2007年7月18日掲載

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受動喫煙防止条約

解説
 たばこ規制枠組み条約第八条とそのガイドラインは合わせて受動喫煙防止条約とも言える内容になっている。このガイドラインは2007年4月に各国へ示され、6月にタイ・バンコクにてCOP2(たばこ規制枠組み条約第2回締約国会議)で全体会議をおこなった。
 その場で、参加126ヶ国のなかで日本政府だけが3カ所の削除や曖昧な用語への変更を訴えた。この異様とも言える日本政府代表団の目的は明らかである。それは曖昧な言辞のままにしておき、実際には何もしないでおこうという意図であり、これはJTあるいはタバコ企業の意志に従うものであったと思われる。
 これに対しては直ちにパラオのCaleb Otto代表(上院議員)の反対の演説があり、チリ、インドが続いた。3時間後の午後のセッションが始まる時に、それまで昼食もとらずに電話をかけまくっていた代表団は、ついに字句の削除・訂正の要望を取り下げ、これによって満場一致で認められたのであった(2007年7月4日)。
 日本政府が取り下げ、認めたことで、第8条およびガイドラインを誠意を持って、速やかにbest practiceで実行しなければならない。公共の場、職場、レストラン、交通機関など例外なく完全に禁煙になる、そのデッドラインは2010年2月である。
(解説:理事長 作田 学)

 

COP2:CONFERENCE OF THE PARTIES Second session(第2回締約国会議)
 

  

(受動喫煙防止条約)

タバコ規制枠組み条約第八条 

タバコの煙にさらされることからの保護

 

1 締約国は、タバコの煙にさらされることが死亡、疾病及び障害を引き起こすことが科学的証拠により明白に証明されていることを認識する。

 

2 締約国は、屋内の職場、公共の輸送機関、屋内の公共の場所及び適当な場合には他の公共の場所におけるタバコの煙にさらされることからの保護を定める効果的な立法上、執行上、行政上又は他の措置を国内法によって決定された既存の国の権限の範囲内で採択し及び実施し、並びに権限のある他の当局による当該措置の採択及び実施を積極的に促進する。

 

 

付属書 1

タバコ規制に関するWHO枠組み条約第1回締約国会合決定FCTC/COP1(15)に基づき

作業グループが作成した

受動喫煙からの保護に関するガイドライン

http://www.who.int/gb/fctc/PDF/cop2/FCTC_COP2_17P-en.pdfよりダウンロード

 

趣旨、目的ならびに鍵となる考慮事項

 

本ガイドラインの趣旨

1.         WHO枠組み条約の他の条項ならびに締約国会議の意図との一致のもとで、本ガイドラインは、第8条で定められた条約上の義務を締約国が果たす上で助けとなることを目指している。それらは受動喫煙曝露低減に有効な対策の実施に成功した締約国の最良の証拠と経験に基づいて作られている。

2.         本ガイドラインは、合意の得られた原則、用語の定義、条約上の義務を果たす上で必要な対策に関する勧告をその内容としている。さらに、本ガイドラインは受動喫煙の危険を有効に防止できる対策を明示している。締約国は本ガイドラインをこの条約上の義務の最低限の履行のためだけに使うのではなく、公衆の健康を守る最良の実践を追及する指針として活用すべきである。

 

本ガイドラインの目的

3.         本ガイドラインには二つの目的がある。第一は、条約遵守に関する高度な説明責任基準を確立し、締約国が達成可能な最高の健康基準を実現することを援助するために、受動喫煙に関する科学的証拠と国際的にみて最良の受動喫煙対策と合致したやり方で、締約国がWHO枠組み条約第8条で定められた義務を履行するための援助である。第二の目標は、条約第8条が義務付けているように、人々を受動喫煙から効果的に保護するために必要な立法上の鍵となる事項を明らかにする事である。

 

