たばこ規制枠組み条約の効力を弱めた日本の影響力についての考察 (著者および翻訳したFocused Communications社の許諾を得て掲載) |
日本語訳PDF版(内容はこのページの以下部分と同じ) 原文PDF版 表1 日本の首相についてFCTC関連で特筆すべき事柄 表2 ジュネーブのINBに各国が送り込んだ代表数 表3 議長原案からFCTC最終稿へ |
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(要約) |
たばこ規制枠組み条約の効力を弱めた日本の影響力についての考察 |
メアリー・アサンタ、サイモン・チャプマン Focused Communications社 訳 |
背景:日本政府は日本のたばこ産業における大株主である。世界保健機関(以下、WHO)が、この歴史的なたばこ規制枠組み条約(以下、FCTC)の作成に向けて行った協議は参加国の合意に基づくもので、条文の作成にあたって各国は受け入れ得る最低限の基準に同意しなければならなかった。 目的:FCTCの条文を別の文言で言い換えようとする協議において日本がどんな役割を担ったかを明らかにする。 方法:FCTCの6つの協議に関する概略報告、文書提案書、会議用論文、スピーチの中で繰り返し使用されている表現、コンセプト、そこに表された趣旨を検証していく。重要な利害関係者へのインタビュー。代表的な言い換え表現−「主権(sovereignty)」、「適切な(appropriate)」、「自由裁量(latitude)」、「個々の(individual)」、「柔軟性(flexibility)」、「してもよい(may)」−について考察する。 結果:日本政府が行った「適切な(appropriate)」代替方法の提案はFCTCの最終稿に反映され、主要なたばこ規制の解釈と実施に幅を持たせてしまった。言い換え表現を提案したのは日本だけではないが、総意には日本の申し入れが反映された。 結論:広範囲にわたって言い換え表現を提案した日本の主張が認められたことで、FCTCの効力は著しく弱まった。したがって、喫煙が引き起こす疾病を削減しようとする国際的なたばこ規制の成果も損なわれてしまうであろうと思われる。 2004年6月、日本は世界に先駆けた20か国に混じり、WHOのたばこ規制枠組み条約(FCTC)を批准した。日本の批准は「WHOたばこのない世界構想(以下、TFI)」の元代表をして「驚くべき方向転換」と言わしめ、また、たばこによって大きな利益を得ているために国際的なたばこ規制に強く反対している三大勢力のひとつとして日本をみてきた多くのたばこ規制関係者を驚かせた。日本政府がたばこ業界世界第三位の多国籍企業「日本たばこ産業(以下、JT)」の大株主であるということが、日本のたばこ規制対策が不十分である原因と見る向きが多い。協議期間中、日本とアメリカ、ドイツは共に、FCTCに反対する方向で動いていると思われた。日本が提案した立場は、必ずしもたばこ規制の重要な基盤となりうる厳格な条約を作り上げようとするものではなかった。それでも日本がFCTCの批准に踏み切ったのはなぜなのだろうか? 国際的な条約を作成する協議は、「科学でなく技術である。そしてその結果、利害も異なれば政策の優先順位もさまざまな多くの法域の中でも、矛盾のない、優美なバランスを保った生きた文書が生まれる」と言われてきた。他の条約作成の経験、特に環境問題の分野における経験を通して言えるのは、参加各国の合意を得るという制約のもとで条約を作り上げるためには、譲歩が不可欠になるということである。「最低限の取引基準を求める傾向が著しく、意欲的な目標や明らかな標的、目標達成のためのスケジュールなどは除外されるか緩和されるのが常である。」これは、2000年10月から2003年2月まで3年という年月を費やした後に、2003年3月、世界保健総会(以下、WHA)加盟国が満場一致で採択したという、FCTC協議の重要な側面を言い表している。世界中に蔓延する病に対処すべく制定された保健分野の歴史に残る条文であると歓迎される一方で、なるべく多い国から支持が得られるように「弱い強制力」しか持たない条約となってしまったのである。 条約の持つ力がその文言の中にあるとしたら、言い換え表現が多くなればなるほど、その力は弱まるだろう。解釈にあたって、強制的な表現や順守を義務付ける文言を使わないで、柔軟性を持たせる言い回しをしたり、順守するかどうかを任意にしたりすれば、条約の持つ力はそれだけ弱くなる。 WHAは1970年以来、たばこ規制のさまざまな側面において18の決議を採択してきた。