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認知症及び介護施設入居者の喫煙に関する法的禁止措置のお願い
(日本禁煙学会声明・提言) |
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平成18年(2006年)3月14日 |
内閣総理大臣 様
総務省 消防庁長官 様
厚生労働大臣 様
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認知症及び介護施設入居者の喫煙に関する法的禁止措置のお願い
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【日本禁煙学会の要望・提言・声明】(骨子)
その1 火災予防及び受動喫煙防止を目的にしたタバコ対策として、グループホームなどの高齢者集団生活施設の敷地内禁煙、及びタバコ・ライター・マッチ類の発火元の持ち込み禁止を徹底する法の整備をお願いします。
その2 介護保険の主治医意見書や認知症診断書で喫煙厳禁と診断された高齢者では発火元であるタバコ・ライター・マッチ類の所持の禁止を義務づける法の整備をお願いします。
その3 健康増進法第25条の受動喫煙防止の義務を、このような集団生活施設にも適用すべきで、福祉職員対象の受動喫煙防止の周知、教育、研修などの義務化をお願いします。
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消防庁は2006年3月7日のパブリックコメント
認知症高齢者グループホーム等において講ずべき防火上の対策(案)についての意見募集についてhttp://www.fdma.go.jp/html/public/comment/060307.htmlの中で
「喫煙については、できる限り日常生活に近い環境で認知症の回復を促すという認知症高齢者グループホーム制度の趣旨にかんがみれば、嗜好を規制することとなる禁煙を強要することは困難であるが、共用室等の一定の場所で喫煙を行う等の一定の管理を行うこととするとともに、その実効性を確保するような管理体制を構築することが必要ではないか。」
と、根本的に間違った対策を進めようとしているので、本学会は上記提言・声明を出すものです。
2006年1月8日長崎県大村市のグループホームで火災が起き、入居していた7人の高齢者が犠牲となりました。
このような悲惨な事件を二度と起こさないために、根本的な火災予防対策が必要です。火災が起きたとき、火が燃え広がらないようにするための設備上の工夫、非難のための施設設備の拡充、避難訓練、夜間を含めた職員の避難体制の強化などについて、各施設に対する消防署の抜き打ち指導など、すでに、各地域で行なわれていることを聞いています。ところが、この長崎の事件でも、火災の原因と推定されている「施設内での喫煙」に関しては、なぜか、対策の中に盛り込まれていないのはどうしたことでしょうか。
高齢者福祉の現場では、ケアする側の都合を優先する介護に対する反省から、入居者の人権を尊重し、高齢者が自らの家にいるのと同じような状態で過ごせるような環境づくりに尽力されてきました。自宅の古い家具の使用や、食事時間の自由化、居酒屋の設置などの工夫がなされてきました。現場の皆さんのご努力には敬意を表するものです。しかし、そういう流れの中で、一部の喫煙する高齢者の喫煙欲求を容認することが高齢者のケアにおいて人権尊重であるかのように誤解され、そこは侵し難い聖域であるかのように扱われてきたことは、大きな勘違い(間違い)であると考えます。
施設内での、ごく一部の高齢者の喫煙が、火災や喫煙、及び受動喫煙により、高齢者のQOL(生活の質)・ADL(日常生活行為)を低下させ、精神状態を悪化させ、生きる機会を奪い、もっとも重大な生存権の侵害につながらないよう、その点にこそ、改善・改革のメスが入れられるべきではないでしょうか。今回、火事の後の対策に、施設内の喫煙の問題が重要視されていないことは、福祉の現場での喫煙問題に対する認識が、余りにも軽視されている結果です。
日本禁煙学会は、今後このような惨事を起こさぬよう、認知症及び介護の集団生活施設の入居者、及び在宅療養者の喫煙に関する法的禁止措置、また介護職員の意識向上のために対策を講ずることを提言いたします。この問題の背景、論拠は以下に詳しく述べます。
【長崎県大村市の火災焼死事件について】
読売新聞1月9日によれば、
(1) 施設内禁煙にもかかわらず、入居者に2名の喫煙者がおり、施設長に注意を受けることはあったが禁煙の規則が徹底されていなかった。