前提となる考え方

4.         これらのガイドラインの作成にあたっては、以下の基本的考え方が取り入れられている。

(a)       第8条条文にあるタバコ煙からの保護義務は、基本的人権と自由に基づいたものである。受動喫煙が有害だとすれば、タバコ煙からの保護は、多くの国の憲法で認められWHO枠組み条約前文で公式に述べられているように、多くの国際法制(世界保健機構憲章、こどもの権利条約、すべての女性差別根絶条約、経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約)が指摘している生存権と達成可能な最高の健康を獲得できる権利に暗に含まれている。

(b)       個人を受動喫煙から守る義務は、政府に、個人をその基本的人権と自由の脅威から守る法律を執行する責任があることを意味する。この義務はすべての人に対して負っており、ある特定の人々だけに負っているのではない。

(c)       いくつかの権威ある科学的機関は、受動喫煙がガンを起こすと認定している。WHO枠組条約のいくつかの締約国(たとえばフィンランド・ドイツ)は受動喫煙を発ガン物質に分類しており、それらの国の健康安全法令には、職場での受動喫煙曝露防止規定が存在する。条約第8条に規定する義務に加え、締約国には、すでに存在する職場に関する法令あるいは発ガン物質を含む有害物質への曝露を規制する他の法令と調和する、受動喫煙の害に対する対策を講ずる義務があると考えられる。

 

受動喫煙からの保護のための原則と用語の適切な定義

原則

5.         WHO枠組み条約第4条で述べたように、すべての人々を受動喫煙から守る対策を講ずるための強力な政治的介入が必要である。諸原則と一致した次に述べる事項を、本条約第8条履行の手引きとする必要がある。

原則1

6.         WHO枠組み条約第8条が予想しているように、受動喫煙からの保護のための有効な方策を実行するためには、特定の場所あるいは環境における喫煙とタバコ煙を完全に除去して、100%タバコ煙のない法的環境を作り出す必要がある。タバコ煙曝露に安全レベルはない。また受動喫煙の毒性に閾値があるという考えは棄却さるべきである。なぜなら、そのような観念は科学的証拠により否定されているからである。換気、空気清浄機、喫煙区域の指定(換気系を分離していようといまいと)など、100%タバコの煙のない法的環境を実現する以外の解決策が無効であることはこれまでに繰り返し証明されてきた。そして、工学的解決策は受動喫煙からの保護をもたらさないという科学的な確定的証拠が存在する。

原則2

7.         すべての人々は受動喫煙から守られなければならない。すべての屋内の職場とすべての公衆の集まる場所は禁煙でなければならない。

原則3

8.         人々を受動喫煙から守るには法律が必要である。自主規制による禁煙対策は効果がなく、十分な保護が得られないことが繰り返し示されている。効果的な対策を行うためには、法律はシンプルで、明確な、施行可能なものにする必要がある。

原則4

9.         屋内完全禁煙法を成功裏に施行するには、しっかりした計画と十分な財源が不可欠である。

原則5

10.      屋内完全禁煙対策を支持し遵守させる上で、市民社会には中心的役割が課せられている。そして、この法律を策定し、履行し、遵守させるプロセスにおいては、積極的なパートナーの一翼になってもらう必要がある。

原則6

11.      屋内禁煙法制の履行、執行およびその効果をすべて観察し評価する必要がある。これには、本枠組み条約第204項にあるとおり、この法制の履行と執行を弱めようとするタバコ産業の活動を監視し対応を行うことも含まれる。

原則7

12.      受動喫煙から人々を保護する対策は、必要な場合、強化され拡大されなければならない。そのために必要な行動は、新たな科学的証拠と事例研究の経験に基づいた新規立法、既存法の修正、執行状況の改善などである。

 

定義

13.      立法措置を推進する上で、鍵となる用語の定義に注意を払うことが重要である。多くの国々の経験に基づいた適切な定義に関するいくつかの勧告をここに述べる。本節の定義はすでにWHO枠組み条約に含まれている事項の追加である。