これらの決議は各国が自国のたばこ規制法を通過させる際につねに参照されてきたとは言うものの、法的強制力がないため、あまり重要でないとみなされることも多かった。WHAは1996年にFCTC制定に向けてひとつの決議を採択したが、1998年にグロハーレム・ブルントラント博士がWHO事務局長に選出されてから、やっとFCTC制定に向けて強力に動き始めた。ブルントラント博士は2003年5月をFCTC制定のデッドラインに設定し、協議開始の推進力とした。2000年10月の第一回協議の直前10月12日、13日の両日には、初めての試みとして公聴会を開催、利害関係のあるあらゆる機関に対しFCTCの最初の条文で見解を述べる機会を与えた。144の組織や機関が識者を前に口頭で証言し、514の文書がWHOに提出された。表1は重要事項の要約である。 WHO加盟国は政府間協議交渉団体(以下、INB)を召集し、6回の会議でFCTCの条文について協議した。各加盟国はその代表団の規模に関わらず平等の決議権を有したが、一方で日本の参加が特に関心を集めた。日本政府が多国籍企業JTの実質的な所有者であり、その経営に大きな支配力を持っていたからである。会議を重ねるたびに日本は代表団の人数を増やし、6回目のINBには加盟国中最大の人員を送り込んできた(表2)。 日本の代表団の構成は協議の進展によって変化した。最初の2回のINBでは、日本の代表は主に厚生労働省から出ており、財務省からの代表はいなかった。しかし6回目までには財務省からの代表の数が厚生労働省の代表と同数になった。このことはたばこ産業からの収益がいかに重要であるかを物語っている。 この論文はFCTCの制定とその最終文言に対して日本がどのような申し入れをしたかを考察するものである。日本がFCTCの最終文言を批准するまでには、条文の重要な箇所は強制的な表現から随意的な表現へと緩和され、このような条約がたばこ産業のもたらす利益に及ぼすであろう影響を懸念する日本政府にとって、FCTCがより受け入れやすいものとなっていく様を検証していく。 方法 WHOドキュメンテーション・センターにあるFCTC関連文書のうち、日本に関する96の文書を再考する。これらの文書には概略報告−正式な交渉において口頭で述べられたコメント、文書提案書、スピーチ、その他関連文書などがある。これらの資料についてはFCTC決議において日本の代表団が行った提案に関連するすべての箇所を再検討した。また情報はFCTCの条項に取り上げられている項目ごとに以下のように分類した。すなわち、総論/定義条項、基本方針/指針/義務、租税措置、二次喫煙、生産規制、原料の開示、包装と表示、教育、広告/宣伝、不法取引の削減、未成年者への販売、製造業と農業−助成金、法的責任と補償、調査と監視、事務局と財源である。これにより系統だった索引が可能となり、日本政府の立場を分析するのに役立った。 繰り返し登場するコンセプトと言い回しのパターンを特定した。「適切な(appropriate)」、「してもよい(may)」、「自由裁量(latitude)」、「個々の(individual)」、「主権(sovereignty)」、「柔軟性(flexibility)」といった言い換え表現を、条約の解釈に幅を持たせる表現として選別した。そして、6回の会議(INB1からINB6)で日本政府が行った提案が、公聴会におけるJTの冒頭陳述といかに符号しているかを検証すべく使用した。また、6回の会議を通して日本政府が述べた見解がFCTCの最終稿にどれほど一致しているかを論証するために最終稿を分析した。オンライン英字新聞での日本とFCTCについての記事およびタバコ業界紙を検証、またFCTCから得た資料を裏づけし、追加情報を得るため9件の半構造的インタビューを実施した。インタビューはテープに録音し、筆記したが、その対象は、外務省政府高官が一人、厚生労働省政府高官二人、元厚生労働省役人一人、国会議員一人、NGOから三人、TFI元代表(一人)からである。 結果 論調の設定 WHO公聴会に提出された514の文書のうち、公共の保健機関からのものがたばこ業界からの文書を4:1で上回った。また口頭で行われた144の証言のうちの80%はFCTCが厳しいたばこ規制に乗り出すことに賛同し、条約制定の協議からたばこ産業をはずすようにと要望、公共保健機関が目指すところとたばこ産業が経済的目標とするところの違いが浮き彫りになった。日本からは15の機関から文書が提出されたが、その6件(40%)がたばこ規制に賛成、9件(60%)がたばこ業界寄りの文書で、公聴会全体の比率と対照的だった。 