日本禁煙学会は長野県に対し以下のことを提言します。
1:長野県は9月22日部長会議での「敷地内全面禁煙を廃し、分煙で構わない」とする決定を即時撤回し、「敷地内全面禁煙」とする。
2:長野県は県民の健康と福祉のために「敷地内全面禁煙」をさらに徹底していくように県下に広く指導・援助していく。
3:長野県は健康増進法第25条、FCTC第8条の諸法規に従い、イニシアティブを取って行政を執り行っていく。
4:長野県は中途半端な分煙対策は過ちであること、分煙のために施設を新たに設置することは地方自治法第2条違反にあたることを理解し、県民最大多数の生命を守り,福祉と健康とを最小の経費で実現していくことを追及する。
5:長野県は今回の部長会議決定の経緯を公開し、時代に逆行し県民益を損なうようなことの無い様に透明性の高い行政を担っていく。
(理由)
先日、9月22日の県庁部長会議にて敷地内禁煙が廃止となり、分煙で対応するという決定がなされたとの報道を目にしました。
これまで長野県では平成15年9月9日の部長会議で県施設建物内全面禁煙の決定がなされ(http://www.pref.nagano.jp/keiei/seisakut/tabako/030909.pdf)、禁煙サポートの実施をしながら、1年3ヶ月の猶予期間を経ての敷地内全面禁煙(http://www.pref.nagano.jp/keiei/seisakut/tabako/kenkinen.htm)としてきました。このことについては現実的で喫煙者に配慮した政策として県内外から高く評価されていました。
今回の敷地内全面禁煙の廃止、分煙の決定は時代の流れに逆行するものであり、これまでの禁煙政策を踏みにじるものでしかありません。
「後戻りはさせない」「禁煙対策は前向きに進めていく」と約束された知事の言葉からはにわかには信じられない決定であり、部長会議が知事の意向を無視して決定することがあるのでしょうか.
周知のように時代は禁煙を官民学あげて取り組んでいるところであり、健康増進法第25条により、公共施設は分煙あるいは禁煙により受動喫煙被害から利用者を守らねばなりません。
しかし官公庁においては分煙によって受動喫煙から非喫煙者を守るための分煙ガイドライン(厚生省)を達成するには多額の不必要とも言える出費が見込まれますし、人事院より「官公庁内は全面禁煙が望ましい」という指針も出ておりますので、実際には全面禁煙への道しかありません。
特に、今回の決定である「分煙」に関しては地方自治法第2条-14を根拠に「最少の経費で最大の効果を挙げる=全面禁煙」としないことに対する住民訴訟が各地で提訴されているのが現状であり、無知のためにいたずらに県民の利益を逸失する決定は長野県においても許されるものではありません。
社会的、法的に最少の経費で最大の効果を挙げるためには全面禁煙しかないのが官公庁の実際であり、まやかしの分煙にまい進しかねない今回の決定は到底県民の合意を得られるものではなく、全国からも「長野はどこまで後退するのか」と悪い意味で驚かれていることを自覚しなければなりません。
折りしも喫煙がニコチン依存症という病気であることが認定され、治療に保険が適用されるようになった現在、公共施設に喫煙所を作らない方針を明確にすることで県民への「禁煙へのキッカケ」を導くのか、曖昧な指針のままに年間10万人以上の死者をもたらす「タバコ病」へ県民を導くのかは、自治体首長のリーダーシップで決まります。
県民の生命・健康を守ることは知事に課されたもっとも重い義務であります.
また国際化社会の中で、2005年2月に発効したタバコ規制枠組み条約(WHO:FCTC)第8条「たばこ煙への曝露からの保護」にも締約国として積極的に推進することが求められており、長野の国際性が試されているといっても過言ではありません。
今年の6月に受動喫煙に関してアメリカの公衆衛生長官報告が出されました(参考を参照)。それによると,受動喫煙には安全無害のレベルがないことが科学的に証明されています.
