2004 年度合同研究班報告) 禁煙ガイドラインCirculation Journal 2005;69:1005-1103.
30) 熊谷法子、森田一三、中垣晴男ほか:"歯の健康づくり得点"による住民の歯の喪失予測性評価 日本公衛誌 2005;52:7-15.


Oral health, recognition to smoking and second-hand smoke, and social nicotine dependence in pregnant women

Koji Inagaki1, 2, 12, 13, Toshihide Noguchi2, Mayumi Ohhashi3, Nobuyuki Hosoi3, Ichizo Morita4, Haruo Nakagaki4, Takashi Hanioka5, Narito Kurioka6, 13, Akira Endo7, 13, Tetsuya Otani8, 13, Tsuyoshi Isomura9, 12, 13, Chiharu Yoshii10, 13, Masato Kano11, 13

Purpose: A smoking behaviour is maintained by psychological and physical dependence. We have already developed a health check questionnaire, “Oral Salutogenic Score (OSS)” and the “The Kano Test for Social Nicotine Dependence (KTSND)”, which contains psychological nicotine dependence.
The OSS and KTSND have ten questions with a total score of 20 and 30, respectively. In order to investigate the validity of the OSS and KTSND, we applied them to pregnant women.
Methods: We delivered the OSS and KTSND and received the 95 answers from subjects, aged 21 to 40 years (30.7 ± 3.8 years). After anti-smoking education, the KTSND was reevaluated.
Results: The present teeth and OSS were 27.3 ± 3.6, 13.5 ± 3.6, and OSS in 16 women were less than 10. Fifty nine women had signs of gingival bleeding and/or swelling. They consisted of one smoker (1.1%), 15 ex-smokers (15.8%), and 79 non-smokers (83.1%), and 39 of them inhaled second-hand smoke at home. The total KTSND score of 9.5 ± 4.6 decreased significantly to 4.6 ± 4.2 after the education (P < 0.01). According to smoking status, the KTSND score changed from 9 to 5 in smoker, 13.5 ± 4.5 to 6.5 ± 5.4 in ex-smokers, and 8.8 ± 4.2 to 4.2 ± 3.8 in non-smokers (P < 0.01). The KTSND scores in smokers and ex-smokers were significantly higher than those in non-smokers (P < 0.01), but there is no difference after anti-smoking education.
Conclusions: About sixty percent of women had periodontal signs. Smokers quitted smoking immediately after knowing they were pregnant, except one smoker. However, most pregnant women inhaled second-hand smoke. This study demonstrated that the KTSND well reflected the smoking status of the pregnant women and the positive effect of education. It is important to continue this type of education.

Key words: pregnant women, Oral Salutogenic Score (OSS), smoking, second-hand smoke, Kano test for social nicotine dependence (KTSND)


1. Department of Dental Hygiene, Aichi-Gakuin Junior College, Nagoya, Japan
2. Department of Periodontology, School of Dentistry, Aichi-Gakuin University, Nagoya, Japan
3. Division of Obstetrics and Gynecology, Meitetsu Hospital, Nagoya, Japan
4. Department of Preventive Dentistry and Dental Public Health, School of Dentistry, Aichi-Gakuin University, Nagoya, Japan
5. Department of Preventive and Public Health Dentistry, Fukuoka Dental College, Fukuoka, Japan
6. Department of Internal Medicine, Johoku Hospital, Kyoto, Japan
7. Endo Kikyo Children's Clinic, Hakodate, Japan
8. Department of Health Policy, National Research Institute for Child Health and Development, Tokyo, Japan
9. Reset Behavioral Research Group, Toyota Memorial Hospital, Toyota, Japan
10. Division of Respiratory Disease, School of Medicine, University of Occupational and Environmental Health Japan, Kitakyushu, Japan
11. Department of Internal Medicine, Shinnakagawa Hospital, Yokohama, Japan
12. Association for Prevention of Childhood Tobacco Exposure in Aichi Prefecture, Nagoya, Japan
13. KTSND working group in Research Group on Smoke-Free Psychology, Japan



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《特別寄稿》
 
第3回FCTC締約国会議(南アフリカ・ダーバン)報告
世界の市民社会に屈した各国のエゴ

日本禁煙学会理事長
作田 学

連絡先
〒162-0063 東京都新宿区市谷薬王寺町30-5-201 日本禁煙学会
  作田 学
  TEL: 090-4435-9673 FAX: 03-5360-6736
  e-mail:desk@nosmoke55.jp

