【翻訳にあたって】
和訳:松崎道幸(2013年10月)
最近バー・レストランの完全禁煙に賛成する声がアメリカの多くの州と地域から沸き起こっている。2012年11月現在、アメリカでは国民の65%ちかく(1億9800万人以上)がレストランとバーの完全禁煙を含む強力な受動喫煙防止法の施行されている地域に住んでいる。(1) レストランとバーを完全禁煙とする強力な受動喫煙防止法が必要な理由は次のとおりである。
- 受動喫煙が肺がん、心臓病、呼吸器感染症を引き起こす事は有り余る科学的知見により証明されている。(2)
- 受動喫煙防止法はレストランとバーで働く人と利用客を受動喫煙の害から守る。(3)
- 受動喫煙防止法は、タバコの誘惑のない環境を作ることにより喫煙者の禁煙成功を助ける。ちなみに喫煙者の7割は禁煙したいと思っている。(4)
全国の多くの州や地域で受動喫煙防止法が制定されるにつれて、受動喫煙法が地域経済に悪影響をもたらすというデマ(false allegations)が増えている。(5) ところが実際には、受動喫煙防止法がレストランやバーの客数、雇用、売上、利益を減らす事はないということが多くの精密な科学的経済学的分析によって証明されている。(6) 最低でもプラスもマイナスももたらさず、若干プラスの効果をもたらすという調査結果も見られる。いくつか例を挙げる。
- 2010年に発表された受動喫煙防止法の経済影響に関する論文(7)は次のように述べている。「受動喫煙防止法はレストランとバーの営業に何ら悪影響を及ぼさなかった。それどころか好影響がもたらされた事例も散見される」
- 2009年、国際がん研究機関(IARC)は、受動喫煙防止法がサービス産業にもたらす経済的影響に関する多数の論文をレビューした。その結果、科学的に妥当な手法で行われた研究は、一致して、受動喫煙防止法がレストラン、バー、観光客向けの飲食業の経営に悪影響をもたらさなかったこと、若干良好な経済効果をもたらした事例が多数見られたことを結論で述べている。これらの研究は、サービス産業の売上、雇用、レストラン・バー営業軒数に関する公式統計に基づいて行われたものである。(8)
- 2007年に発表された受動喫煙防止法に関する包括的なレビュー(9)では次の結論が述べられている。「受動喫煙防止法が経済に悪影響をもたらさず、地方経済にプラスの効果をもたらした例もあることが大多数の科学的研究で証明された。」
- 2006年の米国公衆衛生長官報告「受動喫煙の健康影響」(10)では米国各地での多くの調査成績をもとに、次のように結論を述べている。「ピア・レビュー論文に基づいた研究結果をまとめると、受動喫煙防止法令施行によるサービス接客産業の収益への悪影響は見られなかった。」
- 職場の受動喫煙防止法による経済的影響を検討した研究の包括的レビューを行ったタバココントロール誌の2003年論文(11)はこう結論している:「最良の手法で行われた研究結果をまとめると、レストランとバーの禁煙法は売り上げや雇用に全く影響を与えなかったか良い効果をもたらしたことが分かった。政策決定者は、禁煙にすると飲食業界の経営に悪影響がもたらされるというタバコ産業の主張を自信を持ってはねつけて、従業員と顧客を受動喫煙から守る対策を講ずる必要がある。」
これらの包括的分析に加えて、受動喫煙防止法がビジネスを損なわずに健康を守る方策であることを証明した州と地域の経験が多数存在する。
- ミネソタ州の10都市での調査(2010年公表)によれば、受動喫煙防止条例はバーとレストランの収益を減らさなかった事がわかった。課税対象総売上額とアルコール飲料の収益についても同様だった。(12) ミネソタ州受動喫煙防止法の施行後、同州の都市部でも地方でもバー・レストラン雇用者数の有意な変化は見られなかった。(13)
- 2008年、ワシントン州税務局(State Department of Revenue)は、2007年に企業の粗収益が大きく増加したと述べた。税務局はバー・レストラン業界が受動喫煙防止法によって収益が大きく減ると懸念していたことを認識していたが、2005年12月に発効した禁煙法の施行初年度である2006年にはわずか0.3%の増加にとどまったバー・レストラン業界の収益は、2007年には20.3%増加した。収益の伸び率は、受動喫煙防止法施行に関する住民投票(訳注:63.25%対36.75%で施行決定)以前よりも、法律施行の2年後の方がずっと大きくなっていた。(14)
