2013年 2月13日掲載 | ||||||||||||||||
【PM2.5問題に関する日本禁煙学会の見解と提言】 日本では国内の受動喫煙が最大のPM2.5問題です 禁煙でない日本の飲食店内は1月13日の北京の大気と同じPM2.5レベルです |
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NPO法人 日本禁煙学会(理事長 作田学) 〒162-0063 東京都新宿区市谷薬王寺町30-5-201 http://www.nosmoke55.jp/ 2013年2月9日 PDF版はこちら(12ページ、884KB) |
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下のグラフは、東京都のホームページに掲載された北京と東京のPM2.5のグラフです。後で述べますが、日本において、禁煙でない飲食店内のPM2.5は、数百㎍/㎥に達するのです。まず日本国内の受動喫煙をなくすことが、私たちの健康を守るために最優先で実行しなければならないいことだと考えます。 【出典】東京都環境局Hp http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/air/air_pollution/map_information/taikipm2.5.html この後、問答形式でPM2.5と受動喫煙の問題を説明します。なお、正式には「PM2.5」と2.5を下付4分の1で表示すべきですが、ワープロソフトの都合で「PM2.5」と表示します。
PM2.5(ぴーえむ・にーてんご)とは、空気に含まれる直径が千分の2.5ミリ未満の微小粒子のことです。 1立方メートルの空気に含まれる重さ㎍/㎥(マイクログラム/立方メートル)であらわされます。PM2.5は物が燃えることによって発生します。工場や一般家庭、交通機関で化石燃料を使うとPM2.5が沢山出ます。もちろんタバコの煙にもたくさん含まれています。
PM2.5の主成分は、元素状炭素(いわゆる黒いスス)、有機炭素(芳香族炭化水素などの発ガン物質等)、硫酸イオン、硝酸イオン、アンモニアなどの化学物質と重金属です。 PM2.5はとても小さいので、たやすく肺の一番奥の肺胞まで入り込み、そこで様々な病気をおこします(★)。 (★)屋外気のPM2.5組成:平成23年7月東京都微小粒子状物質検討会 http://118.67.92.222/air/pm25v23.pdf#search='pm2.5+%E3%81%9F%E3%81%B0%E3%81%93+%E6%88%90%E5%88%86 (★)タバコ煙由来PM2.5の組成:微小粒子状物質(PM2.5)等発生源調査結果報告書(東京都環境局環境改善部東京都環境科学研究所) http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/air/attachement/02_hassei.pdf#search='PM2.5+%E6%88%90%E5%88%86+%E3%81%9F%E3%81%B0%E3%81%93
PM2.5が多いと、心臓病や喘息、肺ガンなどが増え、死亡率が高まります。アメリカなどでの調査によると、PM2.5が10㎍/㎥増えると、心臓や肺の病気の死亡率が9%、肺ガン死亡率が14%、全死亡率が6%増えます(下表)。大気汚染はすべての住民に影響しますから、PM2.5 がわずか10㎍/㎥増えるだけで、その地域の住民の死亡率が6%増えるという深刻な事態が起きます。 PM2.5による死亡率増加度 【出典】Arden Pope III C, et al. Lung Cancer, Cardiopulmonary Mortality, and Long-term Exposure to Fine Particulate Air Pollution.JAMA. 2002;287:1132-1141. http://jama.ama-assn.org/cgi/content/full/287/9/1132 世界保健機関は規制目標とすべき大気のPM2.5を24時間値で25㎍/㎥未満、年平均で10㎍/㎥未満とすることを勧告しています。 日本は当面15㎍/㎥を目標としています(★)。 (★)WHO Air quality guideline 2005年改訂版 http://whqlibdoc.who.int/hq/2006/WHO_SDE_PHE_OEH_06.02_eng.pdf
米国の環境保護庁が作った空気の質ガイドラインを紹介します。多くの国では、このガイドラインに沿って、大気汚染の評価と必要な警報を出しているようです。下の表をご覧ください。(右2列は、前に述べた世界保健機関のリスク評価に基づいた死亡率の増加度を示しました) 緑なら良好、黄色は弱者に影響のおそれ、赤は多くの人々に危険というレベルです。北京周辺のPM2.5は最下段のHazardous(緊急事態)のレベルです。 ところで、日本の厚生労働省は、職場内のPM2.5の上限を100㎍/㎥と定めています。これは赤の危険レベルの中央値です。日本禁煙学会は、この科学的リスク評価に基づかない厚労省の粉じん濃度基準を10倍厳しくするよう主張しています(★)。
