日本たばこ産業(株)(JT)への行政処分と指導要請
(財務大臣宛送付)

平成19年2月16日

財務大臣 尾身幸次 様

作田 学
NPO法人日本禁煙学会理事長
Japanese Society for Tobacco Control
URL:http://www.nosmoke55.jp/
E-mail
162-0063 東京都新宿区市谷薬王寺町30-5-201


日本たばこ産業(株)(JT)への行政処分と指導のお願い

 日本政府は、2004年3月9日にFCTC(たばこ規制枠組条約)に国連本部で署名し、国会での衆議院・参議院の全会一致の承認を受けて、同年6月8日に批准しています。この批准書には財務大臣も署名しております。
 これは、たばこ事業法を所管する財務大臣は、JTをはじめタバコ会社がFCTCを遵守するよう、指導・監督すべき責務のあることを自明的に現しています。
(特にJT株式の過半を財務大臣は有しているのですから、JTへの指導・監督は極めて重要かつ可能な立場のはずです)
 しかるに、この間、JTはFCTCを踏みにじる行為が露わで、JT社自身のコンプライアンスをも破り違反しています。ここに3点に絞って例示しますので、財務大臣として、行政処分と行政指導をよろしくお願い申し上げます。


1.JTは国民の健康を真剣に考えている神奈川県のアンケート調査を妨害しています。この行為は、後述のように、JT社自身のコンプライアンス http://www.jti.co.jp/JTI/compliance/action.html 違反にとどまらず、善良な市民社会に反する悪意のある仕業です。財務大臣による行政処分と、この種の活動をやめるよう行政指導が必要です。

(1)
 新聞あるいはテレビ報道によれば、JTが「禁煙反対」の組織票をおこない、ネットアンケートに社員を動員したとあります。
「神奈川県が、公共の場所を全面禁煙にする全国初となる条例の制定について賛否を問うインターネット・アンケートで、日本たばこ産業(JT、東京都港区)が社員を動員し反対の“投票”をさせていたことが14日、わかった。
 先月26日の締め切り直前に、反対が賛成を逆転。県はネットを使わずアンケートをやり直す。 JTは「社員に回答の協力を依頼した」と動員を認め、「条例が成立すれば、ほかの自治体に波及する恐れがあった」としている。 アンケートは昨年12月27日〜1月26日、県のホームページ上で実施。受動喫煙防止に関する設問の中で、「条例で公共の場所の喫煙を規制すること」について、「賛成」「反対」を聞いた。1月20日ごろまでは賛成が反対を大幅に上回っていたが、締め切り2日前になって逆転した。回答は4047人から寄せられた。 JT本社は1月、神奈川県を担当する横浜支店(横浜市西区)などにアンケートへの協力を複数回にわたり依頼、支店から社員全員に伝えたという。社員が、それぞれ担当するたばこ販売店にも回答を依頼していたとの情報もあり、JTは「調査する」としている。 アンケートは誰でも参加でき、ネット上でアドレスを登録すれば1度回答できる方式だった。松沢成文知事は「システムの改良が必要だ」と話している。」
(2007年2月15日3時4分 読売新聞)

(2)
神奈川県の対策は以下の内容でした。

「神奈川県は受動喫煙対策を強化するため、公共施設での全面禁煙に向けた検討を始める。将来的には条例で喫煙を規制したい考えで、その第一歩として、県民を対象に、禁煙にすべきと考える施設などについて意見を募集する。公共施設での喫煙を規制する条例が制定されれば全国初となるといい、松沢成文知事は二十五日の定例会見で「先進的な喫煙ルールをつくりたい」と意欲を示した。 二〇〇三年五月に施行された健康増進法は、学校や病院など多数が利用する施設の管理者に対し、受動喫煙防止のために必要な措置を講じるよう規定。施設内を完全禁煙にするか、たばこの煙が漏れないよう壁で仕切られた喫煙室を設置することが求められているが、あくまで努力義務で罰則などはない。 これに対し、松沢知事は「努力義務では弱く、全面禁煙にすべき場所もある」と指摘。具体的には劇場、病院、学校を挙げ、「全面禁煙にすればかなりのコンセンサスが得られるのでは」と述べた。また欧米では既に法律で公共の場所を全面禁煙にする国があることなどにも触れ、「国がやらないならば、広域自治体の県が対策を実施すべき」との考えを示した。条例化までの期間については「一、二年はかかる」とした。 県民の意見は二十七日から来年一月二十六日まで、県が十二月から導入したインターネットを活用したアンケート「e-かなネットアンケート」で受け付ける。条例で喫煙を規制することについての賛否や、優先的に規制すべき施設などについて回答してもらう。回答するには登録が必要で、県のホームページにある同アンケートのトップページから登録する。 県健康増進課は「今回のアンケートは予備的なもの。来年度以降、県民、関係団体などから幅広く意見を聞いた上で、条例の必要性も含めて検討していきたい」と話している。」 というものでした。

(3)
私たちはこうした日本たばこ産業の行動について以下の見解を持っています。

(3−1)日本たばこ産業が、非喫煙者の命と健康を守る対策の実現を阻むために会社ぐるみの活動を行ったことは、最も基本的な人権のひとつである生存権を侵害する反社会的行為であるといわざるをえません。

(3−2)さらに、日本たばこ産業が自ら掲げる「行動規範」の
第12項(わたしたちは、他人の権利・財産を不当に利用・侵害せず、これを最大限尊重します。)、
13項(わたしたちは、社会から疑惑や不信を招くことがないように、透明度の高い健全かつ正常な関係を維持・確立します)、

