2012年10月16日

東京地裁での受動喫煙訴訟が勝訴
被告の控訴取り下げにより2012年9月27日判決確定

訴訟の概要、原告の思い、判決文、厚労省への要望書などを掲載しています。

訴訟概要
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受動喫煙被害を訴えた労働者に対する不当解雇に
東京地裁が賃金支払い命じる判決確定
平成24年10月16日
岡本総合法律事務所 弁護士岡本光樹

◇平成24年8月23日判決 東京地方裁判所民事第19部
平成23年(ワ)第14265号 地位確認等請求事件 について

<事案の概要>  
平成21年(2009年)11月9日に被告(A株式会社=社長と従業員計4名)に入社した原告が、入社後、同社社長のタバコの煙に対し動悸、咳、不眠、頭痛、めまい、吐き気等の症状を生じ、ベランダで喫煙してもらうよう願い出たが、同社長は、同年12月25日に原告に退職勧奨を行い、休職を命じて就労を拒絶、平成22年(2010年)1月31日付けで本採用を不可とした。

<判決の結論>
本件採用拒否は、社会通念上是認され得る場合には当たらず、その権利を濫用したものとして無効である。民法536条2項により就労拒絶期間中の賃金(給与)の支払いを請求することができる。
 ⇒ 被告に金475万円の支払いを命じた 
 ※(被告は、2012年9月27日に控訴を取り下げ、この判決が確定した)

<判決理由の概略>
被告は、原告の本採用拒否理由として①営業能力不足、②協調性に欠ける、③1ヵ月の休職期間中のコミュニケーション不足等を主張したが、裁判所は①②をいずれも否定。③について裁判所は被告の主張をある程度認めつつも、被告の責務について言及し、社会通念上相当として是認される場合には当たらないとした。

<判決理由中の重要な判示事項>
被告代表者は、使用者の責務として(労働契約法5条 )1、原告に対し、より積極的に分煙措置の徹底を図る姿勢を示した上、就労を促し、その勤務を続けさせる必要があった。 (判決35~36頁)
被告代表者は、分煙措置の徹底を求める原告を疎ましく思う余り、原告に対し、本件解約権を行使したものである。被告の判断は、如何にも拙速というよりほかない。 (判決34頁、36頁)
労働契約法5条に健康増進法25条、労働安全衛生法71条の2の趣旨・目的等を併せ考慮すると、使用者である被告は、原告が本件雇用契約を締結し、被告に入社した当時において、原告に対し、その業務の遂行場所である被告事務室の管理に当たり当該事務室の状況等に応じて、一定の範囲内で受働喫煙の危険性から原告の生命及び健康を保護するよう配慮すべき義務を負っているものと解される。 (判決53頁)
原告の体調不良と被告事務室内における受動喫煙との間には、一定の関連性があることは否定しがたい2 (判決54頁)

<本判決の意義>
試用期間中の本採用拒否は、通常の解雇と比較し広い範囲で容認されると理解されているが、本判決は、使用者の趣味・嗜好等に基づく恣意的判断のおそれを指摘し、本採用拒否の範囲に歯止めをかけたものと言える。また、使用者が、受動喫煙に関する安全配慮義務を負っていることが、改めて明示された。
今後ますます、労働環境下の受動喫煙防止の措置が求められるとともに、試用期間中を含めた受動喫煙を巡る労使間のトラブルが回避されることを期待したい。
1使用者の労働者への安全配慮義務を定めた規定
2もっとも、判決は、このように判示しつつも、原告と被告代表者が営業(外回り)等により同室時間はそれほど多くなかったこと、原告が就労期間中に受動喫煙の診断書を提出できなかったこと(休職1か月後の診断書はあるが)、等を挙げて、受動喫煙に関する慰謝料100万円の請求については、認容しなかった。