【出典】受動喫煙ファクトシート2:敷地内完全禁煙が必要な理由(日本禁煙学会Hp) http://www.nosmoke55.jp/data/1012secondhand_factsheet.pdf
最近、気象とエネルギー使用の特質により、およそ100㎍/㎥程度だった北京周辺のPM2.5が数百㎍/㎥まで増加するようになり、高齢者、小児、病弱者に健康被害が激増することが強く懸念されています。 下図は、2010年頃の衛星で観測された中国と日本周辺の大気のPM2.5の分布です。(色分けは上記の屋外大気の質ガイドラインと違いますのでご注意ください) 北京周辺の茶色の部分のPM2.5は50~100㎍/㎥です(空気の質ガイドラインで赤=危険)。最近の北京周辺では、茶=緊急事態に分類されます。日本は全体として空色中心で10㎍/㎥前後、東京の丸印の色が黄色なので20㎍/㎥程度と言うことになります(ガイドラインで緑~黄)。 衛星観測による地表面大気PM2.5濃度分布 【出典】Donkelaar et al. Global Estimates of Ambient Fine Particulate Matter Concentrations from Satellite-Based Aerosol Optical Depth: Development and Application. Environ Health Perspect 118:847–855, 2010. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2898863/pdf/ehp-118-847.pdf
実は1970年代の日本の大都市では、今の中国に近い粉じん汚染があったのです。グラフは最近40年間の大阪の「浮遊粉じん濃度」を示しています。浮遊粉じん濃度を0.7倍するとPM2.5の近似値となります。日本では、公害をなくすための多くの方々の取り組みの結果、大気汚染問題が大きく改善されてきました。中国の大気汚染の状況が一刻も早く改善することを願っています。 ただし、今の日本でもPM2.5が数百㎍/㎥の場所が沢山あるのです。 大阪市におけるハイボリウムエアサンプラーによる浮遊粉じん濃度の経年変化 【出典】大阪市調査研究課(都市環境グループ - 大気環境部門) 業績2012年4月4日 http://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000008137.html
下のグラフをご覧ください。これは日本禁煙学会の受動喫煙ファクトシートに掲載されている、わが国の飲食サービス業の店内(車内)のPM2.5です。全面禁煙の店舗以外は、ほとんどすべてでPM2.5が100㎍/㎥を越えており、自由喫煙の居酒屋などは、北京の最悪汚染時に匹敵するPM2.5レベルとなっています。日本では屋外の空気がだいぶきれいになったのに、生活の大半の時間を過ごす屋内では、タバコの煙で汚された空気を吸うことを強いられる利用者と従業員の方が沢山おられるのです。飲食サービス業における受動喫煙問題こそ、一刻も早く解決しなければならない日本の空気汚染問題です。日本のPM2.5問題の最大焦点は、毎日の大半を過ごす屋内での受動喫煙をどうなくすかにあります。 日本の様々な飲食サービス業店内(車内)のPM2.5濃度 【出典】受動喫煙ファクトシート 2 敷地内完全禁煙が必要な理由(日本禁煙学会Hp) http://www.nosmoke55.jp/data/1012secondhand_factsheet.pdf
受動喫煙のPM2.5の方が屋外のPM2.5より毒性が高い可能性があります。 先に屋外の大気のPM2.5が10㎍/㎥増えると、全死亡率が6%増えることを示しましたが、実は、家庭での受動喫煙で非喫煙者の全死亡率が14~75%増えることが明らかにされています。 【出典】なぜ100%受動喫煙防止法が必要なのか?「職場その他の公共的空間における受動喫煙防止法」実現のために:スライド5(日本禁煙学会Hp) 5文献出典は文末に記載(◆) http://www.nosmoke55.jp/action/1211ets_ban.pdf また、喫煙者のいる家庭の屋内のPM2.5濃度は、喫煙者のいない家庭より約30㎍/㎥高いことがわかっています(★)。 (★)宮崎竹二他.沿道周辺住宅における浮遊粉塵濃度の測定 生活衛生52: 13-25,2008. http://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei/52/1/13/_pdf/-char/ja/ 10㎍/㎥に付き6%死亡率が増加するという世界保健機関のデータをあてはめると、PM2.5が30㎍/㎥増加した家で過ごすと、全死亡率が18%増加することになります。これは上に示した家庭での受動喫煙による全死亡率増加度の範囲の下限にちかい結果となっており、受動喫煙由来のPM2.5の方が毒性が強い可能性があることを示しています。したがってPM2.5の数字が同じでも、受動喫煙のほうが大気汚染より健康影響が大きい可能性があるのです。