(2) 大村消防署長は「タバコの火の不始末の可能性もある」と話しており、警察と消防で原因を調べている。
(3) 9人の入所者は、日常生活で介助を必要とする人が多く、杖などに頼らず自力歩行可能なのは、3人だけだった。
(4) 施設は、高齢者が火の始末ができないために火災の危険があることを考慮し、オール電化で、ガスコンロや石油ストーブは使わず、暖房も空調でタバコの他は火の気がなかった。
朝日新聞1月9日によれば、
(5) 認知症の高齢者が共同生活をしていた。
(6) 建物内は禁煙で屋外のデッキなどで喫煙を指導していた。
(7) 「これまではケアの質ばかりを考え、防災は二の次だった」と長崎県の認知症高齢者グループホーム協議会長が述べていた。
(8) 総務省消防庁係長「今後の調査を踏まえ、グループホームの防災対策を検討する必要がある」と述べていた。
【日本禁煙学会が考える問題点】
日本禁煙学会では、在宅療養中の認知症の高齢者や、集団生活施設入居の高齢者に喫煙を許すことは問題であると考えます。それは以下のような理由です。
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1. 火災予防上の観点から
入居者の喫煙を許している限り、このような痛ましい火災焼死事故は今後も十分起こりうる。そもそも火の始末が難しいなど、認知症の症状のために独居が難しくなって施設入居された高齢者である。複数の入居者が暮らすオール電化の施設で、喫煙という火を使う行為を認めることは、屋外であっても、他の入居者や近隣を巻き添えにする火災・類焼のリスクが大きく、明らかに誤っている。発火する可能性のあるものは、危険防止のために、入所時に不所持とすべきで、それを入所の条件にすることは危険回避のため、また同居者の生存権を保障するために必須事項である。
(同様の不所持・没収事例として、例えば航空機では、搭乗前にライター類は没収されており、かつ搭乗中の喫煙は禁止されている)
2. 受動喫煙予防の観点から
たとえ屋外であっても、室内への煙の流入、吸った後の喫煙者の吐息や衣服から発散されるタバコの有害物質により、他の入居者・職員への受動喫煙被害も甚大である。蛍族による屋外喫煙であっても非喫煙者には悪影響があることはすでに医学的に明らかになっている。
http://www1.sumoto.gr.jp/shinryou/kituen/kinen_supportcenter/bunen_yori_kinen.htm
施設に入居される方には、動脈硬化や呼吸器疾患などで、受動喫煙により、命に関わる発作を起こす可能性のある高齢者も少なくない。受動喫煙防止の観点からも、入居者の禁煙厳守(発火元の不所持)だけでなく、訪問者を含む施設敷地内禁煙の義務づけが必要である。この対策の重要性への理解が現場で十分なされることが必須条件であるため、福祉職員の受動喫煙問題への認識を高めることが重要である。職員への受動喫煙防止の周知、教育、研修などの義務化を盛り込む必要があろう。
この受動喫煙防止は、健康増進法第25条で努力義務と定められているが、本施設では義務規定とされるべきである。
3. 喫煙を厳禁とするルールは、人権侵害とはならない
入居者の自己決定権は最大限尊重されるべきである。しかし、タバコに関して言えば、喫煙の継続は、医学的にはニコチンという依存性の薬物に操られた行動であり、その人の本来の「人間の尊厳」による自己決定に基づいた行動とは言いがたい。表面上喫煙要求が強いと、ケアする側は、喫煙の援助がその人の意志を尊重するケアであるかのように勘違いしやすい。しかし、分別が保たれているときに、「タバコをやめたい」という本音を持つ喫煙者が、喫煙者の大多数であることも各種調査から分かっている。喫煙者をタバコから遠ざけ、ニコチンの離脱症状が強い時期を過ぎれば、一般に喫煙者はタバコのことを忘れて、精神的には非常に穏やかに過ごすことができることは医学的にも明らかにされている。
タバコは脳血管性痴呆のみならずアルツハイマー病の危険因子でもあり、認知症の悪化を招く。タバコには、不安や焦燥感などを招く精神毒性があり、ストレス解消どころか、ストレスの元である。禁煙後にうつのスケールが改善することもすでに精神科分野で明らかになっている。タバコを「楽しみ」ととらえるのは明らかに思い間違いである。環境が禁煙になっていれば、喫煙欲求がぶり返しても、長続きはしない。