 

second-hand smoke(セコハンタバコ煙)」あるいは「environmental tobacco smoke(環境タバコ煙)」

14.      WHO枠組み条約第8条が言及している煙のタイプを表現するために通常使われる用語はいくつか存在する。それは「second-hand smoke」「environmental tobacco smoke」「other peoples smoke」などである。「passive smoking」「involuntary exposure to tobacco smoke」という用語は使うべきでない。なぜならフランスなどの国々では、タバコ産業がこれらの言葉を「voluntary(自発的)」な曝露ならかまわない、という立場で使っていたからである。「second-hand smoke」はSHS、「environmental tobacco smoke」はETSと略されることもあるが、これらの言葉を使うのが望ましい。このガイドラインでは「second-hand smoke」を使用する。[1]

15.      second-hand tobacco smokeは「紙巻タバコあるいは他のタバコ製品の燃焼部から発生する煙で、通常喫煙者の吐き出す煙が混合している」と定義される。

16.      smoke-free air」とは、タバコの煙の混入率がゼロ%の空気のことである。この定義は、タバコ煙が視覚的にも、嗅覚的にも、知覚的にも感知されず、測定限界以下であることが必要だが、それだけにとどまるものではない。(注:空気中にタバコ煙の成分が存在はしているものの、測定できないくらい低い濃度である場合もある。タバコ産業あるいは接客業界がこの定義の限界を悪用する危険もあることを留意すべきである。)

smoking(喫煙)」

17.      この用語は火のついたタバコ製品を所持し自由に使用できる状態を指す。所持者が実際に煙を吸ったり吐いたりしているかは問わない。

public places(公衆の集まる場所)」

18.      public places」の正確な定義は、国や地域によって異なるだろうが、立法に際しては、この言葉を可能な限り広い意味に定義することが重要である。その施設の所有者が誰であろうと、その施設に入る権利があろうとなかろうと、一般市民が出入りする可能性のあるすべての場所を含むよう定義を行うべきである。[2]

indoor(屋内)」あるいは「enclosed(壁で囲まれた)」

19.      8条は、「indoor(屋内)」の職場と公衆の集まる場所での受動喫煙からの保護を要請している。「indoor(屋内)」の定義のはらむ欠陥について、様々な国におけるこの言葉の定義の経験に深く学ぶ必要がある。この用語の定義は、できるだけ包括的かつ明確でなければならない。さらに、「indoor(屋内)」であるはずの場所を「indoor(屋内)」リストから外すような解釈がなされないように注意深く定義を行う必要がある。「indoor(屋内)」(あるいは「enclosed」)とは、屋根や壁の材質にかかわらず、またその設備が一時的なものか恒久的なものかを問わず、屋根あるいはひとつ以上の壁に囲まれたすべての場所と定義する必要がある。

workplace(職場)」

20.      workplace(職場)」は、「雇用中あるいは労働中に人々が使用しているすべての場所」として、広い意味を持つよう定義する必要がある。この「work(働く)」という意味は、報酬を目的とする労働だけでなく、通常なら報酬が払われるような労働を自主的に行う場合も包含する。さらに「workplace」には、労働が行われている場所だけでなく、働く者が雇用中に使用する付属施設あるいは関連施設も含む。例えば廊下、昇降機、階段吹抜け、ロビー、隣接施設、カフェテリア、トイレ、ラウンジ、食堂、仮設小屋などである。労働の過程で使用される乗り物も職場であり、その点について特段の配慮が必要である。

21.      個人の住宅あるいは刑務所、精神障害者施設、ナーシングホームなどの居住場所が職場である場合注意深い検討が必要である。これらの場所もまた他の人々にとっての職場であり、受動喫煙から保護されなければならない。

public transport(公衆のための交通機関)

22.      public transportは、報酬や営業上の利益のために、一般市民を運ぶすべての乗り物を含むよう定義する必要がある。タクシーも含まれる。

 