キーワード:FCTC、COP3、WHO、FCA、レポートカード

 WHO(世界保健機関)のFCTC(たばこ規制枠組み条約)第3回締約国会議が11月17日から22日まで南アフリカ・ダーバンで開催されました。私と宮﨑恭一先生は禁煙学会から派遣されましたので、簡単にまとめてご報告としたいと思います。なお、宮﨑先生にも同じような主旨でお書きいただくことを要請いたしました。
 一言で言えば、世界の市民社会(Civil Society)の勝利とも言える今回の会議の結果でした。FCTC第5条3項のガイドラインの正否が攻防戦の勝敗を決める分水嶺ともなった今回でした。5条3項(締約国は、タバコの規制に関する公衆の健康のための政策を策定し及び実施するに当たり、国内法に従い、タバコ産業の商業上及び他の既存の利益からそのような政策を擁護するために行動する。)はたばこ事業法とは相容れません。したがって、法体系からはたばこ事業法を改正するべきです。また、ガイドラインはガイドラインであって、日本国政府はこれに縛られるものではないという理屈はよく耳にいたしますが、そもそもガイドラインとは、FCTCを批准して実行するべく決めた各国がFCTCを効果的に実行するためにはどうすればよいかを話し合い、定めたことです。ですから、実行するためのものであって、実行しなくても良いのだというのは、国民をあざむく、不当な考えだと言わざるを得ません。
 まずは前日の16日朝、南アフリカの保健省次官と保健大臣をはじめ数百人による、歌あり踊りありの平和なデモンストレーションがありました。数百人がゆっくりとダーバン市内を練り歩きました。最後にタバコはいかんぞと、ニコレットのコマーシャルに出てきそうな太いタバコを保健大臣(白人女性)が折るというパフォーマンスまでありました。私は人間の肺がタバコで汚れていく図柄のTシャツ(日本禁煙学会会員の中村典生様作成)を着ていきましたところ、みんなに注目され、写真を撮りまくられました。たしかに見回したところ、こういうTシャツはあまりないようでした。
 その日早くもNGOのFCA(タバコ規制同盟)の会議が開催されました。私は日本政府の対応はどうかと聞かれ、なるべく遅延させ、結局は認めることになろうと話しました。旧知のパラオのOtto上院議員、フィリピンのUle博士、マレーシアのアスンタ博士などと出会い、旧交をあたためました。今回はFCAに出席した人の数も150~200名で、しかも多くの諸国の代表団も含まれていたということが今までとは違った点でした。この圧倒的な世界の市民社会の圧力が最後まで有効に働きました。
第一日目
 朝7時の朝食を終えると、バスを待たずにタクシーでICC(国際会議センター)に直行しました。というのもまずは通行許可証を発行してもらうためです。
 ここで延々と待たされ、写真付きのパスポートをもらい、一安心です。何と言ってもアフリカですから、怒っても始まりません。
 私たちは用意したJapan Report Cardと禁煙学会のバッジを参考展示しました。このJapan Report Cardは東南アジアの各国が作っていたものをまねしたもので、12頁からなっています(図1)。今回は200部を持っていきましたが、土曜までにはほとんどなくなりました。会員の平賀典子様作成の禁煙飴も持っていきましたが、瞬間蒸発状態でした。
 午前中は地域別のミーティングがあり、午後はNGOのセミナーと第一回の全体会議があり、夜は南アフリカの保健省大臣主催の夕食会があって、1日が終わりました。
 2日目は午前中の地域別ミーティングがあり、第2回の全体会議(図2)のあとCommittee AとBに別れて討議を行いました。ランチタイムミーティングは「タバコ産業の妨害。その証拠」に出た後、AとBの会議です。Aは密貿易、5条3項を、BはFCTCの財政的な問題を主に討議しました。5条3項のガイドラインでは原案の”legal but lethal”という文学的表現にさっそくエクアドルやケニヤが反対し、あいまいだという批判を浴びせました。それまで拍手が続きましたが、日本(外務省星野氏)がCSR活動(企業の社会貢献活動)をすべて禁止する必要はない、国が株主なので、単純に5条3項は不可能だなどと発言したとたんに会場は凍り付いたようになってしまいました。
 しかし、この日のハイライトは中国でした。COP2で主席だった保健省の女性高官もいましたが、初めて見る男性が11条について、中国のタバコの美しいパッケージが汚い写真でけがされるのは適切でないと発言し、おもわず会場の失笑を買い、NGOの席では爆笑さえおこりました。これは早速翌日のDirty Ash Tray賞第一号となり、” To China for attempting to make a mockery of Article 11 guideline including preferring beautiful cigarette packages over the health of its citizens” とからかわれたものでした。これ以来、中国の対応はがらっと良い方向へ変わりました。Orchid(オーキッド)賞は良い働きをした国などに、Dirty Ash Tray賞は悪い働きをした国などに、FCAの夜のミーティングで長時間をかけて投票の結果決まります。FCAは全世界を代表する団体ですから、必然的に世界の市民社会の投票という意味を持つわけです。これはFCA のbulletinに毎朝載せられるだけなのですが、各国の代表団とも、この行方を固唾をのんで見守り、会議の方向を決める大きな力となりました。
 私はCommittee A, 宮﨑先生はBを担当することにしました。(図3
 3日目は地域別ミーティングのあと、委員会A、ランチタイムミーティングはタバコ製品のパッケージ、午後は全体会議の後再びAとBに別れて討議をしました。この日のハイライトは日本でした。13条のガイドラインに対して反対し、自販機は無くせない。インターネット販売は禁止できない。CSRではpromotional effectもあるが、津波災害の時など社会のために貢献している活動もある。字のみを記載するプレーン パッケージはおこなえない。画像などでタバコのパッケージを規制するのは言論の自由に反するなどと述べたのです。これはさっそく翌日のDirty Ash Tray賞となりましたが、その理由は「Japan for supporting “CSR” and failing to recognize that this is marketing by another name 」でした。ことほどさように全体の流れにさおを差してきた日本でしたが、4日目に宮下公使が現れて指揮を執るようになってからはがらっと変わりました。そして11条、13条を認め、全会一致で通りました。そして懸案の5条3項のガイドラインも諸議論のあげく、全会一致で採決され、決まりました。そしてなんと日本もオーキッド賞を獲得したのでした。第5日のランチタイムセミナーは受動喫煙禁止状況の報告でした。ドイツでは、着実に実行していると、保健大臣が力強く話してくれました。(図4
 今回の会議の成功は、もちろん各国代表団の努力によるものですが、それ以上に人種、国を超えた市民社会全体の圧力がものを言ったように感じております。日本政府も、20%を超える拠出金を出しながらも、世界各国からまったく尊敬されていないことを深く肝に銘ずるべきです。いつまでも一企業の利益を図っていては、日本の国益を損なうことは間違いありません。その一企業があまつさえ世界中の国民を死に至らしめているのですから、それはむしろ当然のことと言わざるを得ません。
 財務省所管のたばこ事業法を厚労省所管の禁煙法に変える時期が迫りつつあると確信しております。
 終わりに私たちがダーバンに行くことを快くお許し頂いたすべての方に感謝申し上げます(図5)。