長野県は医療費の低さ(1人あたりの医療費は全国で7位,老人医療費は一番安い),長寿(男性1位,女性4位),がん死亡率も一番低いことが良く知られていますが,これは長野県の(社)日本禁煙友愛会などの努力による喫煙率の低さに負うところが大であるということはすでに周知の事実です。
このような実証的事実があるにも関わらず,長野県民に範を示すべき県庁が禁煙施策を後退させることは許されないことです。
村井知事が禁煙されており、禁煙推進に積極的であることは既にこちらでも存じ上げていますが、現在は喫煙される一部の副知事や議会議員におきましても、執務室や控え室は公共の施設との認識を改めて確認していただき、県政に対するリーダーシップを発揮し、県民の健康で豊かな生活のためにまい進していただきたいと願います。
以上より、日本禁煙学会は長野県に対し提言します。
提言に対しお返事をいただきますようよろしくお願い申し上げます。
(参考)
1)受動喫煙の影響についての米国公衆衛生長官報告(2006年6月27日)
結論
この報告書は、1986年の公衆衛生長官報告が論じた受動喫煙を再び取り上げている。その後20年間に、受動喫煙に関する調査研究に数多くの進歩が見られ、膨大なエビデンスが発表された。本報告書は、2004年の公衆衛生長官報告で策定された因果関係の有無を示す新たな用語を用いている。各章ごとにエビデンスの包括的レビュー、適切な場合エビデンスを定量的に統合する作業、調査成績の解釈に影響する可能性のあるバイアスの発生原因の厳密な評価が行われている。本報告書のレビュー結果は、1986年度報告書の結論の正しさを再確認し補強するものだった。非喫煙者のタバコ煙への暴露について、科学的エビデンスに裏付けられた結論を以下に示す。
1. 受動喫煙は、タバコを吸わないこどもと大人の生命と健康を奪う。
2. 受動喫煙は、乳幼児突然死症候群、急性呼吸器感染症、耳の病気、重症気管支喘息のリスクを高める。親の喫煙は、こどもの呼吸器症状を増やし、肺の成長を遅らせる。
3. 大人が受動喫煙に暴露されると、ただちに心臓血管システムに悪影響があらわれる。また虚血性心疾患と肺ガンがおきやすくなる。
4. 受動喫煙に安全無害なレベルのないことが科学的に証明されている。
5. タバコ対策が相当進んだにもかかわらず、アメリカの数千万人のこどもと大人が、家庭や職場でいまだに受動喫煙にさらされている。
6. 屋内における喫煙の禁止により非喫煙者の受動喫煙暴露を完全になくすことができる。分煙、空気清浄機、エアコンディショニングによって非喫煙者の受動喫煙を防ぐことはできない。
(原文)
http://www.surgeongeneral.gov/library/secondhandsmoke/
Major Conclusions
This report returns to involuntary smoking, the topic of the 1986 Surgeon General’s report. Since then ,there have been many advances in the research on secondhand smoke, and substantial evidence has been reported over the ensuing 20 years. This report uses the revised language for causal conclusions that was implemented in the 2004 Surgeon General’s report (USDHHS 2004). Each chapter provides a comprehensive review of the evidence, a quantitative synthesis of the evidence if appropriate, and a rigorous assessment of sources of bias that may affect interpretations of the findings. The reviews in this report reaffirm and strengthen the findings of the 1986 report. With regard to the involuntary exposure of nonsmokers to tobacco smoke, the scientific evidence now supports the following major
conclusions:
1. Secondhand smoke causes premature death and disease in children and in adults who do not smoke.
2. Children exposed to secondhand smoke are at an increased risk for sudden infant death syndrome (SIDS), acute respiratory infections, ear problems, and more severe asthma. Smoking by parents causes respiratory symptoms and slows lung growth in their children.
3. Exposure of adults to secondhand smoke has immediate adverse effects on the cardiovascular system and causes coronary heart disease and lung cancer.
4. The scientific evidence indicates that there is no risk-free level of exposure to secondhand smoke.
5. Many millions of Americans, both children and adults, are still exposed to secondhand smoke in their homes and workplaces despite substantial progress in tobacco control.
6. Eliminating smoking in indoor spaces fully protects nonsmokers from exposure to secondhand smoke. Separating smokers from nonsmokers, cleaning the air, and ventilating buildings cannot eliminate exposures of nonsmokers to secondhand smoke.
|