- ケンタッキー州レキシントン・ファイエット郡における受動喫煙防止法の経済的影響を評価した研究が2007年に発表された。この研究は、「レキシントンがタバコ産業の盛んな地域であり、喫煙率が平均を上回っているにもかかわらず、調査期間中に受動喫煙防止法が経済的悪影響をもたらした事は見いだされなかった。」と述べている。レストラン業の雇用者数は、禁煙法が施行された後増加した(バーの雇用者数は不変だった)。法律の施行前後でバーとレストランの新規開店軒数と廃業軒数に変化は見られなかった(アルコール提供施設であると否とにかかわらず)。(15)
- 2006年7月に発表された「ニューヨーク州の受動喫煙防止法(Clean Indoor Air Act:CIAA)の経済影響」によれば「この法律はバー・レストランの営業に悪影響をもたらさなかった」と述べている。(16) この報告書では、税金の還元を求めるために必要な抽出調査対象企業から提出された1999年から2004年まで4半期毎の売上税申告用レシートをもとにして調査を行った。その結果「CIAAはニューヨーク市とニューヨーク州のバーやレストランあるいは小売業全体の売上税収に何ら変化をもたらしていなかった」。
- カリフォルニア州はレストラン(1995年)とバー(1998年)を禁煙とする法律を作った最初の州である。2005年に、バーとレストランの収益が受動喫煙防止法によってどのように影響を受けたかを検討した報告書が公表された。この法律に反対する人々は、喫煙の禁止でバーとレストランの売り上げが減るだろうと述べていた。1990年から2002年までの税収データを検討した結果、「実際に起きたのは、それまで言われていたことと反対のことだった。1995年のレストランの禁煙後、レストランの収益が増えた。1998年のバーの禁煙後バーの収益が増えた。」と言う結論が述べられている。(17)
- ハーバード大学公衆衛生学教室の研究者が行った2004年7月5日に施行された「マサチューセッツ州包括的受動喫煙防止法」に関する調査によれば、「法律の施行前後のデータを分析すると、マサチューセッツ州全体の食品とアルコール飲料の消費税収額にマイナスの影響は見られなかった。しかも、飲食業界の雇用者数やキノ(訳注:カジノで行われる宝くじの一種)の売上にも悪影響は見られなかった。」(18)
- フロリダ州経済ビジネス調査局の経済学者が行った調査によれば、住民投票によって成立し2003年7月1日に施行された受動喫煙防止法は、ホテル、レストラン、観光業界の収益と雇用に悪影響をもたらさなかった(食べ物を出さずアルコール飲料の提供に特化したstand-alone barは法律の適用除外)。州全体の経済状態との関連を見るために、収益額だけでなく、州の総小売額に対するレストラン業の売上の比率についても検討したところ、受動喫煙防止法が発効したのちにフロリダ州のレストラン、ランチルーム、ケータリングサービスの小売業の売り上げに占める割合は7.37%増加した。(19)
- 2003年3月30日、ニューヨーク市は、市内のすべてのレストランとバーを禁煙とする職場における包括的受動喫煙防止法を施行した。2004年4月にニューヨーク州の財務局、健康精神衛生局、小規模商業局、経済振興公社は報告書を発表し、次のように述べた。「発効後1年経ち、明確なデータが出た。法律施行後、レストランとバーの売り上げは増加し、雇用が伸びた。ほとんどの企業が法律を順守し、新規の酒類販売業の申請が増加した。これらの事実はニューヨーク市のレストランとバー業界が繁栄していることを物語っている。」(20) 報告書は、2002年―2003年期と比べて、2003年4月1日から2004年1月31日までのレストランとバーの事業税納入額が8.7%増加したとしている。ニューヨーク市のレストランとバーの雇用数が10600(季節調整値として2800)増加したという。(21) 2004年のザガット・ニューヨーク市レストランサーベイ(訳注:世界主要都市のレストランなどの格付け会社の調査)は、ニューヨーク市の受動喫煙防止法が経済に悪影響をもたらしていない証拠をさらに明らかにした。同市のレストラン利用者中3万人を対象にした調査では、23%が、禁煙法が出来たので今までよりも利用回数を増やしたと回答した。利用回数を減らした利用者はわずか4%だった。ザガット社はプレスリリースで「この都市に最近施行された受動喫煙防止法は、レストランの客足を減らすどころか、大きく増加させた」と述べている。(22)