一方で、喫煙が発火元の火災がいったん起きれば、薬物に操られてタバコの火を持つ認知症の喫煙者のみならず、周りの人を巻き込んで、死を招く。火災により、自己決定権どころか、生存権という最も基本的な人権を奪われることになる。問答無用で火災に巻き込まれ、命を奪われた皆さんこそ、タバコという依存性薬物により基本的人権を侵害された犠牲者である。やめたいタバコがやめられない喫煙者にタバコを吸ういわば愚行権を認めることで、それよりもっと尊重されるべき生存権を侵害することは決して容認されるべきことではない。入居者の人間としての尊厳を尊重するなら、喫煙という「薬物依存による不適切な行動」を「不可侵な個人の嗜好」として擁護するのではなく、「安全に吸わせる」という選択肢を一切排除し、発火元であるタバコ・ライター・マッチ類は施設内で所持を禁止する制度を確立して、このような火災焼死事故を二度を起こさないためにルールを徹底すべきである。
類似の事例としては、敷地内禁煙の病院が近年増えてきており、かつ入院中の喫煙はドクターストップで禁煙を条件に入院が認められ、それに違反して万一にも喫煙した場合には、即退院が義務づけられるケースが当然のこととして遵守されている。
4. 禁煙のルールを徹底するのは不可能ではない
すでに、「タバコをはじめとする発火元は持ち込まず、喫煙させず」を入居の条件にしている施設も少なくなく、入居時にきちんと説明すれば、問題にはならない。たとえば、日本ロングライフ株式会社(本社:大阪市北区)の施設では、グループホームのみならず、他の高齢者施設も、入居者はもちろん従業員も喫煙をしないことを条件としている。
「安全に吸わせる」というもっともらしい選択肢を用意している施設では、今回のような痛ましい惨事はありうる。屋外に喫煙所を設けても、今回のように厳寒の折、喫煙者が職員の目の行き届かない深夜に屋内で吸うことはあり得る。ルールの徹底ができずに、受動喫煙や火災の危険を放置することになる。スタッフは安全にタバコを吸わせることではなく、入居前に喫煙していた入居者がどうしたら、ニコチンの呪縛から逃れられるのかについて全力で取り組むべきで、それは決して不可能ではない。そのことが、本来の入居者の尊厳を大事にする質の高いケアにつながる。
5.高齢者の喫煙を禁止するための書類として何が利用できるか
グループホーム入居においては、認知症の診断書の提出が求められる。その際、診断医が、喫煙禁止を書面に記載し、入居者の喫煙を禁止することができる制度を作れば、現場での混乱が防げる。また、在宅高齢者の場合は、介護保険の主治医意見書に、「喫煙を厳禁しないと火事の危険が否めない」という内容の記載があった場合、発火元であるタバコ・ライター・マッチ類は施設内での所持の禁止を義務づける制度を確立することができれば、このような火災焼死を二度を起こさないための重要な施策となるだろう。
6.施設側にとっても禁煙はメリットが大きい
上記のように、発火元を元から断つことは、施設側にとっても、余分な負担に人員や労力・設備費などを費やすことをなくし、かつ認知症患者や介護の必要な人には喫煙の自己責任を負わせることは出来ないことからも、喫煙による火災・焼死責任のリスクを施設側が回避できることになるメリットは実に大きいといえる。
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【日本禁煙学会の要望・提言・声明】(要旨再掲)
その1 火災予防及び受動喫煙防止を目的にしたタバコ対策として、グループホームなどの高齢者集団生活施設の敷地内禁煙、及びタバコ・ライター・マッチ類の発火元の持ち込み禁止を徹底する法の整備をお願いします。
その2 介護保険の主治医意見書や認知症診断書で喫煙厳禁と診断された高齢者では発火元であるタバコ・ライター・マッチ類の所持の禁止を義務づける法の整備をお願いします。
その3 健康増進法第25条の受動喫煙防止の義務を、このような集団生活施設にも適用すべきで、福祉職員対象の受動喫煙防止の周知、教育、研修などの義務化をお願いします。
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以上、高齢者集団生活施設の入居者、認知症の在宅高齢者、及び近隣の人々が喫煙による火災に巻きこまれることを抜本的に防止するために、法規制によるしっかりした禁煙規則の徹底を行い、総務省消防庁と厚生労働省など関係省庁の協議の上、至急の対処と法制化・法整備を切にお願い申しあげます。
最後に、本学会も、この火災で亡くなられた犠牲者の皆さんのご冥福をお祈りし、二度と同じような惨事を起こさぬよう根本的な問題の解決に力を注いでいきたいと思います。
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参考1:
入所者の喫煙、常態化?大村の施設火災から1週間 防火対策の徹底模索
西日本新聞 06/01/15
