平成19年6月7日
内閣総理大臣 安倍晋三 様
厚生労働大臣 柳澤伯夫 様
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NPO法人 日本禁煙学会理事長
作田 学
URL: http://www.nosmoke55.jp/
162-0063 東京都新宿区市谷薬王寺町30-5-201
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がん対策推進基本計画には,包括的なタバコ対策行動計画が不可欠です
5月30日のがん対策推進協議会では,喫煙率低減の目標設定は見送られ,委員の意見として,喫煙率の低減が「がん死亡率減少に重要で,数値目標として掲げることが望ましい」とする付帯意見をつけることになり,計画案は6月中に閣議決定される見込みとのことです(後記引用(C)の報道参照)。
本学会は,「がん対策・喫煙率引き下げ目標」へのJT意見に対する学会声明および政府への是正指導要請 http://www.nosmoke55.jp/action/0705jt_hihan.html を5/1に提出し,がん対策推進基本計画(案)に関するパブコメ意見も提出したところですが
http://www.nosmoke55.jp/action/0705cancer.html
(趣旨:(1)喫煙者に禁煙を促す社会環境,(2)受動喫煙をなくす社会環境,(3)青少年が吸い始めない社会環境を整える の3点の基本理念を基にして,具体的年次及び数値目標を立てることが不可欠),
がん対策推進基本計画には,包括的なタバコ対策行動計画が不可欠で,それなしにはがん対策は実効性を欠きますので,政府・内閣・官邸として,標記の行動計画策定に指導性と調整機能を発揮してくださるようお願いいたします。
記
1.がん対策の提言として,有識者や医療現場の総意として,以下が出されています。
がんの予防においてはタバコ対策が重要であることは,国際的にもエビデンスに十分に裏付けられた事実です。
また,2006年4月より,喫煙がニコチン依存症として禁煙治療の保険適用が制度化されたことからも,日本政府はこれらエビデンスに基づきタバコ対策行動計画策定に踏み出すべきです。
「がん対策の推進に関する意見交換会」提言 平成19年3月28日http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/03/dl/h0328-3a.pdf
U がんの予防・早期発見 2
提言
○ がんの予防においては、たばこ対策が重要であることから、従来より健康日本21や健康増進法に基づく対策を行ってきたが、平成17年に「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」が発効したことから、我が国においても、同条約の批准国として、同条約に規定されている各種の方策(価格、課税、受動喫煙防止、普及啓発、広告規制等)を適切に行っていく必要がある。(以下略)
2.WHOは今年2007年の世界禁煙デーのテーマとして,
「タバコの煙のない環境〜室内は禁煙 完全禁煙環境を実現しよう」
http://www.nosmoke55.jp/wntd2007.html を掲げていて,かつ以下のように日本政府を含め各国に「屋内全面禁煙」を勧告しています。日本政府もこの施策を含め行動計画が必須な所以です。
(A)屋内全面禁煙を勧告 受動喫煙防止でWHOhttp://www.sankei.co.jp/seikatsu/kenko/070530/knk070530000.htm
世界保健機関(WHO)は29日、受動喫煙の害を防ぐため、飲食店を含む公共施設と職場を屋内全面禁煙にするよう勧告した。WHOは今年の世界禁煙デー(31日)で受動喫煙の危険性をアピールする。
勧告は、分煙や換気によって受動喫煙の害を減らすことはできないと指摘。各国政府が公共の場での屋内全面禁煙を法制化し、順守を徹底させるよう求めている。
家庭での禁煙にまでには踏み込んでいないが、職場での禁煙が法制化されれば喫煙者、非喫煙者ともに自発的に家庭でも禁煙にしようとする可能性が高まるだろうと予測している。
WHOのマーガレット・チャン事務局長は「受動喫煙には安全基準などない。既に多くの国が行動を起こしており、世界中の国が屋内全面禁煙に踏み切るように求めたい」と述べた。
WHOの推計によると、世界で年間20万人が職場での受動喫煙で死亡している。またWHOと米疾病対策センター(CDC)が世界132カ国の13歳から15歳までの子供を対象に1999年から2005年にかけて実施した共同調査によると、子供たちの55.8%が受動喫煙を経験していた。(共同)(2007/05/30)