あります。 世界の様々な国や地域で職場、レストラン、バーでの喫煙を完全に禁止する法律を施行すると、心臓病、脳卒中、呼吸器疾患の入院率がすみやかに15~39%減ったことが明らかにされました。入院率と死亡率はパラレルに動きますから、完全禁煙によってPM2.5が激減し、入院率も死亡率も明らかに減ることが証明されました。しかも、レストランやバーで過ごす時間は職場や家庭で過ごす時間よりもずっと短いにもかかわらず、それらの場所が完全禁煙になっただけで、心臓病や脳卒中による入院の危険が30%前後も減るのですから、飲食施設での短時間の受動喫煙がいかに大きな悪影響をもたらしていたかに驚きを禁じ得ません。 【出典】Tan CE, Glantz SA. Association between smoke-free legislation and hospitalizations for cardiac,cerebrovascular, and respiratory diseases: a meta-analysis. Circulation. 2012 Oct 30;126(18):2177-83. http://circ.ahajournals.org/content/126/18/2177.full
国立がんセンターの試算によれば、職場の受動喫煙で亡くなる人は毎年3653名となっています。しかしこの数字は、受動喫煙で起きる病気の一部だけで計算したものですので、実際にはもっと大きな数字になると考えたほうがよさそうです。 さて、職場が禁煙でないことで毎年何千人もの命が奪われていることは、一刻も放置できない問題です。毎年交通事故で亡くなる人が5千人前後、労働災害による死亡が1200人前後であることを考えるなら、職場の受動喫煙がもたらしている健康被害は実に大きなものといわなくてはなりません。 各データの出典は文末に記載(◆◆)
その通りです。 とくに、現在日本の飲食店労働者281万人中、22万人が未成年者(女子13万人・男子9万人)、65万人が20歳から39歳までの女性であり、飲食店従業員の約3人にひとりは、こどもと生殖可能年齢の女性となっています。さらに、98万人は様々な病気が起きやすい50歳以上の中高年層であり、飲食店で働く人々の3分の2近くが、受動喫煙の悪影響を受けやすい階層となっています。したがって、飲食サービス業界の受動喫煙対策を他の分野より遅らせなければならない理由は一切なく、一刻も早くこの業界の完全禁煙化を進める必要があります。 法律でバー・レストランを完全禁煙にした国々では、喫煙従業員の禁煙が進み、体調がよくなります。また、バー・レストランを利用する人々の病気も大幅に減ることは前述したとおりです。 これらの人々を深刻な大気汚染公害レベルのPM2.5の中で長時間働かせてよいでしょうか?私たちは、自らの足元の空気環境の清浄化に取り組む義務があります。 【出典】平成21年労働力調査年報 http://www.stat.go.jp/data/roudou/report/2009/zuhyou/ft/a01800.xls
【文献出典】 (◆) Wen et al. Environmental tobacco smoke and mortality in Chinese women who have never smoked: prospective cohort study. BMJ. 2006 Aug 19;333(7564):376 ◆Hill et al. Mortality among "never smokers" living with smokers: two cohort studies, 1981-4 and 1996-9. BMJ. 2004 Apr 24;328(7446):988-9 ◆Hamer et al. Objectively measured second hand smoke exposure and risk of cardiovascular disease: what is the mediating role of inflammatory and haemostatic factors? J. Am. Coll. Cardiol. 2010;56;18-23 ◆.McGhee et al. Mortality associated with passive smoking in Hong Kong BMJ. 2005 Feb 5;330(7486):287-8. ◆He et .al. Secondhand smoke exposure predicted COPD and other tobacco-related mortality in a 17-year cohort study in China. Chest. 2012 Oct;142(4):909-18. (◆◆) 労災死 http://www.stat.go.jp/data/nenkan/zuhyou/y2619a00.xls 他殺 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2776.html 食中毒死 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1964.html アスベスト http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/chuuhisyu06/index.html 交通事故 http://www.utms.or.jp/japanese/condi/jiko.html |