「行動指針」の
第28項(環境に配慮した事業活動:環境法令と社内規則を遵守し、すべての事業活動において、環境にやさしい取組みを積極的に行います。)、
29項(環境問題と個人の活動:私たちは個人としても環境問題を真摯に受け止め、積極的に取り組みます。)
に反しています。

(3−3)私たちは、国民の目をあざむき、企業としての社会的責任を果さない日本たばこ産業の行動を強く非難するとともに、今後とも厳しく監視を行っていきますが、財務大臣におかれても、行政処分と行政指導をなさるべきかと考えます。


2.厚生労働省の進めてきた健康日本21計画の中間評価見直しにあたって、喫煙率低減の数値目標設定のパブコメで、賛同が以下のように多数であったにも関わらず、JTは10月20日に厚生労働省記者クラブで、これに反対する記者会見をするなどの他、ロビーイングも含め、当初の数値目標案を断念させるという、様々の圧力を加えたことが明らかになっています。
これらは、前記のJT社のコンプライアンスからしても違反行為であり、財務大臣による行政処分と行政指導が必要です。

(1)
「厚労省、喫煙率引き下げの数値目標を断念…タバコ業界反発で…
 厚生労働省は26日、喫煙率を引き下げるための数値目標の設定を見送ることを決めた。
 タバコ業界などの反発に配慮したためで、代わりに「喫煙をやめたい人がやめる」という目標を「健康日本21」の中間見直しに盛り込む。2000年の「健康日本21」策定時にも、数値目標を設定しようとして断念した経緯がある。喫煙率の数値目標の新設は、厚労相の諮問機関・厚生科学審議会の専門部会で検討されていた。
(2006年12月26日報道記事)」
と報道されています。

(2)
健康日本21に設定された国民健康づくり運動に関わる目標値の中間評価の審議が、厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会において、2004年10月より開始され、
本年8月18日に中間評価報告案が公表され、これについて、9月16日までパブリックコメントの募集が行われました。

コメント総数は876件で、「喫煙率低減の数値目標」などのタバコ分野については829件という95%もの意見が寄せられ、タバコ問題に国民の関心の高さが示されていて、
「喫煙率低減の数値の新規目標設定」の 賛成 305 反対 265 で、
しかも 第三案目標値(男性25%、女性 5%)が205人と圧倒的に、厳しい第三案の支持が多い結果でした。

(3)
このパブコメ結果の事実の重さを踏まえ、数値目標が決められると私たちは期待しておりました。11月に公表された、「喫煙率大幅減 成人男女計26.3%」(JT調査)も追い風となるはずでした。

(4)
予防しうる単一で最大の疾病と早期死亡の原因であるタバコ病対策に、たばこ規制枠組条約を先進国で率先して批准した我が国政府(厚生労働省)が、数値目標設定を見送ったことに、本学会は深い失望の念を禁じ得ないだけでなく、JT社のこのようなコンプライアンス違反を見過ごしにする財務大臣の存在に、疑念をいだかざるを得ないことを誠に残念に思います。


3.テレビアニメ「NANA」2006年12月7日放送分の例示に見られる、JTのやらせ疑念と財務大臣の行政指導の必要性について

(1)
 昨年12月7日放送のアニメ「NANA」では、冒頭で、「16の夏、タバコをセブンスターに変えた。レンが吸っていたから。」というセリフとともに、大崎ナナが自販機でセブンスターを購入するシーンがありました。

(2)
 未成年の女性が喫煙することは、未成年者喫煙禁止法に違反しています。また、若年女性の喫煙は、将来の妊娠・出産への悪影響はもとより、将来のがんや動脈硬化性疾患などのリスクの増加が懸念されており、世界的に問題視されている行為です。妊娠中の喫煙は国によっては罰金をとるなどきびしく制裁を科しているほどです。
 10代から20代の女性に人気のある漫画の中で未成年者の喫煙を容認するような描写をすることは、世界的な潮流に逆行する悪質な行為だと言わざるを得ません。
 12月7日の放送に限らず、未成年のシン(岡崎真一)などが喫煙するシーンも多く描かれています。

(3)
 また、ブラックストーン、ジタン、セブンスターなど、実在する商品が描かれている点についても問題です。番組制作上の常識として、実在の商品を番組内で扱う際には、製造元の承諾かスポンサーシップが必要であると思います。番組製作者とセブンスターの製造元であるJTとの関係に疑念を抱かざるを得ません。

(4)
 これらは、まさにProduct Placementの手法であり、JTとの契約がないとしたら、JTの商品を勝手に番組で使用していることになりますし、商品の使用許可を得ているとしたら、「16の夏、タバコをセブンスターに変えた」という違法行為を放送した責任問題が生じます。タバコ会社は、未成年の喫煙を容認しないはずですから、番組製作者側の勇み足であるのかも知れませんが、それでも、番組をチェックしなかったタバコ会社の責任も問われるでしょう。シンが吸っているブラックストーンについても、同様の問題があります。
 たとえば、シンナーを吸っている違法場面があるとして、16の夏からAペイントに変えたという場面があり得るかどうかを考えれば容易におわかりでしょう。JTはなぜ日本テレビに抗議しないのでしょうか。今現在も、抗議をした形跡すらありません。
 JTが黙っていると言うことは、やらせているとしか解釈はできません。これは日本民間放送連盟の放送基準に違反する重大なことと考えます。

(4)
 財務大臣としても、以上の事実を調査し、JTに対する行政指導等が必要ではないでしょうか。

以 上