勧告の原文:(近々,本学会ホームページに掲載予定)http://www.who.int/tobacco/resources/publications/wntd/2007/PR_on_SHS.pdf
3.平成18年度税制改正大綱・予算重要政策(2005/12/15)
http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2005/seisaku-018.html
では,63ページの検討事項3に以下が盛り込まれています。
「近年,国際条約の発効や国民の健康増進の観点から,たばこ消費を積極的に抑制すべきとの指摘も出てくるなど,たばこをめぐる環境は変化しつつある。このような指摘は,財政物資というたばこの基本的性格に係わるものであることから,たばこに関するあらゆる健康増進策を総合的に検討した結果を受けて,たばこ税等のあり方について,必要に応じ,検討する。」
これは正に,がん対策推進基本計画にこそ,この政策を盛り込み,タバコ対策行動計画を進める端緒とすべきことと考えます。
【関係報道資料】
(B)「喫煙抑制 議論進まず」 が200/5/27の日経新聞に載っていますが,
http://www.eonet.ne.jp/~tobaccofree/clip/70528-24.TIF
この中で,がん対策推進のために「喫煙率減少目標」を数値目標として盛り込めば,たばこ事業法を所管する財務省が反発し,がん対策推進基本計画が閣議決定出来ない可能性を厚生労働省が恐れていて,国の政策には医療現場や有識者の声は一向に反映されない,と報じられています。
(C)がん対策の厚労省基本計画案、喫煙率低減は付帯意見
5月30日読売新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070530-00000102-yom-soci
厚生労働省は30日、4月に施行されたがん対策基本法に基づく、国のがん対策の具体的な目標を定めた初の基本計画案をまとめた。
焦点となった喫煙率の目標設定は見送られたが、がん患者や研究者などで構成する同省のがん対策推進協議会(会長=垣添忠生・国立がんセンター名誉総長)は委員の意見として、喫煙率の低減が「がん死亡率減少に重要で、数値目標として掲げることが望ましい」とする付帯意見をつけた。計画案は来月中に閣議決定される見込み。
計画案は<1>がんによる75歳未満の年齢調整死亡率を10年以内に20%減<2>すべてのがん患者と家族の苦痛の軽減と、療養生活の向上を全体目標として掲げた。
(D)【主張】がん対策 禁煙こそ重要な予防手段(産経2007/6/3)
http://www.sankei.co.jp/ronsetsu/shucho/070603/shc070603000.htm
4月に施行したがん対策基本法に基づき、国の具体的施策を定めた「がん対策推進基本計画」がまとまった。6月中に閣議決定される。
年間30万人以上の日本人が、がんで亡くなっている。がんが死因のトップになって久しい。がん撲滅を目指す初の国家戦略が動き出したことを評価したい。
基本計画は、75歳未満のがん死亡率の2割削減と、患者や家族の苦痛軽減を目標とし、その達成に向けて、(1)放射線治療と化学療法の推進(2)痛みに対する緩和ケアの充実(3)患者の状況を把握するがん登録の推進−を取り組むべき課題としてあげている。
しかし、がん予防に効果が大きく、厚生労働省のがん対策推進協議会の会合でも一度は合意されていた「喫煙率半減」という数値目標の設定は、今回の基本計画では見送られた。
日本たばこ産業(JT)から「個人の嗜好(しこう)への国家権力の介入だ」と強い反発があったことや、たばこ販売で年間約2兆2000億円の税収を得ている財務省への配慮もあったようだ。
国民の健康維持を考えると、非常に残念である。
禁煙を推し進める厚労省に対し、財務省は消極的であるなど政府部内でも立場は異なっている。ここに国の政策の大きな矛盾が存在する。
がん撲滅を国家戦略とする以上、強い因果関係があるとされる喫煙の問題については、より真剣に議論される必要がある。
国立がんセンターによれば、男性44%、女性12%の喫煙率がそれぞれ半減すれば、10年後のがん死亡率は男女合わせて1・6%減少するという。
喫煙率の低減は、がんの死亡率を引き下げるために欠かせないひとつの要素であろう。
厚労省は、5月31日の「世界禁煙デー」にあわせ、6月6日までの1週間を「禁煙週間」と定めている。
一昨年2月には「たばこ規制枠組み条約」が発効し、受動喫煙の防止やたばこのパッケージへの警告が義務づけられ、昨年4月からは禁煙治療に健康保険が適用された。路上喫煙禁止条例の制定、タクシーを全面禁煙とする動きも全国に広がっている。
禁煙環境が整ってきた。たばこと縁を切るには絶好のチャンスだろう。