(今回決まったガイドラインなどの内容)
5条3項ガイドライン
1. タバコ製品の常習性と有害性、およびタバコ産業が締約国のタバコ規制政策に対して行っている妨害行為について啓発をおこなう。
2. タバコ産業との相互関係を制限する措置を策定し、そのような相互関係が発生する場合の透明性を確保する。
3. タバコ産業との提携や、拘束力がない、あるいは実行不可能な協定を拒絶する。
4. 政府職員と従業者の利益相反を避ける。
5. タバコ産業から集められた情報には、透明性と正確さを要求する。
6. タバコ産業による“企業の社会的責任”と表現される活動を非正規化し、規制する。
7. タバコ産業に特別な処遇を供与しない。
8. 国営のタバコ会社についても、他のタバコ産業と同一に処遇する。
とし、具体的に

図1 レポートカード(12頁に現況をまとめてある)


図2 全体会議の様子


図3 委員会Aで


図4 ドイツの保健相と一緒に


図5 日本代表団と一緒に
1. タバコ産業がしばしば自らのかわりに個人や表向きの組織、外郭団体を使って、公然ともしくは陰で行動させたり、タバコ産業の利益を伸ばすために働かせるなどの手法を取ることについて認識を深める必要がある。
2. タバコ産業が開催あるいは資金供給した会議や会合に参画すべきではない。
3. タバコ産業が青少年教育や公教育、あるいはタバコ規制に直接・間接に関わるどのような会議にも参加したり機能を果たすことを禁止すべきである。
4. 政府や準政府団体の公務員や従業者が金銭もしくは現物での給付、贈与、サービスなどをタバコ産業から受けることを一切許可すべきではない。
5. 政党や候補者、選挙運動への寄付金を禁止すべきである。
6. タバコ産業が虚偽あるいは誤解を招く情報を流布した場合には、国の法律に基づいて強制的処罰を行うべきである。

11条ガイドライン
1. 主要面の50%以上を使い、画像で健康警告をする事が勧められる。
2. 交替表示をする。
3. 虚偽のまたは誤認をまねくようなライト、マイルド、エクストラ、ウルトラなどの用語を禁じる。
4. 簡略な包装にして、ロゴ、色、ブランドイメージなどを制限・禁止する。

13条ガイドライン
1. すべてのタバコ製品の宣伝、販売促進、ならびにスポンサー行為は禁止する。例外は認めない。
2. 小売店においてタバコ製品を陳列あるいは露出させる行為はタバコの宣伝と販売促進活動とみなされるから禁止されなければならない。自動販売機はその存在自体が宣伝と販売促進手段となっているから禁止すべきである。
3. 宣伝を防ぐためにプレイン・パッケージ(図6)を義務化するのがよい。
4. インターネット販売は禁止すべきである。
5. ブランド・ストレッチングとブランド・シェアリングを禁止すべきである。
(ブランド・ストレッチングとは、タバコ製品以外のものやサービスにブランド名、エンブレム、トレードマーク、ロゴ、記号などの目立つ外形を表示して、タバコ製品とタバコ製品以外の物やサービスを関連させ、ブランドを売り込むことで、ブランド・シェアリングとはタバコ製品以外の物あるいはサービスにブランド名、エンブレム、トレードマーク、ロゴ、記号などの目立つ外形あるいは色を表示して、タバコ製品あるいはタバコ会社と関連づけ、タバコ製品以外の物やサービスを見るとタバコ製品やタバコ会社がイメージされるようにする戦略のこと。)
6. タバコ産業によるいかなる形態の寄付行為、映画などのプロダクト・プレースメントを禁止する。
7. 罰せられる者としては、
コンテンツを制作、出版する個人または団体(広告代理店、デザイナー、新聞その他、放送会社と映画、テレビ、放送番組、ゲームやライブ公演の制作者など。メデイア、イベント主催者、スポーツ界のスター選手、映画スターおよび他の分野のアーティストなどがタバコの広告、販売促進、スポンサー活動に従事することは禁止する。
8. タバコ産業の「社会的責任」活動を禁止する。いかなる形態の寄付行為もスポンサー活動となるが故に、禁止すべきである。社会的責任を果たすための企業活動を禁止する。なぜなら、それそのものが宣伝、販売促進活動だからである。

図6 これがプレインパッケージです。マルボロの赤い意匠がありません。
参考サイト
Conference of the Parties to the WHO Framework Convention on Tobacco Control
http://www.who.int/gb/fctc/E/E_cop3.htm
タバコの規制に関する世界保健機関枠組条約締約国会議第3回会議資料・邦訳 (2008年11月17日~22日 南アフリカ・ダーバン)
http://www.nosmoke55.jp/data/0811cop3.html


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《WAT特集》

WALK AGAINST TOBACCO
2006
WEEK 13 REVISITED
(最終回)

Mark Gibbens

 なぜ、歩こうと思ったか
 鹿児島の佐多岬から、北海道の宗谷岬までの約3000kmを歩いて、このメッセージを伝えていきたいと考えています。

 あなたの健康を大事にして下さい。
 あなたの家族を大事にして下さい。
 あなたの友達を大事にして下さい。
 あなたの国 を大事にして下さい。
 禁煙は愛です!