実効のある立法措置の範囲

23.      8条は、(1)屋内の職場、(2)屋内の公衆の集まる場所、(3)公衆のための交通機関、(4)「その他適切と考えられる公衆の集まる場所」において、人々を受動喫煙から保護するための実効のある対策の実施を要請している。

24.      8条は、すべての屋内の公衆の集まる場所、すべての屋内の職場、すべての公衆のための交通機関そして他の公衆の集まる場所(屋外あるいはそれに準ずる場所)を完全禁煙として「例外なき(受動喫煙からの)保護を実施する義務」を課している。健康か法律かという次元の論議においては、例外を認めることはできない。もし別の次元での論議で例外が必要となったとしても、最小限にとどめなければならない。また、すぐに例外なき保護を実行できない締約国に対して、第8条は、可能な限り早急に例外措置を解消して、例外なき保護を実現するよう行動する義務を課している。すべての締約国は、その国におけるWHO枠組み条約発効後5年以内に例外なき保護を実現するよう努力しなければならない。

25.      受動喫煙に安全レベルはない。また、第1FCTC締約国会議で承認されたように、換気、空気清浄装置、喫煙区域の限定、などの工学的対策は、受動喫煙防止対策にならない。

26.      受動喫煙からの保護は、職場として使用する自動車(たとえばタクシー、救急車、輸送車など)を含むすべての室内のあるいは囲まれた職場において実現されなければならない。

27.      本協定の条文は、すべての「屋内」の公衆の集まる施設だけでなく、「他の」(つまり屋外あるいはそれに準ずる)公衆の集まる施設も「適切な」場合は完全禁煙とするよう求めている。法制化が適切な屋外あるいはそれに準ずる場所を決める場合、締約国は、さまざまな現場の状況における健康への危険の度合いに関する証拠を検討し、健康への危険があると判断された場合は、受動喫煙からの最も実効ある保護対策を講じなければならない。

 

公衆に対策への支持と円滑な履行に関する情報を伝え、相談し、ともに行動するよう働きかけること

28.      市民社会との共同のもとで、立法活動への公衆の理解と支持を勝ち取るために、連続的な情報キャンペーンを通じて、一般市民とオピニオンリーダーに受動喫煙のリスクの問題を喚起することは、政府機関の重要な役割である。この課題で鍵となる利害関係者には、ビジネス・レストラン・接客産業団体、経営者団体、労働組合、メディア、医学医療専門家、こどもと若者を代表する組織、教育施設、宗教組織、研究組織そして一般市民などが含まれる。立法活動を進めるに当たり、影響を受ける業界あるいは他の組織・施設との協議も、受動喫煙への関心を喚起する活動に必要である。

29.      受動喫煙の害、受動喫煙被害を完全になくするには室内からタバコ煙をなくすることが科学的根拠のある唯一の解決策であること、すべての労働者が法の下に平等に保護を受ける権利を持つこと、完全禁煙環境がどちらにも有利に働くという多くの地域での経験が増えつつあり健康と経済を天秤にかける必要はないことをキー・メッセージとして伝えるべきである。

30.      利害関係者と幅広い協議を行うことは、地域社会を教育し動かし、法律の施行後の支持を勝ち取るために肝要である。法律が施行されると、法律の履行を先導する教育的キャンペーン、企業経営者や建物の管理者に対して法律から生ずる義務・責任、禁煙の表示板などの設置についての説明・伝達活動が必要となる。これらの対策を行うと、法律の履行がスムーズとなり、法律を守る自発意識が高まる。法律遵守に関して非喫煙者を鼓舞し、喫煙者に感謝するメッセージを送ると、法律の円滑な履行に一般市民の協力を得ることができる。

 

執行

 