JTが提出した文書は、たばこの消費を減らそうとするFCTCの基本目標に明らかに反していた。「主権を有する(sovereign)」あるいは「主権(sovereignty)」という表現が11回使用され、各政府の自主性を尊重する重要性を説いていた。政府はたばこ規制法の内容を独自に決定すべきで、FCTCに具体化されているような基準を強制されてはならない、言い換えれば、FCTCは幅広く柔軟性を持つべきで、規範的であってはならない、という内容だった。 JTはまた、5分間のプレゼンテーションの中で「適切な(appropriate)」という表現を8回使っている。「適切な規制」、「社会と文化にとって適切な規制の枠組み」、「喫煙者と非喫煙者の適切な分離」、「機密性の適切な保護」そして、加盟各国はすでにFCTCの目標に適切に対応してきている、と主張した。JTの言う適切な対策では、たばこ広告を全面的に禁止することもなければ、「ライト」や「マイルド」といったブランド名をパッケージに記載することも禁止していない(表3)。こうした提案は日本政府が決議の中で主張した論点と一致している。 JT同様、ブリティッシュ・アメリカン・たばこ社(以下、BAT)もまた、規制・基準・公共政策といった言葉と共に「適切な」という表現を用いている。BATが公聴会に提出した文書には、自らが賛同するある種の規制について述べるために、「適切な」という言葉を14回使っている。WHO事務局長は公聴会に提出された文書について論評した際、BATが適切だと主張する規制については効果がなく、「若者や成人のたばこ消費に与える影響はごく限られたものである」と述べている。 6回のINBにおいて日本政府が行った申し入れは、JTの主張と非常に似かよっている(表3)。JTは「個々の政府」を尊重し「政府の自由裁量を犯さ」ないこと、「法規制の枠組みを主権を有する政府」に任せることが重要だと主張したが、それは「具体的な事柄についての決定を個々の政府に任せる」べきだという日本政府の見解と符合する。日本はより多くの国が批准できる総則的な条約を好ましいとしていた。条約に自由裁量と柔軟性を与えるという考え方も、JTが暗黙のうちに提案していたものであるが、これもまた決議の間中、日本政府が貫いた見解だった。 第一回のINBにおいて、日本は「具体的な方策を決定するある程度の自由裁量を各加盟国に認める」よう申し入れた。そしてその方策は法的措置でなくてもよくて、義務を遂行するために必要な実施面においてさらに柔軟性を持たせうる「行政措置」でもかまわないと主張した。最終回のINBでも日本は「たばこ規制枠組み条約は個々の国の諸事情を十分に考慮した効果的かつ柔軟なものであるべき」との立場を堅持した。 条約における言い換え表現 FCTCの最終稿には日本が決議を通して提案し続けた言い換え表現が反映されている。特に、日本の代表が4つの重要議題として挙げた包装と表示、広告と宣伝、法的責任、財源の条項においてそれは顕著である(表3)。 「適切な」 JT同様、日本政府は6回のINBにおける提案の中で「適切な」という言葉を少なくとも34回使用している。日本政府は「適切な国際的たばこ規制枠組み条約を作成」し、「条約よりももっと詳細な内容を記載した協定を策定」しようとしていた。外務省は柔軟性およびFCTCに「適切な」という言葉を使うことがすべての国にとって好ましいことと考えていた。 「確かに私たちはそう主張しました。そうしなければ、日本だけでなく他の国にとっても、現実に条約を順守するのが難しくなるでしょうからね。そうでなければどの国も条約を批准することはできませんよ。」(外務省高官へのメアリー・アサンタのインタビュー) 議長の原文では、「18歳未満を対象にしたたばこの広告、直接的であれ間接的であれ、宣伝やスポンサーシップを禁止」し「18歳以上にターゲットを絞った広告、宣伝、スポンサーシップの厳しい規制」を適用する、となっていた。日本は「厳しい規制」を「適切な規制」に、「あらゆる形でスポンサーになること」を「たばこブランドのスポンサーになること」と言い換えるよう交渉した。つまり、たばこ会社は自らの会社名を使って広告を出すことが許され、「適切な規制」により加盟国には解釈の余地が残されているということになる。FCTCの最終文言では、柔軟性が保証され、禁止か「規制」かは各政府の選択に任されることになった。FCTCの最終稿では序文を含む19の条項のうちに「適切な」という言葉が62回登場している。 「してもよい」 日本代表はいくつかの条項に「してもよい」という表現を加えるよう申し入れた。