- デラウエア州では、2002年11月の受動喫煙防止法施行から1年経っても、経済の悪化は見られなかった。デラウエア州アルコール飲料規制委員会のデータによれば、受動喫煙防止法の施行された年以降、レストラン、居酒屋、ホテル内のバーの新規営業申請件数は増えているという。デラウエア州労働局のデータによれば、州内の飲食業の雇用者数もまた法律施行後増えているという。(23)
- 米国疾病予防センター(CDC)の研究によれば、テキサス州エルパソの包括的受動喫煙防止政策に基づく2002年1月の法律施行後、レストランとバーの売り上げには悪影響が発生しなかった事が示された。(24) CDCとテキサス州保健局はレストランとバーの収益、酒類の売り上げ高、総売上額に占めるレストラン・バーの売り上げの比率に有意な変動がなかったと述べている。これらの事実は、バーとレストランの収益が増えたとしても経済全体の収益の伸び率には及ばないだろうと言い張ってきた受動喫煙防止法反対派の主張を論破している。
- 1999年の論文で、6州の81自治体における売上税データを分析すると、レストランでの喫煙を規制する法令を施行しても、レストランの収益に悪影響がない事が一致して示されている。(25)
- (州全体の禁煙法施行以前の)マサチューセッツ州における地域的受動喫煙防止政策の推進によっても、レストランの総売り上げに悪影響がなかったことが示されている。また、地域レベルでレストランの禁煙化を実施しても、その地域の外食中食課税売上高(訳注:レストラン、テイクアウト、ケータリング、デリカコーナー等の売上)に有意な変化は生じなかった。(26)
レストランと業界の著名なリーダーは受動喫煙防止法に賛成している
受動喫煙防止法に賛成するレストランおよびバー経営者をはじめとした業界のリーダーが増えている。それは、この法律が人々の健康を改善させ、業界の健全性を高める事を認識するようになったためである。(27)
- 2008年のザガット・サーベイ「13万2千人が選ぶアメリカのトップレストラン」によれば、「ディナーに行く場合、その地方のレストランが喫煙オーケーなら行く回数を減らすと答えた者77%、行く回数を増やすと答えた者はわずか2%と喫煙に対する反対意見は圧倒的だった。」(28) 2009年のザガット報告書では「ニューオーリンズとラスベガスは禁煙未実施の2大都市である。これは引き続き大きな問題である。受動喫煙防止法は、健康志向の顧客にとって大歓迎だろう。」(29)
- 2010年10月、コネチカットレストラン協会事務局長ニコール・グリフィン氏は、ウェストポートパッチ・オンラインで、2003年10月にレストランの禁煙法が制定された時、業界の死活にかかわる問題だと思っていたが、今では、「禁煙法はまったくレストランの経営に影響しない」と考えていると述べた。彼女は、「禁煙法が成立した時、レストラン経営者は、レストランで飲食する者がいなくなるのではないかと真剣に心配したが、実際にそのようなことは起きなかった。それから7年経った現在、バーやレストランで飲んだり食べたりするお客様が煙にさらされないようになりとても良かったと思っている。」と続けた。(30)
- ニューヨーク州レストラン協会の元会長ミカエル・オニール氏:「レストランをはじめとするあらゆる職場から喫煙をなくすことは、ビジネスにとっても、健康にとってもとても大事なことだと思う。受動喫煙防止法でビジネスが不利益をこうむることはない。カリフォルニア、ユタ、バーモント、メリーランド、メインの各州と全米の数百都市が実行してきた喫煙規制政策は、レストラン業界をはじめとしたビジネスに良い影響をもたらした。これは驚くことではない。なぜならば、喫煙者でさえタバコの煙で汚されていない空気を吸うことを望んでいるからだ。」(31)