遵守義務

31.      実効のある法律には、影響を受ける企業と個々の喫煙者に禁煙の遵守義務を負わせ、違反した場合は企業とおそらく喫煙者に罰則が課されるようにする必要がある。普通は企業に絞って強制措置を実施すべきである。この法律では、その施設の管理に責任がある所有者、管理者に遵守義務を負わせる必要がある。そして、それらの者が行うべき義務の内容を明示する必要がある。その義務を以下に示す。

(a)       入り口および他の適切な場所に喫煙が禁止されている旨の目立つ表示を掲示する義務。これらの表示の書式と内容は、保健当局あるいは政府機関が決めること。そして、一般市民が法律違反を通告できるように電話番号などの連絡方法をあわせて掲示し、その施設の苦情受付担当者名も併記するのが望ましい。

(b)       施設からすべての灰皿を撤去する義務。

(c)       規則の遵守状態を監督する義務。

(d)       施設内での喫煙を止めさせるための適切明確な段階的対策を講ずる義務。この段階とは、喫煙者への禁煙勧告、サービス提供の中止、退去勧告、法律執行機関への連絡である。

 

罰則

32.      この法律では、違反に対して罰金などの金銭的罰則を取ると明示すべきである。金額の大きさは、違反行為の度合い、それぞれの国の習慣によって変わるだろうが、それを決める上でのいくつかの原則がある。最も重要なのは、罰金を十分に高くしないと、法律が無視されたり、営業上のわずかなコスト増としか受け取られないおそれがあることである。あまりお金のない個々の喫煙者の違反抑止に比べ、企業の違反を抑止するためには、罰金額をさらに高くする必要がある。累犯に対しては、その国の他の重大な違反に対する罰則とつりあうように、罰則をさらに重苦する必要がある。

33.      金銭的罰則に加え、その国の慣行と法体系に見合った営業免許の取り上げといった行政的制裁も法律に盛り込む必要がある。こうした「最後の制裁手段」はほとんど発動されないが、確信犯的に法律違反を繰り返す企業に法を履行させるにはきわめて重要な手段である。

34.      その国の法律と文化的背景に照らして適切と思われる場合、違反に対して刑事罰を加えることを考慮してもかまわない。

 

執行の土台

35.      この法律の執行に責任を持つ担当部局を法律で決めておくべきである。そして遵守状況をモニターし、違反者を訴追するシステムも作るべきである。

36.      モニタリングには企業に対する遵守状況査察を含めるべきである。禁煙法執行のために特別の査察システムを作る必要はほとんどない。遵守状況は、既存の企業や職場の査察システムを活用するだけでモニター可能である。このためにさまざまな方策がそろっている。多くの国では、これを営業免許査察、保健衛生査察、職場の健康安全査察、防火査察などに統合することができる。これらのシステムを活用して複数の情報源から情報を得ることが重要である。

37.      可能な所では、地方レベルで査察官もしくは執行官を活用することが望ましい。これにより執行活動が増し、遵守レベルが向上する。全国的な調整機構を作り、全国で一致した対応ができるようすべきである。

38.      どのような機構を活用するかにかかわらず、モニタリングは全体的な執行プランに沿って行い、査察官の効果的な訓練プロセスを組み込む必要がある。定期査察以外に、予定外の抜き打ち査察、苦情に対応した査察などを組み合わせると効果的な査察ができる。法律が発効した直後にこのような査察を行うと、とても教育効果がある。なぜなら、違反の多くは単なる不注意でおこるからである。査察官には法律によって法の対象となる施設に立ち入り、サンプルを収集し、証拠を集める権限を付与すべきである。同様に、企業が査察官の業務を妨害することを禁止する法的取り決めも必要である。

39.      効果的なモニタリングにかかる費用はそれほど大きくない。査察官をたくさん雇用する必要はない。なぜなら、査察は既存のプログラムと人員を活用するだけで実行可能だからである。そして、禁煙法は速やかに遵守率が上がることが多くの経験で証明されている。(つまり、一般市民がよく守る。)法律の履行にあたり、企業や一般市民を積極的に教育する活動が十分行われていれば、違反はわずかしか発生しない。