たとえば、「国内当局が規定した、絵や絵文字を含んでもよいし回転してもよい一般的な健康についての警告」といった具合である。議長の原案ではたばこのパッケージには絵文字を含む健康についての警告を記載すべきであり、「ロータール」、「ライト」、「マイルド」といった言葉はどこにも使ってはならない、となっていた。日本の立場は言葉の使用を禁じるというよりも、これらの言葉を付した製品なら「他人の健康に及ぼす害が少ないだろうとの印象を与える」ことはない、ということを立証しようとする、むしろ妥当なやり方であった。最終稿では健康についての警告には絵文字が含まれていてもよいし、「ライト」、「マイルド」などの言葉を含んでいてもよい、ということになった(表3)。「してもよい」という言葉は4つの重要議題を含む16の条項の中に27回現れている。 「またはその他の方法で」 文言を弱める他の確実な方法は、「法的」措置、「運営上の」措置、「行政上の」措置、という表現の後に「またはその他の方法で」というフレーズを付け加えることである。日本政府は一般の人々がたばこの煙に晒されるのを防ごうとする文言に「またはその他の方法で」という表現を付け加えるよう提案した。そして「日本では行政的措置も含めたさまざまな方策を組み合わせることで、法規に頼らずとも、受動喫煙をかなり減らすことが出来た」と説明した。曖昧で漠然とした文言により、法規に従わなくてすむ一層柔軟性のある解釈が可能になり、新たに法律を制定したり政府の規制を増やしたりしなくて済むようになるため、この言外にある意味は重要である。 「国内法に従い」 解釈に幅を持たせるもうひとつの手段として「国内法に従い」というフレーズの使用がある。日本はこのフレーズを使うことを数回提案している。たとえば表示の項目では、「国内法に従い、適切な方策を導入・実施することにより・・・」となっている。これにより、新しい法を制定しなくてもたばこ包装に関する文言に対応できることになる。INB3において、日本はまた「その支配権と能力の範囲内で」といった別の表現を提案し、価格と課税方法、未成年者へのたばこの販売に関する文言に柔軟性をもたせようとしている。INB4ではアフリカ地域代表から「能力に従い」という表現は、条約を順守しなくてもすむ抜け道になりうるので、効力を弱めるのではないか、との指摘があった。東南アジア地域代表もまた、この言い回しは冗長であると反対した。 文言の削除 日本は、文言が規定的であったり厳しすぎたりする箇所で、6回の会議中、少なくとも35回にわたってその文言を削除するよう要請した。たとえば、原料リストの項目で「あらゆる原料からすべてを取り除くべきである」とか「売り場広告」といった箇所は、教育と社会認識を促すための戦略として削除すべきである、と主張した。INB6においては法的責任に関する文言を削除するよう求めた。FCTC最終稿の法的責任についての文言は、「犯罪や補償を含む法的責任について対処しなければならない場合には、法的措置をとることを考慮する」という、加盟国に選択の余地を残した大まかな表現となった。 議長の原案では、国内外に供給できる財源を要請していた。国外に関しては、補助金もしくは譲許金として、自発的な形で財源が確保されるよう求めていた。INB3で、日本政府は多国間基金として強制的に財源を確保する案には賛同できない、とした。またたばこ産業を財源確保の標的にすることにも反対した。最後の交渉では、日本はその文言を削除するよう要請した。最終結果として、「加盟国のうち、発展途上国と移行経済国のたばこ規制総合計画を促進・強化していくための資金調達は、二国間、地域間・準地域間および多国間の適切な経路を利用して促進していく」という弱い文言に収まったのである。 議論 FCTC決議は投票ではなく合議により行われたので、加盟国は最低限の意見の一致をみなければならず、最終文言は議長原案よりはるかに弱い条文となった。4回の会議の後、2002年10月に第5回INBが開催されたとき、事務局長は条約の文言が自身の期待した基準には達しないものの「たたき台としては良い」という見解を示した。事務局長は加盟国に対して、最終決議までに幅広い支持が見込める法案を作成しておくように、と呼びかけた。 条約の文言はWHA加盟各国の協議の結果として出来上がったが、最終文言が出来上がる過程で文言を削除させた日本の役割の大きさを認識しなければならない。最終稿には日本の主張が取り入れられている。合議の原則により、弱い見解を表明した国の意見はすべて反映されている。 TFI元代表は日本の交渉姿勢を歓迎した。 「日本が、どんなふうに法案を提出したいのか、という関連でこのことを考えねばなりません。