http://www.nishinippon.co.jp/media/news/news-today/20060115/morning_news001.html
入所者七人が死亡した長崎県大村市の高齢者グループホーム「やすらぎの里さくら館」の火災から十五日で一週間。施設は全館禁煙だったが、施設職員が同県警の調べに「火災 前日の七日を含め、入所者がたばこを吸っているのをたびたび注意していた」と証言していることが分かった。たばこの不始末が原因との見方も浮上する一方で、同じように夜勤を一人しか置けないグループホームは「火を出さないことが一番の対策」と防火対策の徹底を模索している。
「個室でたばこを吸う入所者に職員が何度も注意した」「吸うときは外で吸うように指導していた」―。同県警の事情聴取に、施設職員はこのように証言したという。火元と特定した居間からはライターの燃えかすも発見。たばこを吸う入所者の対応に苦慮していた可能性が出てきた。
たばこの始末は他の施設にとっても悩みの種。しかし、同県の福祉関係者によると「家 庭同様の生活の場」という理念から、全面禁煙とするのは困難なのが実情。大村市の別のホームも「普段はたばこを預かり、職員が付き添って喫煙させる」という原則を再確認するにとどまった。
強制力をもつ禁煙が難しいだけに「防火が最大の課題」との声は強まる。
火災から五日後の十三日、同県西海市のグループホーム「わらび苑」は、「夜勤が一人になる午前一時、台所から出火した」との想定で緊急の避難訓練を行った。職員が自宅から駆けつけ、入所者を窓から運び出すシーンも。一人を外に誘導するのに最低三分。渡辺登理事長(58)は「九人のお年寄りを職員一人で避難させるのは百パーセント無理」と 実感した。だが、夜勤者の増員は経営上困難。近隣住民との協力体制を探る動きも出始めている が、建設コストなどからホーム自体が山間部に設置される場合も多い。防火にどう備えるか。出火時、どう対応するか。各施設でも、なお模索が続いている。
参考2:
長崎新聞「声」平成18年1月21日(投稿者の許諾済)
入所施設での喫煙は禁止に(長崎県平戸市 賀來 俊,2006.1.21)
先日発生した高齢者グループホームの火災は、実に痛ましい出来事であった。
当の施設では、熱源は既に電化してあり、その後の検証からたばこの火の不始末が原因であることはほぼ確実となったようだ。
監督する行政側の反応は早く、火災報知器やスプリンクラーの設置、当直の人数などの基準の見直しが議論されているが、資金面での困難も多く、火災発生時の実効性を考えると建前論としか私には思えない。
費用対効果から考えれば、出火原因となるたばこを排除することがベストであるのだが、まるでタブー扱いだ。
禁煙にすると「隠れ喫煙」となって火事の原因となるというが、喫煙を続ける限りニコチンの誘惑は続き、その前には規則は無力である。結果として日々火災のリスクは消えない。
このような施設では、全体を禁煙にすることは権利の侵害ではない。受動喫煙の問題もあり、今回のように結果としてほかの人の健康権と生存権を犯すこととなる。「認知症は子どもに帰る」というが、そもそも子どものころは誰も喫煙はしていなかった。
入所を機会に、彼らをニコチンの呪縛(じゅばく)から開放し、自由で穏やかな日々に帰してあげよう。
参考3:
大村のグループホーム火災:夜勤体制強化など、報告書素案に盛る−長崎県
2月11日 毎日新聞朝刊
◇県の安全対策委
大村市のグループホーム火災を受けて発足した県の防火安全対策検討委員会は10日、第2回会合を開き、県が報告書の素案を示した。夜間・深夜の勤務体制強化と厚生労働省への基準見直しの要望、県独自の基準設定などを盛り込んでいる。
素案は10項目の防火安全対策を提言。このうち運営基準の「夜間・深夜時間帯は1ユニット(定員9人)に(施設に泊まり込むだけの)宿直または(終夜の勤務が義務づけられる)夜勤職員1人以上を配置」を「夜勤1人を義務化」とし、さらに「夜勤に加え宿直1人の配置に努める」とした。厚生労働省がそのための基準の見直しを行わない場合は、県独自の基準を設ける。
このほか、避難訓練を年2回以上実施する▽地域住民やボランティア団体と連携し、緊急時の支援体制を確保する▽たばこやライターの所持を禁止するなど喫煙管理を徹底し、施設での禁煙についても今後の検討課題として取り組む――などを提言している。
参考4:
大谷美津子「介護現場における各種の喫煙問題」(世論時報平成18年1月号掲載)
http://www.eonet.ne.jp/~tobaccofree/otani0601.pdf
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