40.      こうした計画自体にはあまり費用はかからないが、企業教育、査察官訓練、査察活動の連携、通常の勤務時間以外に企業査察業務をさせる時間外費用などに費用がかかる。これらのための費用を生み出す仕組みが必要である。効果的に実施されているモニタリングプログラムは、(訳注:タバコ?)税収、営業免許料、反則金などさまざまな財源から資金を得ている。

 

執行戦略

41.      戦略を持った執行により、遵守率を最大にし、法の履行を容易とし、必要な執行費用を減らすことができる。

42.      とりわけ、法施行直後の執行活動の成否が、その法律の成功と将来のモニタリングと執行の成功を左右する。多くの地域では、当初はソフトに執行するよう勧めている。その間は、違反者には警告だけを行い罰金は徴収しない。このアプローチは企業経営者に法律上の義務を教える積極的な教育キャンペーンとあわせて行うべきである。そして、企業には、当初の寛大期間あるいは移行期がすめば、もっと厳しく施行活動を行うことを知らしめておく必要がある。

43.      積極的執行期が始まったなら、抑止効果を上げるために目立つ訴追活動を行うのがよいということを多くの地域の経験が示している。意図的に法律違反をしたあるいはその地域で有名な人物の違反を確認して、迅速に確固とした行動を以って、これらの出来事が広く公衆に知られるようにするなら、当局が法の執行に真剣に取り組む断固たる意志を持っていることを社会に知らしめることができる。これにより、自主的遵守率が向上し、将来のモニタリングと執行のための費用が節約できる。

44.      受動喫煙禁止法は速やかに守られるようになるが、当局は個々の明白な法令無視の事例に迅速に断固たる対応を行うことが必要である。とくに、法律が発効した時に、法律を侮辱した行動がなされることがある。このような事例に厳しく対処することにより、遵守状態が向上し将来の努力に安心を与える。しかし、優柔不断な対応をすると、違反が急速に広がる。

 

地域社会を巻き込む

45.      モニタリングと執行のプログラムの有効性は地域社会を参加させ巻き込むことにより向上する。地域社会の支援を得て、地域住民に遵守状況のモニタリングと違反の通報をしてもらうようにすると、執行機関のリーチが大きく広がり、遵守率向上のためのコストが節約できる。この理由で、屋内禁煙法には、地域住民がクレームを申し立て、個人やNGOが受動喫煙をなくする対策を遵守するように迫る行動を起こす権利を書き込んでおくべきである。この執行プログラムには無料の苦情電話ホットラインあるいは住民による違反の告発を奨励するシステムを入れるべきである。

 

対策のモニタリングと評価

46.      受動喫煙を減らす対策のモニタリングと評価は以下の理由で重要である。

(a)       法律の条文を強化し拡大するための政治的大衆的支持を増やすため

(b)       他の国や地域に成功の経験を伝えて運動を援助するため

(c)       対策の実行を妨害するタバコ産業の策動を明らかにして広く知らせるため

47.      モニタリングと評価の範囲と複雑さは、専門家と資金に規定され、国や地域で大きく異なる。しかし、職場や公衆の集まる場所の受動喫煙曝露に関する指標を用いて、履行された対策の効果を評価することは重要である。これには費用効果に優れた方法がある。例えば、職場査察の日常活動で得られたデータを活用するなど。

48.      鍵となるプロセスおよび効果の指標は8項目にわたる。(受動喫煙からの保護に関するWHO政策勧告には、これらの指標すべてについて今までに行われたモニタリング研究の参考文献とリンクが示されている)