- 「全国レストランニュース2006年7月号」の論説に次のような記述がある。「人前での喫煙は許されるべきでないという世論(The argument against smoking in public)が強まっている。今や、経営者と協会が喫煙問題についての方針を見直す時期に来ている。」 この論説では、「喫煙規制に長年反対の態度をとってきた」ペンシルバニア州レストラン協会(PRA)が「180度方針を転換して、州議会議員にレストラン、バー、カジノを含むすべての公衆の立ち入る施設の禁煙化を要請した」ことも指摘している。(32)
- ニューヨークの受動喫煙防止法に対する支持は、バーやレストラン経営者の間にも広がっている。スタテン島レストラン居酒屋協会会長ジェームズ・マックブラットニー氏の発言が、2005年2月6日付のニューヨークタイムズ紙に掲載されている。曰く「(レストランでもバーでも)業績が落ちなかったことは認めざるを得ない。」同紙はさらに次のように続けた。「彼はかってそのようなこと(訳注:バーやレストランの完全禁煙化)は夢物語だと考えていた。しかし客がそうなることを望んでいたという事実を知った。それで彼はそれに従った。」(33)
- 商工会議所などのビジネス団体の全国ならびに州と地方の組織は、受動喫煙防止法を支持している。ケンタッキー、ワシントン、ユタの各州と、アラスカ州アンカレッジ、テキサス州ビューモント、ペンシルバニア州フィラデルフィア、ニューハンプシャー州マンチェスターをはじめとする全米の数多くの商工会議所が受動喫煙防止法を支持している。20110年1月に、ケンタッキー州商工会議所の会頭デーブ・アドキッソン氏は、州の議員や健康推進グループと一緒に、州レベルの喫煙規制方針に対する賛意を表明した。ケンタッキー州商工会議所議員の86%が、ケンタッキー州の公的施設の完全禁煙化に賛成したという調査結果が得られている。「喫煙は我々ケンタッキー州民の命を奪うだけでなく、我々を破産させる」とアドキッソン氏は連邦議会で述べた。「ケンタッキー州での喫煙を減らすべきであるというのが我々ビジネスリーダーの到達した結論である」と。マンチェスター広域商工会議所副会頭クリス・ウィリアムズ氏は、「過去2か月間で、会員から我々に、州レベルの受動喫煙防止法に賛成であり、商工会議所は、受動喫煙防止法に対する賛意をおおやけに表明すべきであるという意見が極めて数多く寄せられた。商工会議所の会員であるレストランオーナーの75%がこの見解に賛成していることは実に興味深いのではないか。」と述べ、商工会議所が受動喫煙防止のための州法に賛成することを明らかにした。その理由は、「従業員の健康は、経営者にとって重要であり」「レストラン産業の業績の健全性は、喫煙禁止法令によって損なわれるものではない」からと述べていた。(34)
ビジネスリーダーが受動喫煙防止法に賛同する件に関するより詳しい情報はhttp://www.nosmoke.org/goingsmokefree.php?id=538を参照のこと。
- カリフォルニア州サンルイ・オビスポ郡商工会議所会頭ダビッド・ガース氏はこう語っている。:「(サンルイ・オビスポ郡バー・レストラン受動喫煙防止)条例が提案された時、我々は、とんでもないことだと思った。禁煙にすると、地域の収入、雇用、税収、観光客数、観光収入が減るとマジで心配した。最終的には、条例に賛成した。それは、ビジネスに悪い影響をもたらすことがなさそうだと感じたからだ。敢えて言うなら、その心配は杞憂だったわけで、禁煙にしたことで非常に望ましい結果がもたらされてよかったというのが今の正直な気持ちだ。」(35)
- カリフォルニア州のバー経営者、店長、副店長、バーテンダーに対する2002年の調査によれば、バーの受動喫煙防止州法に対する支持率は非常に高く、バーの店長と従業員の8割(83%)が、職場の受動喫煙防止条例が従業員の健康を守ると認識しており、77%がこの法令を守ることは「とても」または「かなり」たやすいと答えていた。(36)
The Campaign for Tobacco-Free Kids, November 7, 2012 |
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【引用文献】
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