 なぜ私がこのキャンペーンを計画したか、それは私はオーストラリアから来ています。オーストラリアは喫煙率の低い国です。でも、昔からではありません。人々が喫煙、受動喫煙の危険を知り、今の数字になっていったのです。政府はとても明確な喫煙の害のCMを流し、タバコの表示も写真付きでわかりやすくしています。タバコ税も高く、建物、バーであっても禁煙エリアは何%と法律で決まっています。
 今、世界の多くの国が禁煙の動きになってきています。政府の広告も日本に比べ、とてもはっきりと喫煙の危険を警告しています。
 ところが、日本は成人男性の47%が喫煙者と、驚く数字です。
 また、若い女性の喫煙率は増えていっているようです。
 これは、喫煙、受動喫煙の危険性の認識がそれほど重要視されてないからではと思いました。ただ、体に悪いとは知っていても、どう悪いのかといった知る機会がない。三度の食事より口にするのに何が成分でそれはどう体に影響する、またその煙の方が害があるのに、その影響もあまり知られていない。吸う人も吸わない人もそこを知る機会もなく、禁煙、分煙と言われてもただ困惑し、憤慨すると思います。それを知るべきだ、知ってもらいたいと歩く事にしたのです。
 また、私自身が主にICUの看護師でした。多くの医師、歯科医師が禁煙を推進しています。吸い続ける事がどんな事になるか、知っている私達が教えてあげなくてはいけない。治す事だけが、医療ではなく予防をする事も医療だと思います。こうして、歩くことも私の日本においてできる看護師としての仕事の一つと考えています。
 こうして、歩く事ははたして意味があるのかと思われるかもしれません。でも、何もしないよりした方がいいと思っています。このメッセージが一人でも多くの人に伝わるきっかけになればいいなと願い、遍路姿で歩きます。


