平成19年7月2日
「特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準案」への意見
1.腹囲の基準値,男85cm,女90cmについて再検討が必要
医学的根拠が十分とはいえず,下記の記事のように,国際的にも確立している概念とはいえないのではないでしょうか。この確立しているとはいえない基準値が前面に出すぎていて,効果対費用(マンパワーを含め)の点からも,また健診や保健指導に誤り(誤指導と無指導)をもたらすケースの多発が避けられないことが危惧されることからも,見直しが必要ではないでしょうか。
2007/6/17の朝日新聞に,下記の記事が載っていました。(6/25の日経にも同趣旨が掲載)
「メタボのウエスト値 国際組織が新指標 日本側は反発 2007年06月17日
http://www.asahi.com/health/news/TKY200706160291.html
メタボリック症候群の診断基準作りに取り組む国際組織が、「男性85センチ、女性90センチ以上」とする日本のウエスト基準値と異なる「男性90センチ、女性80センチ以上」という独自の日本人向け基準を決めた。心筋梗塞(こうそく)などを起こすリスクのある人を正しく判別できるとの説明だが、日本の基準を作った側は反発している。(以下略)」
2.喫煙を,腹囲・血糖・血圧・脂質とは独立した単独リスク要因として入れ込むべき
メタボリック症候群の概念が金科玉条とされていますが,血糖・脂質・血圧が引っかからなければ,喫煙(特に現喫煙)は,単独ではリスクとみなされないため,「支援レベル」ではなく,リスクがなにもないのと同様の「情報提供レベル」になり,「異常なし」とされるのは間違っています。
最近の日本国内調査によれば,増加が懸念されているメタボリック症候群の4割以上が喫煙に起因していることが明らかになっており(腹囲・血糖・血圧・脂質関連疾患の発症リスク要因),かつ喫煙は,腹囲・血糖・血圧・脂質とは独立したリスクでもあり,健康の阻害要因として予防可能な最大のものです。有病者・予備群の減少を図るために,予防医学の観点から,喫煙(現喫煙)を単独リスク要因と捉え,喫煙者への保健(禁煙)指導を重視し,禁煙の動機付け支援・積極的支援の行動変容プログラムに入れ込むべきです。
3.特定保健指導の対象者として,腹囲が基準以上又はBMIが25以上の者であって,血糖・血圧・脂質が基準以上の者とされ,「糖尿病,高血圧症又は高脂血症の治療に係る薬剤を服用している者を除く」とされていますが(必要に応じて行うとは書かれているものの),
(3-1)薬剤服用者が主治医によって適切な保健指導(生活習慣の行動変容指導)を受けている保証はないことから,本人の健康増進と疾病予防のためには除くべきではないと考えます。
(3-2)特に現喫煙者が除かれることにより,禁煙の動機付け支援・積極的支援の機会がなくなることは,保健指導の趣旨に外れるのではないでしょうか。
4.「8.その他の保健指導」の項に,「喫煙習慣の状況‥調査の結果,必要があると認めるときは,基準にかかわらず,加入者に対し,適切な保健指導を行うよう努めるものとする。」とありますが,特に喫煙習慣については,このような努力規定ではなく,2項で述べたように,喫煙者に対しては,動機付け支援又は積極的支援レベルとすべきです。