プロセス

(a)       一般住民および特定の層、例えばバー従業員の屋内禁煙対策についての知識、態度、支持の状況

(b)       屋内禁煙対策の執行と遵守状況

成果

(c)       職場と公衆の集まる場所における労働者の受動喫煙曝露減少

(d)       職場(特にレストラン)と公衆の集まる場所の空気中のタバコ煙成分の減少

(e)       受動喫煙による死亡と障害の減少

(f)        個人の住宅における受動喫煙の減少

(g)       喫煙率と喫煙関連行動の変化

(h)       経済的効果

 

 

【参考資料】

各国・各地域の受動喫煙防止法令

 

(a)      United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, Health Act 2006,

http://www.opsi.gov.uk/acts/acts2006/20060028.htm

(b) New Zealand, Smoke-free Environments Amendment Act 2003,

http://www.legislation.govt.nz/browse_vw.asp?content-set=pal_statutes

(c) Norway, Act No. 14 of 9 March 1973 relating to Prevention of the Harmful Effects of

Tobacco,http://odin.dep.no/hod/engelsk/regelverk/p20042245/042041-990030/dok-bn.html

(喫煙区域を設けるというオプションはこのガイドラインでは推奨できないことに留意のこと)

(d) Scotland, Smoking, Health and Social Care (Scotland) Act 2005,

http://www.opsi.gov.uk/legislation/scotland/acts2005/20050013.htm

Regulations: http://www.opsi.gov.uk/si/si2006/20061115.htm

(e) Uruguay, http://www.globalsmokefreepartnership.org/files/132.doc

(f) Ireland, Public Health (Tobacco) (Amendment) Act 2004,

http://193.178.1.79/2004/en/act/pub/0006/index.html

(g) Bermuda, Tobacco Products (Public Health) Amendment Act 2005,

http://www.globalsmokefreepartnership.org/files/139.DOC

 

受動喫煙に関する重要文献

 

1.        WHO policy recommendation on protection from exposure to second-hand tobacco smoke(forthcoming, 2007).

1.        Tobacco smoke and involuntary smoking. International Agency for Research on Cancer (IARC)Monograph Vol. 83 (2004).Available at: http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol83/volume83.pdf

2.        The health consequences of involuntary exposure to tobacco smoke: a report of the Surgeon General (2006).Available at: http://www.surgeongeneral.gov/library/secondhandsmoke/

3.        California Environmental Protection Agency (CalEPA) environmental health hazard assessment of environmental tobacco smoke (2005).Available at: http://repositories.cdlib.org/tc/surveys/CALEPA2005/

 or

http://www.arb.ca.gov/regact/ets2006/ets2006.htm

4.        Joint briefing by the Framework Convention Alliance (FCA) and the UICC Global Smokefree Partnership for the meeting to develop guidelines for the implementation of Article 8 of the WHO Framework Convention. Contact: WHO’s Tobacco Free Initiative (TFI) at tfi@who.int for a copy.

5.        A resource on smoke-free success stories and challenges. This link includes perspectives on smoke-free policies, links to evaluation reports, legislation and public information campaigns, as well as implementation guidelines. Available at: www.globalsmokefreepartnership.org

6.         After the smoke has cleared: evaluation of the impact of a new smoke-free law. New Zealand, December 2006. Available at:http://www.moh.govt.nz/moh.nsf/by+unid/A9D3734516F6757ECC25723D00752D50?Open

 

■ 松崎道幸訳 2007718日 ■

 


[1] 訳者注:second-hand smokeをどう和訳したらよいかが問題である。「セコハンタバコ煙」と言っても昭和の中ごろの言葉だから、ほとんどの人には何のことかわからないだろう。「中古タバコ煙」?「間接タバコ煙」?…松崎個人としては「室内のタバコの煙」を吸わされる「受動喫煙」と言う表現が良いと思うのだが…。

[2] 訳者注:public placesを「公共施設」と訳すのは誤りである。「公衆の利用する場」「一般市民の利用する施設」という和訳が望ましいだろう。飲食店・娯楽施設もpublic placeである。