前号からの続き―

 Always mindful of the fact that Reiko shouldn’t have to suffer through this walk, I set out on July 6th from Enbetsu at 7:30am by myself, leaving Reiko to enjoy a few more hours of sleep in our cosy cabin, whilst I headed north at a relaxed pace on an already warm morning. Route 232 changed into 106 as I followed the coastline through national park land to Wakasakanai, all the while getting closer to Mount Rishiri Fuji, a volcanic island just off the coast and named after its similarity to Mount Fuji, though quite a bit shorter at only 1721m.
 With Mt Rishiri Fuji in sight as a hazy half seen sentinel, I managed to get off the road and walk a few kilometres along the black sand beach drawn to the mountains hypnotic presence then turning my gaze inland at Wakasakanai, to the low green hills and a further two kilometres to our homely pension “Ashita no Joe” where after a hot bath we settled into the relaxed atmosphere of the communal living/dining room with a few of the other guests before taking a short ride for Reiko to enjoy the view of the sun setting behind Mt Rishiri Fuji, as a reward for her day of driving the support vehicle, then back to the pension for us both to be rewarded with a home cooked milk nabe dinner.
 The following day despite our excitement to reach the finish, we used as a planned rest day and an opportunity to reconnoitre the two main routes north to Wakkanai and organise our accommodation for tomorrow. From the begin I had always been undecided about whether to take the slightly shorter inland route or continue along the longer but cooler coastal route and now I had the chance for the second time on this walk to check the road ahead. The first time had been in Kyushu as I travelled down to Cape Sata so there was anther sense of symmetry as I now did the same at the end of the walk.
 Travelling in the support vehicle via the inland trail on route 40, we passed more farms and many more white marsh-mallow like hay bails, stopping for lunch in Wakkanai, organising hotel accommodation then returning in a big loop along the coastal route through low, lush grassy vegetation back to Wakasakanai.
 With only a few kilometres difference in distance I decided on the coastal route with considerations to road safety, scenery and entering Wakkanai from the north following the road around its small peninsular meant no back tracking as we would head east to our final goal of Cape Souya.
 Lying in bed that night listening to the patter of rain on the pension roof I wondered if this was some kind of bad omen for the finish. In the morning however, the rain had given way to a perfect cool, cloudy morning. Perfect that is for walking. Over the first 10km I enjoyed the solitude of a long empty beach with the ever present Rishiri Fuji watching over me, before once again being joined by Dr Shimizu who had journeyed across the island by car and bus just to push me along for a few hours. His thoughtfulness extended to making us a delicious picnic lunch, which was very much appreciated as there are no restaurants in this wild part of Japan and not a convenience store in sight. We continued on together for an hour after lunch before he caught a local train back to his car and I continued on alone into Wakkanai under an increasingly hot sun whilst Reiko was already checking into our hotel.
 At 6pm we were visited by Professor Kitada who had flown up from Sapporo for tomorrow’s finale, bringing with her a fresh supply of Royce chocolates to get me to the finish. Seeing her off on the bus to Cape Souya where she will stay the night, we then enjoyed a delicious and cheap seafood dinner in Restaurant Panagarue and finished off the evening in the city’s onsen “Spa-Dome”, soaking in its hot rotenburo looking up at the heavens and seeing my face reflected in a magical mirror of the moon almost full; reminding me of my first night’s adventure at Cape Sata under the watchful gaze of the same man in the moon.
 Day 88, July 9th the finale was to be a short walk of 32km after the 50km I had done the day before, however there was to be no time for slacking as I had promised my parents and supporters that I would arrive at 12:30pm so they could watch me on the Cape Souya web-cam.
 Whether it was the anticipation of finishing this journey or just the bright, early morning light but from 4am onwards my sleep was restless and by 6am we were up to meet Dr Kato (Niihama) at Wakkanai train station after his overnight trip from Sapporo. Starting out at a relaxed pace from the train station, underneath a “sun umbrella” cloudy sky at 7:30am, we allowed ourselves 5 hours to complete the 32km. After about 5km Dr Kato and I were joined by Dr Shimizu and conversation succeeded in slowing our pace, requiring me to pick it up several times. In an area of unpredictable mobile phone communication we were fortunate to receive a call from Dr Pink and Dr Pinpin in San Francisco on their way to the World No Tobacco Conference in Washington. Spurred on by their good wishes we again increased the walking pace and with Henro bells chiming along with our strides we reached Cape Souya at 12:30pm on schedule, with a brief stop just before the Cape to unfurl Dr Iwasa’s Himeji Red Cross Hospital Anti-Smoking Banner. Thus this strange looking Gaijin, in white Henro costume, with two Samurai styled banners fluttering in the strong breeze arrived on the threshold of Cape Souya to be welcomed by a small group of hardcore, enthusiastic supporters and a large welcoming banner unfurled in front of the apex of stone pillars that signify Japan’s most northerly point.
 Fortunately at the time of my arrival there was a lull in the tour bus activity and the sight-seeing people that were there gave way amidst the TV and newspaper reporters who were directing traffic and placing me on the pedestal with my wife and support crew Reiko by my side and flanked on either side by Dr Kato and Dr Shimizu waving the Japanese and Australian flags which was significant as 2006 was Australia-Japan year of exchange.
 A roll call of supporters at the finish included; Dr Kato (Ehime), Dr Shimizu (Hokkaido), Dr Inamoto and his wife Keiko (Osaka), Professor Kitada (Hokkaido), Ms Otani (Chiba), Kiku and Kana chan (Tokyo), and Mr T who rode his motor scooter 1500km from Tokyo just to be with me at the finish. Moreover, of the many who wanted to be with me and celebrate our small victory over ignorance and who supported us along the journey, more than 50 were represented in spirit by their good wishes, flying in the wind, written on the white background of a “Rising Sun”. This flag will be my personal treasure, as it represents the unification and communication that is possible from all the anti-smoking activists in Japan.
 The press’ most burning question was of course, “How do you feel”?
 To be honest, at that moment I just wanted to use a toilet, but more seriously, at the time it was hard to describe the feelings of the moment so much was happening around me, well-wishers, questioners and the general public uncomprehendingly gawking at you. It was all so surreal that my thoughts were cocooned deep inside me awaiting a time of reflection. I can say though that in the days that followed I was very emotional and at any time tears would flow for no particular reason and it was a weird feeling to wake up in the following days with the knowledge that I didn’t have to walk, something which my mind and body had become attuned to.
 What I can say about that final moment at Cape Souya, is the personal satisfaction of creating a plan to walk the length of Japan and executing that plan on schedule to the exact minute after 88 days. The other oppressive feeling of the moment and the reason I had walked was the continuing fact that 300 Japanese continue to die everyday from tobacco related illness and that the Japanese Government continues to ignore this grave problem. I’m sure that if a JAL “Jumbo jet” crashed everyday of the year, the Government would do something within a week to save those peoples lives.
 The Government’s hesitance does however allow me to applaud all those individuals and NPO groups who have given unbelievable support to this walk and more importantly, who work tirelessly with limited resources to make Japan a healthier place to live.
 There isn’t enough room here to write all your names, but you know who you are and you know how much Reiko and I have appreciated your support on our 88 day anti-smoking campaign. With this walk I set out to try and repay the kindness shown to me by the people of Japan in the time I have lived amongst you but once again I have been out done by your own generosity of spirit, time and money, so I don’t know how I will ever be able to repay you except with a simple, heart felt “Thankyou”.
 Final thanks must go to our last official home stay host, Dr Shimizu who entertained eight of us at his home, providing a wonderful dinner and a wonderful concluding celebration to this event.
 I don’t however see this as an end but a chance for a new beginning for all of us.
 If any of you believe in the talismanic magic of animals, then it is interesting to note that on the first night of this odyssey under a full moon at Cape Sata I met an inoshishi which I feel signifies stubbornness. On the last day, also in the full moon cycle, I met a fox which I feel signifies cunning. As anti-smoking groups with limited resources you must rely on stubbornness and cunning to change the tobacco culture in Japan.
 Many of our supporters have connected with each other, for the first time through us or the relay to sign our flag. Let’s continue to build on this communication and unite against “Big Tobacco”.
 It’s now over two years since I completed my Anti-Smoking Henro walk to raise awareness of the dangers of smoking tobacco, but my feeling hasn’t changed, now and always your slogan must be “TOGETHER AGAINST TOBACCO”.