日本はたばこ産業が、こうした自主規制という大きな自由裁量の余地を与えられることもないまま、現行の業務を変えざるをえなくなってしまうような法律にはとにかく反対なんですからね。それはたばこに限ったことではありません。食糧政策でも薬事法でも、日本が市場取引全般にアプローチする姿勢にはすべて同じ言い回しがあてはまりますよ。」(元TFI代表デリク・ヤッハへのメアリー・アサンタのインタビュー) これは、他の条約の文言を決議する際にも日本が慣行する「トーンダウン」、強制的な義務を廃し、明確な表現をはっきりとしない曖昧な表現に差し替えるやり方と一致している。包括的法案は「効果的なたばこ規制の核心」だと考えられるが、日本の立場は異なる。日本政府によると、たとえ法律でなくても他の手段で効果があるならば、それで同じ目的を達成できる、ということになる。 「ですから、我々にとっては適切な措置というのがとても重要なのです。実際に法律を改正する必要があるとしたら、何年もかかってしまいますから。指針さえあれば、あとは短時間で効果があげられますからね。」(外務省高官へのメアリー・アサンタのインタビュー) これまで日本が他の条約をどの程度順守してきたかということを考えると、今後もあまり大きな変化が見られるとは思えず、日本におけるFCTCの履行もおそらく「当てにはならない」だろう(レビン・M、『パーソナル・コミュニケーションズ』、2005年12月8日)。日本のある政府高官はFCTCが可決された後、「日本がFCTCの義務を履行するには、法律を施行したり予算を組んだりする必要はない」と非公式に書いている。この論評によれば、たばこのパッケージ上の「健康についての警告」を改定し、最低でも30%のパッケージに記載すべく2005年6月30日に向けて段階的取り組みを始めており、また、たばこの広告を制限するなど、FCTCのいくつかの条項の順守に必要な措置をすでに日本は取っている、ということである。「健康についての警告」の条項にもっと厳しい解釈を与えて、図式による警告を付すこともできるのだが、日本は言葉による警告だけを導入しようとしていたようだ。 FCTCの協議期間中、海外、現地双方のメディアは、たばこ規制に対する姿勢を再考するよう、日本にプレッシャーを与えた。とりわけ、2003年の条約施行に先立ってたばこ規制を強化しておくように、とのFCTCの要請を日本政府が重要視しなかったことに対して批判が集中した。外務省のある高官は、日本の条約批准に対するメディアの関心と社会的支持は「私が予想していたよりずっと大きい」と認めている。 日本の外では、FCTCの決議に国際的に活動するNGOが参加し、日本政府の見解の弱さに対して「汚れた灰皿賞」を授与(日本の受賞回数が一番多かった)するなど、日本は公衆の面前で恥をかかされることになった。2002年3月のINB4では、日本はあるNGOから「悪の枢軸」のひとつと名指しされた。「このように非難され、くくられることにショックを受けた」(元厚生労働省高官へのメアリー・アサンタのインタビュー)日本の政府高官たちは、その後の交渉姿勢を変えてきた。禁煙議員同盟によると、「悪の枢軸」というレッテルは「政治的てこ入れ」となって、ロビー活動の「キーワード」として効を奏した(禁煙議員同盟の国会議員へのメアリー・アサンタのインタビュー)。 条約批准を求める国内外の情報筋が日本に向けてくるであろうプレッシャーと、国内のたばこ産業の利益を保護するという相矛盾するプレッシャーのはざまで、日本政府は両方の利害を緩和できる戦略を練った。これまで批准した条約の例に従って、条約の文言を弱めることが中道として役に立った。FCTCの最終文言は日本の主張に折り合ったもので、とりわけ重要な問題において十分な操作ができうる余地のある言い換え表現が採択された。 FCTC協議を通じて日本の態度を貫いていたのは、JTの国内外における売上を最大限に伸ばすために、その影響を最小限にとどめたい、という思いだったと推定される。JTとJTIは、協議期間中にはヨーロッパの取り組みに対して抗議し、批准後は「ライト」、「マイルド」など誤解を招く表示を無くそうとするアジアの動きと対決した。FCTCの文言を言い換えるようにとの日本の主張が認められて、条約の効力は弱まった。その結果、もし加盟国がFCTCの示す最低基準以上のことをしなくなったとしたら、喫煙がもたらす疾病を削減しようとする国際的なたばこ規制の成果は、損なわれてしまうことだろう。 |
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