原告 私の思い
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平成24年10月16日

 この度は、私が経験した裁判にご注目頂き誠にありがとうございます。また、貴重な時間を頂いたにもかかわらず、文面での思いを伝える形だけとなり、申し訳ないとともにご容赦下さいますようお願い申し上げます。
 さて、私は被告会社に平成21年11月9日に入社しました。しかし、狭い社内で社長が社内にいる間は、電話をかけている間も含めずっと自席で喫煙をしている状況でした。
 私と社長との距離は一つ机を隔てただけですので、4メートル以内です。私は11月の出勤日は毎日終日社内研修を受けており、社長もほとんど社内にいることが多かったため、毎日7時間30分から8時間30分受動喫煙の影響を受けつづけている状況でした。そういった影響で11月下旬から私は急性の受動喫煙症の症状を発症してしまいました。
 12月2日から営業に出るようになり、当初外出中はその症状がおさまっていたのですが、間もなく外出中も症状が出てしまい、夜も動悸や咳き込んで眠れない状態になるまでには時間がかかりませんでした。当然、社内にいる最中は受動喫煙症の症状は継続して出ていましたので、社長に社内環境を改善して頂かないと症状がおさまないと判断しました。そこで、社長に自席のすぐ後ろにあるベランダで喫煙をしていただくように丁重にお願いしたところ、怒られてしまいました。これが引き金となり、社長は後日顧問社会保険労務士に確認した上で、「受動喫煙の症状でそんなことになるわけがない。」と勝手に断定し、就業時間中でありながら会社を追い出したのが実態です。
 以上の状況が真実であります。この会社は10年以上にわたって生損保代理店を経営しており、ガン保険を多く販売していることからも受動喫煙についてしっかりと把握していなければならない立場にあるといえます。仮にその知識がなかったとしても、社長は私からのお願いを受けた際、タバコの影響について調べなければなりませんでした。しかし、そういったこともせず私を除去し、「現在でも」社内で喫煙を続けている状況です。在籍中でも裁判中でもこのような態度・行動を改めようとしないことが非常に残念でした。生損保を販売しているにもかかわらず周辺知識が全くないばかりか、本業についての知識がないことが浮き彫りにされ、非常に残念です。世間的・一般的な常識からも受動喫煙が注目されているにもかかわらず、態度を改めてもらえなかったのが悔しいですし、苦しんだ思いです。
 今回の勝訴判決が平成24年8月23日に出ました。被告が控訴取下をしたのは、9月末です。会社を追い出されたのが平成21年12月25日でしたから、その間紆余曲折があったにせよ、通算約2年9ヶ月の戦いでした。現在の心境としましては、まずは「ほっ」としていますが、判決に不満も持っています。理由としましては、被告は上記の実質的な理由を棚上げにして、他の理由をつけて争ってきたからです。判決によりますと、こちら側が総論では勝ちましたが、各論では相手の主張が採用される点が幾つもあり、非常に残念と同時に悔しい思いがあります。
 ただ、実務上では試用期間中の解雇は、無効になる可能性が低いという状況からすると
勝訴したことは誇りに感じます。今回の受動喫煙が安全配慮義務(健康配慮義務)違反になることが近い将来、しっかりと認められ、当然の風潮となるといった布石となる判決であったことは意義があるとも感じています。
 試用期間については、判決では通常の解雇よりも認められやすい状況であるのはある意味仕方のないことかもしれません。しかし、だからと言って簡単に解雇できる、という一般的な風潮があることには愕然とします。一部の労働者を除いて、会社を発展・繁栄させるために労使一体となって頑張っていこうとするのが労働者の本位であり、本来の会社のあるべき姿です。私は一生懸命業務に従事していて、社長から「営業に向いている」と他の社員に言っていたことをその社員から伝え聞いたことがあります。にもかかわらず、ベランダで喫煙をしていただくようにお願いしただけなのに、社長の裁量一つで会社を追い出す行為はいかがなものでしょうか。私には家族がありますので、追い出すということは私だけでなく、妻・両親などの親族などにも影響が必然的に出てきます。社長にはしっかりと反省し、「人を預かること」「その家族をも支えていること」を理解して頂いて、経営して頂くように切に願っています。実際、私はその後1年3ヶ月間無職になってしまい、非常に高利率のお金を借りようとする寸前まで生活は追い込まれてしまいました。

 以上、ここまでくるのに、妻や親の支えがあったこと、岡本弁護士を始めとする応援者に支えがあってここまでくることが出来ましたので、大変感謝しております。
 約2年9ヶ月の間に、被告の顧問社会保険労務士のようにはなりたくない、という思いから、社会保険労務士だけでなく、特定社会保険労務士資格を取得しました。通常、社会保険労務士は経営をしていく上で、支払能力が一般的にある使用者側に立つことが多いのですが、私は労働者として、実際に長期間裁判をしていましたので、そこまで経験した社会保険労務士は希少だと感じています。
 今回は、文面でのみの発表となりましたが、将来「試用期間」「受動喫煙」の両方に打ち勝ったこの事例をテーマに「セミナー」を開催する予定です。その際は再度取り上げて頂けたら幸いです。
以上




記者会見の様子
左:岡本光樹弁護士 右:作田学日本禁煙学会理事長
(2012年10月16日厚労省記者クラブにて)



判決文ダイジェスト
(PDFファイル)
1 主文・概要・主張(427KB、7ページ)
2 裁判所の判断 地位確認(358KB、5ページ)
3 裁判所の判断 損害賠償(304KB、5ページ)


厚労省への要望書
試用期間中における不当解雇の禁止、及び、職場の
受動喫煙防止の徹底に関する周知・啓発の要望書
(PDFファイル164KB、1ページ)
厚労省への要望書

厚労省で要望書提出



関連報道リンク
分煙求めた社員の解雇は無効 東京地裁が判決
(2012/10/17日本経済新聞記事)‎
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(2012/10/16毎日新聞記事)
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(2012/10/16日刊スポーツ記事)
「分煙求めたら解雇」は不当 賃金支払い命じる判決
(2012/10/16朝日新聞記事)