 This is of course the concluding article in the series, life for me continues here in Australia where less people smoke but where I feel more indignant about the people who do smoke because they do so in full knowledge of the risks. There is little that I feel I can offer them, but I still want to use my talent for walking to help others.
 The death of a long time teacher, mentor, athletics coach and friend from Cancer has set me on the path of another great walk, to cross Australia from Perth via Adelaide and Melbourne to Sydney. It will be a solo walk of 5300km, as I can’t expect Reiko to endure sitting in a support vehicle for 12 hours a day a second time and besides she is now a full time Mother looking after our baby boy Joshua Shun Gibbens. This time it will be a real sacrifice to leave the family behind but I do believe it to be my duty to use my skills such as they are to better the lives of the people around me. As I set off from Perth on February 22nd 2009, to raise money for cancer research, I hope that you will all be thinking of me and sending your prayers and best wishes for a safe journey. There is no denying the power that supporters can give you whether it’s in a baseball stadium or on a hot road in the middle of Australia, its all about people power. If you’re interested in following this walk, there is again a web page at www.curecancerchallenge.org . I will be thinking of all my wonderful Japanese friends as I walk across Australia.

Your friend
Mark Gibbens
ASH kun


写真1 玲子さん、利尻富士をバックに


写真2 強風の中、のぼり持てずに稚内へ


写真3 清水央雄先生もバックアップ


写真4 稚内駅で(明日は宗谷へ)


写真5 9日に愛媛の加藤先生も合流


写真6 快晴の7月9日、3000キロを踏破して宗谷岬に


写真7 加藤先生は硬い握手のあと帰途に


写真8 清水先生宅で祝杯


写真9 右から稲本ご夫妻、かなちゃん、きくちゃん、
清水先生、東京のバイク野郎のたっつあん


写真10 喜びの一夜が明けて(撮影:かなちゃん)


参考サイト:Walk Against Tobacco 2006 (Galleryにいろいろな写真があります)
※WAT:WALK AGAINST TOBACCO


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《WAT特集》

WALK AGAINST TOBACCO 2006の回顧

WAT2006ディレクター 大橋勝英

 作田理事長から、WAT報告も12月号で最終回になるため、ディレクターの所感も添えたいとの依頼があり、執筆にとりかかった10月21日、マーク夫妻から男子誕生の知らせが届き、静かだったMLで祝福のメールが飛び交いました。
 鹿児島の佐多岬から宗谷岬間、禁煙祈願の3000キロを88日間で踏破するという壮大なプロジェクト。事実は小説よりも奇なり。数々の人情を受け、予期せぬドラマを経ながら、計画通りに到着した2006年7月9日、全国の支援者の間で歓声・称賛・感動が湧き上がりました。この偉業は禁煙ジャーナル2006年7-8月号に、日本の禁煙運動史上に残るとして特集されました。
 マークさんのHP(http://www.walkabout-tobacco.org/index.html)の表紙は壊れていますが、各週の様子は右端の写真集のGALALLYで一部見ることができます。また、徳島、高松、新居浜、松山での様子や、各地から寄せられた写真や新聞記事、日の丸リレーの写真集も私のHP(http://user.shikoku.ne.jp/kaohashi/gibbens.html)に掲載しておりますのでご覧下さい。
 マークさんは全豪陸上800メートルオリンピック候補にも挙げられたという、並外れた身体能力と精神の持ち主でした。歩くことは平気で、多くの国を歩き見聞してきたというインターナショナルな感性の持ち主でもありました。共に進み支えた玲子夫人の嬉しくもあった、辛くもあった、楽しくも悲しくもあったであろう真剣勝負の道のりを要点的に回顧しました。

1、加藤正隆医師の存在
 私の医院のごく近くで開業している加藤医師が、マークさんから英会話の指南を受けていた2005年、私は加藤医師からこのプロジェクトの相談を受け快諾しました。加藤医師がごく身近にいて、密に連絡しえたことが何においても幸いでした。彼は事務局長としてマークさんと連絡を取り合う具体的なことに専念し、私は日本医師会に後援を申請し、承諾のもと各地の医師会に迎え入れの要請やその後の礼状、支援ネットの管理(登録数88名)、各地の催しの写真やニュースビデオ、新聞記事の収集等、対外的なことに努めました。日本医師会からは都道府県医師会に、表敬訪問の折にはよろしくとの文書が送られ、その後の温かな受け入れにつながりました。日本医師会に感謝申し上げます。
 それに先立つ2001年5月の世界禁煙デーin新居浜で、来新されたワイガンド博士とマークさんが意見交換しました。マークさんは大いに刺激されたようでした。2004年、マークさんがこのプロジェクトを加藤医師に持ちかけたことからプロジェクトは動き始めました。2005年の世界禁煙デーinえひめの前夜祭で抱負を述べ、出席者はきょとんとしましたが、とてつもない考えで一同ピンとこなかったようです(写真1)。

2、2006年2月の禁煙医師連盟総会・禁煙学会松山大会で計画の決意表明
 マークさんは白装束に禁煙マーク入りの菅笠をまとい、腰にちりんちりんと鳴る鈴をつけ、「禁煙は愛」ののぼり旗を持って遍路姿で壇上に上がり決意表明しましたが、参加者に驚きと感動を呼び起こしました(写真2)。なぜ弘法大師が拓いた四国88か所の霊場巡りの遍路姿なのでしょうか?煩悩、祈願、闘病、人生の回顧等、さまざまな思いで多くの人が遍路しております。マークさんはこの遍路に魅せられ、わが国の禁煙祈願をこめて自ら88日間で列島を縦断する決意を固めたのでした。
 この霊場巡りでは多くの接待処があって、遍路さんに宿や休息や、お茶やお菓子や、食事でおもてなしをする風習があります。昔、ハンセン病の人達が夏は瀬戸内側、冬は高知側へと移動し、それでも多くの人々が接待を受けることができた時代があったと聞いております。

3、四国でWarm-up Walk
 3月17日から21日にかけて、徳島から高松経由松山までの約250キロのWarm-up Walkが行われました。先立つ14日には新居浜市医師会館で神職のもと厳粛な出発式が行われ、折しも吹雪でしたが多くの激励の拍手にマーク夫妻は決意新たに大きな一歩を踏み出しました(写真3、4、5)。
徳島では中瀬先生ご夫妻、高松では森田先生ご夫妻から、格別のご配慮やご支援を頂きました。立ち寄った新居浜市では、四国でいち早く市庁舎の禁煙やタバコ自販機を撤去した佐々木市長を訪問しました。

4、佐多岬から宗谷岬へ
 日本医師会、愛媛県医師会、新居浜市医師会、日本禁煙学会の後援のもと、4月13日、市来先生の道案内で雨の佐多岬に到着。午前10時、世紀の出発。その後の各地でのご支援やおもてなしについては述べきれません。ただただ感謝とお礼の気持ちがあるのみです。この道程のHPを通して、今までお名前でしか存じ上げてなかった禁煙の同志のお顔が解ることができるようになり、相互理解や絆の大きな力になったと思います。
 今までの報告を振り返ってみますと、各地の禁煙学会の会員がかなり関係していることがわかります。南から北に進むにつれ支援者が増えていきました。首を長くして待っていた支援者から、限られた時間を精一杯歓待していただき、イベントに取り組んで頂いている様子を、遠くから見るにつけ安堵やら感激やらで、毎日夜遅くまでのPCの作業も苦にならず、加藤医師ともどもパワーをいただきました。意を尽くせませんがお世話になった方々に厚く御礼申し上げます。
 稚内に入る前には清水先生は美唄まで迎えに来ていただき、稚内まで一緒に歩いてくれました。加藤医師も飛行機・列車を乗り継いで稚内にたどりつき、いよいよゴールの7月9日の朝は快晴でした。宗谷岬の正午過ぎ、千葉の大谷さん、大阪の稲本先生ご夫妻、東京のきくちゃん、かなちゃん、札幌からの北田先生、メディアほかが待ち受ける中、加藤医師、浜頓別の清水先生とともにマークさんは勢いよくゴールしました。大谷さんは朝からのトンボ帰りで、1時間余りの滞在の後に帰途につき、続いて加藤医師も愛媛に帰りました。
 この日、「禁煙推進の会えひめ」の研修会があって、中田ゆりさんたちと昼食会場に入ったおり、玲子夫人から感涙の電話があり、私も感激で言葉になりかねながら祝意を述べました。中田さんも声が震えていました。その後一行は清水先生の診療所で祝宴を開いたようです(写真6)。

5、日の丸リレー
 6月下旬、浜松の加藤一晴先生の急遽の発案で、大きな日の丸に寄せ書きをすることになり、まず新居浜から鹿児島の市来先生に送られ、次いで広島・岡山・姫路・神戸・香川・大阪・京都・滋賀・浜松・静岡・神奈川・東京・埼玉・茨城・栃木・宮城・岩手(写真7)へとリレーされ、稚内へ運ばれたのでした。限られた時間のため各地全ては無理なため、可能なところで必死にリレーされ間に合わすことができました。
http://user.shikoku.ne.jp/kaohashi/hinomaru.html
http://user.shikoku.ne.jp/kaohashi/hinomaru2.html
 期日に間に合わすために、大阪では稲本先生がバイクで、浜松では自ら静岡の花村さんへ車でぶっ飛ばした加藤一晴先生の活躍も忘れることはできません。
 浜松で寄せ書きをしそこなった多くの人からの追加の寄せ書き日の丸を、加藤一晴先生が新居浜まで持ってきて下さったのには驚きました(写真8)。

6、支援ネット
 計画が公表されてからは各地からMLに登録希望の申し出が日に日に増え、情報の共有化に役立ちました。九州地区が手薄で心配しましたが石寺さんの飛び入りや、大和先生がいる産業医科大学の皆さんに助けられました。MLに最初に登録した人は薗ご夫妻。最後の88番目(偶然)が大谷美津子さんでした。

7、新居浜で祝賀会
 7月16日、支援者で祝賀会を開きました。遠くは千葉の大谷さん、徳島から中瀬先生ご家族、高松から森田先生達がかけつけ祝って下さいました(写真9)。

8、おわりに
 こうして振り返ってみますと、この壮大なプロジェクトに実に多くの心豊かで純な同志の、精一杯のご支援を頂きました。マークさんの足跡は非常に大きなものになりました。思い浮かべれば感動が再びよみがえってきます。物心両面でご支援を賜りました皆様に重ね重ね厚く御礼を申し上げ、回顧録とさせて頂きます。マークさんの志を受け継いで前進していきましょう。ありがとうございました。





写真1 2005年の世界禁煙デー愛媛の前夜祭で計画を表明


写真2 2006年2月の禁煙医師連盟松山総会で決意表明


写真3 3月14日新居浜市医師会で出発式


写真4 3月14日新居浜市医師会で出発式


写真5 3月14日新居浜市医師会で出発式

写真6 清水先生宅で祝宴


写真7 宮城の上沼診療所、佐々木直英先生の赤ちゃんも署名

写真8 加藤一晴先生が浜松での追加の日の丸寄せ書きを新居浜に

写真9 新居浜市での祝賀会



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《WAT特集》

WAT 2006を振り返って‥

黒木玲子

 WAT2006のマークの連載を、お読みいただきありがとうございました。早いもので、あれから2年の月日が経ちました。
 あのWAT2006は 一生忘れる事の出来ない 私達の人生において、いろんな意味をもたらしてくれたWALKでした。

 初めて、マークからWALKの事を聞いた時 夫婦でありながら、他人事のように聞いていました。そして、僕は日本語をうまく話せないから 僕は歩いてメッセージを伝えたい。でも、各地でやはり言葉で伝える機会もあるだろうから その時、口になって欲しいと言われました。正直、どれだけメッセージを伝えられるものだろうか、歩くと一口に言っても 日本縦断‥知らない土地を運転していく事にも不安がありました。しかし、マークはどんどん準備をしていきます。あのトレードマークの、のぼり旗に遍路姿を初めて見た時は「これで歩くの!?」と、少し恥ずかしくも思いました。

 マークに会った方なら、ご存知と思いますが どちらかと言うとおとなしいタイプ。目立ちたがり屋ではありません。しかし、あの格好はどうも目立つ。でも目立たないと意味がない。初めは、恥ずかしいと思ったあの格好も いざWALKを始めると、知らない土地と言うこともあってか そう恥ずかしく感じなくなりました。毎日、毎日 あの遍路姿を後ろから追いかけながら、その土地土地の人々の反応を見る事が出来ました。やはり、どうしても目立つのです。ありがたい事に、新聞などで取り上げて下さる事により WALKの意味が伝わりやすくなったと思います。私は数キロ毎にコンビニで待ちマークはそこでほんの数分の休憩をとり、また歩いていきます、時には喫煙者の車が時にはいぶかしげに 時には「なんだあれ」と笑いながら、彼を見て行きます。そんな時、妻として腹立たしくもあったり 辛く感じる時もあったり、またちゃんとメッセージが伝わってる事に喜びを感じる事もありました。

 道行く人々が、マークに「頑張って!」と声援を送って下さいます。マークを見て拝むおばあちゃんもいらっしゃいました。わざわざ、追っかけてくださった方々もいます。たくさんの方々が、何かしら理由があって 家族を癌で亡くしたとかがあり、煙のない社会を望んでいる方々がいるというのを感じました。

 私自身、このWALKがなければ 多くの人がそうであるように、タバコに対して煙は嫌いだけど 受動喫煙に関しても無頓着だったと思います。しかし、私はマークの「口」になった時から 自分なりにタバコについて勉強しました。そして、一般人の私が 何も知らなかった私が、知って驚いた事 知らせなければいけないと感じた事を、私なりの言葉で伝えていこうと思いました。

 排気ガスで薄汚れた遍路姿で、痛んだ足をびっこを引きながら歩く姿を後ろから見た時、どうしてそこまでするの?って何度もその後ろ姿に問いかけました。なぜ、歩きなのかと初めは思いましたが、マークは、一歩一歩 歩きながら私達 日本人より多くのものを見たかもしれません。車や自転車で行く事も出来たでしょう。しかし、敢えて彼は歩くという事を選びました。今では、それは正解だったと思います。
 88日間、ただ一生懸命に マークは歩いて行きました。雨の日も風の日もただひたすら‥ あの88日間は、マークも私も 何かに突き動かされながら 進んでいったような気がします。ただ、一心に“禁煙は愛”を伝えたいという気持ちだけで 宗谷岬まで行く事が出来ました。
 しかし、宗谷岬に到着しても 二人とも終わったという感じはありませんでした。なぜなら、WALKは終わったけれども 禁煙を訴えていく事は終わってはいけないから‥終われないから‥

 WALK後、私達はオーストラリアに移住しました。禁煙が進んでいる豪においても、受動喫煙を受ける事があります。この10月17日に長男を出産した事により、尚更 煙に敏感になりました。

 長男には、JOSHUA “成志歩”と名付けました。
 父親のWALKのように、何事にも志を持って 一歩一歩進み、成し遂げてって欲しいとの気持ちを込めました。この子が大きくなる頃には、お父さんのWALKが笑い話になる時代になっていてほしいと思います。それには、世界中がまだまだですが いつかそんな日が来る事を信じています。

 また2009年、マークは新たなWALKを計画しています。パースから、シドニーまで歩きます。子供も出来たのにと言われる事もありますが、マークはだからこそ歩くのではと思います。ジョシュアのようなたくさんの子供が小児癌と戦っています。癌に対しての研究が進み、一日も早い新薬の開発が望まれます。それには多大な費用が必要とされます。今回のマークのWALKの目的は、スポンサーや募金を募り、その募金をキャンサーリサーチに募金する事にあります。新たな志が成し遂げられるよう、私は今回は祈るだけです。

 最後になりましたが、日本中でお世話になったサポーターの皆様方 本当にありがとうございました。皆様方の応援がなかったら、このWALKは成し遂げれなかったと思います。
 本当に、本当にありがとうございました! 皆様とは遠く離れていますが、同じ空 空気で繋がっています。煙のない社会を目指す思いは一緒です。

 “禁煙は愛”ですから‥

黒木玲子






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日本禁煙学会の対外活動記録
(2008年10・11月)
11月16日 タバコに関する全国規制改革要望書を提出




日本禁煙学会雑誌
(禁煙会誌)
ISSN 1882-6806

第3巻第6号 2008年12月15日

発行 特定非営利活動法人 日本禁煙学会


〒162-0063
新宿区市谷薬王寺町30-5-201 日本禁煙学会事務局内
電話 090-4435-9673
ファックス 03-5360-6736
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